胆嚢炎の患者数は、原因の一つである胆石を持つ人の数が増えているのに比例して増加しています。発症者数増加の背景には、食事の欧米化でコレステロールの摂取量が増えたこと要因とされています。
治療方法が確立されて、完治が見込まれる病気ではありますが、激しい疼痛が伴うことなどから、患者の負担は小さくありません。しっかりとした知識をベースに、患者と一緒に先を見渡しながら治療を進めることが大切です。
1、胆嚢炎とは
胆嚢炎は、胆汁がうっ滞した胆嚢に、細菌感染や科学的刺激が加わって起こる炎症です。胆汁がうっ滞する原因は90~95パーセントが胆石です。
発作時には右季肋部から上腹部に激しい疼痛が起こり、やがて右季肋部の鈍痛に変わります。痛みが小さい場合もありますが、症状を見逃すと、腸内細菌による二次感染が併発する可能性が高まります。重症化すると黄疸を伴ったり、炎症が胆嚢周辺に広がることがあります。
胆嚢炎には慢性と急性とがあり、中年以上の女性が患者の多くを占めています。治療は薬物療法などの内科的治療を行い、それでも症状が悪くなる場合は、手術や胆嚢ドレナージを行います。治療中は絶食とし、退院時には再発予防のための食事指導を行います。
2、胆嚢炎の検査
胆嚢炎の診断方法と診断基準を4つの検査項目に分けて記します。
血液生化学検査 | 胆嚢炎があると、白血球とCPRが上昇します。ビリルビン、肝・胆道系酵素が上昇した場合は、総胆結石の合併、ミリツィ症候群、肝炎の併発を考える必要があります。 |
超音波検査 | 急性胆嚢炎では、胆嚢の腫大、胆嚢壁の肥厚、胆嚢周辺の低超音波などが認められます。 |
CT検査 | CT検査は、炎症の波及状況や、穿孔、腫瘍などの合併症の診断に優れます。 |
MR胆管膵管撮影 | 胆嚢頸部、胆嚢管、総胆管結石の診断に優れます。 |
3、胆嚢炎の症状
胆嚢炎の主な症状は次の通りです。
・ 急性胆嚢炎の発作では、右季肋部、みぞおちなど上腹部痛の疼痛に、悪心、嘔吐、発熱が伴います。
・ 理学的な所見では、右季肋部の圧痛、筋性防御が見られます。 ・ 患者の季肋部を手で圧迫して上で患者に深呼吸を促すと、患者は痛みのために呼吸を途中で止めます。 ・ 慢性胆嚢炎の自覚症状は、右季肋部の軽度な痛みが繰り返し起こる程度です。はっきりとした痛みを自覚しないこともあります。 |
4、胆嚢炎の看護
胆嚢炎患者への看護目標と看護活動は、治療方針によって大きく異なりますので、以下に「胆嚢炎患者(全般)の看護」、「胆嚢摘出手術を受ける患者の術前看護」、「胆嚢摘出手術を受けた患者の術後看護」、「胆汁ドレナージを受ける患者の看護 」の4つの項目をもとに、看護目標と看護活動について解説します。
4-1、胆嚢炎患者(全般)の看護
■看護目標
・ 胆嚢の安静が保たれ、疼痛が軽減される。
・ 二次感染と合併症を予防する。 |
①腹痛の緩和
疼痛が強い場合は、少しでも痛みが和らぐ体制を探します。安楽枕や、ベッドのギャッチ機能も利用します。パジャマと寝具も体を締め付けないものを採用するなど、患者の要望に応じて柔軟に対応します。冷やすことで痛みが和らぐこともあります。
②絶食の指導
治療では、胆嚢の安静のために絶食する必要があります。水分は輸液療法で管理します。利胆薬の投与との兼ね合いを計りながら、脱水に注意する必要があります。痛みが和らいでくると、患者の食欲が大きくなります。絶食の必要性をしっかりと理解してもらう必要があります。
③食事・生活指導
脂肪性食品や刺激物を避けて、栄養バランスのよい食事を心がけます。患者の好みも優先し、ストレスの少ない生活の必要性も伝えます。右季肋部、上腹部の痛みを放置しないよう指導します。
4-2、胆嚢摘出手術を受ける患者の術前看護
■看護目標
・ 手術を受けることを理解し、心身ともに安定した状態にする。
・ 手術に対する患者と家族の不安を緩和する。 |
①黄疸、肝機能の観察
閉塞性黄疸と胆管炎の有無や程度は、手術後の回復に大きな影響を与えます。黄疸や肝機能障害の有無を十分に観察することが求められます。全身の状態を把握して異常の早期発見に努めることも大切です。
②PTCDチューブの管理
閉塞性黄疸が著しい場合は、PTCDチューブを使用するので、チューブの管理が必要です。詳しくは「PTCDの手技と合併症、看護における管理・観察項目」をご覧ください。
③全身の状態を把握
手術前には栄養状態を含む全身の状態の把握を行います。食事は、脂肪を制限し、刺激物、香辛料、アルコールの摂取は避けて、疼痛発作を起こさないよう注意します。飲食禁止の場合は、輸液管理をしっかりと行い体調管理に努めます。
4ー3、胆嚢摘出手術を受けた患者の術後看護
■看護目標
・ ドレーン・チューブの適切な管理で合併症を予防する。
・ 手術後の苦痛が最小限に抑えられる。 ・ 異常を早期に発見し、重症化を防ぐ。 |
①ドレーン・チューブの管理
手術後はドレーン・チューブが挿入されて、創部の回復促進とモニタリングが行われます。ドレーン・チューブの種類に応じた管理と、体動後の整理整頓は欠かせません。
排液の性状は、血性から漿液性に変化するのが普通です。胆汁が流出している様子があれば、すみやかに医師に報告しましょう。また、ドレーン・チューブ挿入部の皮膚の状態、胆汁性腹膜炎の症状、CチューブやPTCDチューブを使用する場合の排液の量や性状などにも注意を払います。
②患者管理沈痛法
疼痛コントロールには、早期離床が図れるために、硬膜外カテーテルを使用した患者管理沈痛法が積極的に行われています。
③合併症の予防
呼吸器合併症、イレウスなど全身麻酔の手術に関連する合併症の予防に努めましょう。また、肝機能の異常と黄疸がみられる場合は、腹腔内出血にも留意しましょう。
④食事の指導
手術後の食事は脂肪を控えめにして、咀嚼回数を増やすよう指導しましょう。
4-4、胆汁ドレナージを受ける患者の看護
■看護目標
・ 胆汁ドレナージが効果的に行われる。
・ 胆汁ドレナージの必要性が理解される。 ・ 胆汁ドレナージ中の患者の苦痛が最小限に抑えられる。 |
①チューブの管理
ドレーン・チューブが抜けないように、しっかりと固定する。張力が加わっても抜けない工夫が必要です。また、圧迫、屈曲、捻転などを常に注意します。ドレナージが不良になった場合は、すみやかに医師に報告します。
②胆汁の観察の注意点
胆汁の流出状態を観察する際は、次の点を注意します。胆汁の量と性状、ドレーン・チューブ内の血塊や空気、黄疸、便の色、尿の色、腹部症状。
③排液ボトルの管理
排液ボトルは腰より下に位置するように取り付けて、逆流に気を付けます。携帯するための工夫も必要です。排液ボトルが人目にふれない工夫も大切です。
④胆汁の漏出管理
胆汁がドレーン・チューブ周囲に漏出している場合は、消毒を施し、清潔を保ちます。
⑤血液検査データ管理
胆汁の排出に伴って電解質が変動するため、血液検査データにも留意して、代謝性アシドーシスを予防します。
⑥水分出納管理
輸液中や禁飲食中は、水分出納バランスに注意します。
⑦Tチューブ、Cチューブについて
Tチューブ、Cチューブは、自然の流出経路である十二指腸への排出を増やすためクランプを行います。その際、黄疸と胆汁性腹膜炎の症状を観察します。
⑧退院後のドレナージ
退院後もドレナージが必要な患者には、胆汁処理の方法と食事指導を行います。食事指導は、脂肪を控え、消化のよい食品や摂取方法を工夫することなどです。また、黄疸、発熱、胆汁の流出不良を確認したときは受診するよう説明します。
まとめ
以上のように、一口に胆嚢炎といっても、看護目標と看護活動は治療方針により大きく違ってきます。ここに上げた項目をしっかりと覚えた上で、落ち着いて看護にあたることが大切です。
また、完治のためには、退院後にも多くの注意が求められるケースがあり、その指導は看護師の役割ですので、退院後の再発防止や合併症の予防のために、患者本人が積極的に管理できるよう、しっかりと指導しましょう。