気胸にはさまざまな種類がありますが、特に明らかな理由もなく発症する自然気胸は、やせ型の若い男性がかかりやすいと言われています。突然の胸の痛みや呼吸困難を訴え、病院での検査や診断を経て入院し、場合によっては手術を受けることになるケースもあります。
気胸の患者に接する際には、病気の種類や特徴、重症度に合わせた治療法などの情報を踏まえた上で、適切な対処法を施したり、患者の手術や入院に対する不安感を和らげるようなケアを心がけることが重要となります。
1.気胸とは
気胸は、肺の表面を包む臓側胸膜に穴が開き、もう1つの胸膜である壁側胸膜と臓側胸膜の間に肺内の空気が漏れてしまう疾患です。気胸にかかると、肺が破れてしぼんでいくと言われています。
■気胸の症状
胸が痛くなり、その後に呼吸が苦しくなる症状が特徴的です。突然、せきが始まることもあります。症状の進行度は、肺のしぼみ具合などにもよります。ひどいケースだと呼吸ができなくなり、窒息状態に陥ることもあります。
2、気胸の種類
気胸には、色々な種類が挙げられます。内因性で発症する「自然気胸」は、原発性が多くを占めています。原発性は肺の表面にできた嚢胞が破れて起こり、背が高く、やせていて胸の薄い、10~30代前半の若い男性の発症率が高い傾向にあります。
原発性以外の自然気胸には続発性のものがあり、感染症や肺がんなどの病気によって肺に穴が開いて発症します。自然気胸は再発しやすいと言われていることも、特徴の1つです。気胸は一度かかると再発を防ぐ確実な手段は無く、手術をした場合でも再発率がゼロにはなりません。
他には交通事故や刺し傷などによって肺が損傷して起こる「外傷性気胸」、針を刺すなどの医療行為によって偶発的に胸膜に穴を開けてしまって引き起こされる「医原性気胸」もあります。
また、女性の場合、子宮内膜症が横隔膜にまで広がったことで、生理の際に横隔膜に穴が開いて胸腔内に空気が入るといったプロセスなどで起こる、「月経随伴性気胸」という種類もあります。
なお、漏れた肺内の空気によって胸腔内の圧力が高くなって、太い血管や心臓を圧迫し、肺がひどくしぼんだ状態に陥った場合は、「緊張性気胸」と呼ばれます。症状が緊張性気胸に進行した場合、血圧が低下したりショック状態になり、重篤な事態を引き起こしますので、緊急な処置が要されます。
3、気胸の重症度
気胸は、レントゲンや胸部CTなどの検査によって診断することができます。胸部レントゲンの画像の特徴から見られる自然気胸の重症度合は、以下のように分けられます。
出典:気胸の重症度による分類 社会福祉法人 恩賜財団 済生会
軽度 | 肺のしぼみは小さい。肺の一番上部は鎖骨よりも上にある。 |
中等度 | 肺のしぼみが進行している。肺の一番上部が鎖骨よりも下がっている。 |
高度 | 肺のしぼみが著しく、半分以上がしぼんでいる。 |
緊張性気胸の場合は肺が極度にしぼんでおり、さらに心臓が逆方向に押されて、気胸にかかっていない方の肺も圧迫されている状態となっています。
4、気胸の治療
気胸は軽度の場合は、経過観察をしながら自宅で安静にすることで多くは改善しますが、中等度や高度の気胸にかかったら、入院して胸腔ドレナージや手術などの施術がとられることになります。
■胸腔ドレナージ
重症度が中等・高度の気胸の場合、胸腔ドレナージという治療法がとられます。肋骨と肋骨の間に胸腔ドレーン(トロッカーカテーテル)と呼ばれるチューブを入れて、空気を抜きます。胸腔内にたまった空気を抜いて、肺が再び膨張するように促す方法です。
また、緊張性気胸が疑われる患者が運ばれてきた際に、診断結果を待たずに緊急的に胸腔ドレナージが実行されることもあります。
■外科的手術
胸腔ドレナージを行っても空気の漏れが続くなど改善がみられなかったり、左右両側に気胸が発生している場合、あるいは再発した気胸の場合は手術をして、嚢胞を除去する手段が適切です。
種類としては、開胸手術と胸腔鏡を使用した手術があります。胸に2センチほどの穴を3か所開けて、内視鏡や手術器具を差し込んで行う胸腔鏡手術はより傷口が目立たず、術後の痛みも少なくて済む手法で、最近では広く実施されています。嚢胞の場所が分かりにくい場合には、開胸手術を行います。
5、気胸の看護ポイント
気胸の患者の看護にあたる際のポイントは、患者に施される治療法によっても異なりますが、入院・手術を要する治療がとられる場合、患者の闘病生活をサポートするためにきめ細かな配慮が求められます。
■胸腔ドレナージの管理
胸腔ドレナージの治療を施す場合、やり方はもちろん、使用する装置の管理なども重要なポイントとなります。詳しくは、「胸腔ドレーンの仕組みと管理とエアリーク・抜去における看護」をご覧ください。
■入院生活のフォロー
手術が必要な患者に対しては、術前・術後のケアも含め数日間に渡る入院生活のフォローをすることが大切です。胸腔鏡手術を受けると術後も3~5日間ほどの入院が必要です。患者は手術前には採血・採尿、心電図、手術部位の剃毛や痛み止め用のチューブの挿入、手術後には状態観察や清拭、採血、レントゲン、抗生剤点滴などのケアや検査を受けます。
クリニカルパス(入院診断計画書)が取り入れられている場合、有効に活用して医師やスタッフ同士で治療計画や看護過程についての情報を共有し、連携して患者の治療や回復に向けて取り組んでいきましょう。また、クリニカルパスには患者側から見ても入院から回復までの過程や入院生活の内容が具体的に想像できるようになるという、メリットがあります。
このようなメリットを生かし、患者に対して手術当日の注意点や手術後のケアに関する情報などを、十分に提供しましょう。「食事や入浴は十分にできるのか」「術後いつから歩けるようになるのか」など、細かい疑問点にも必要に応じて事前に答えることで、手術や入院に対する患者の不安を和らげることに繋がるかもしれません。
■合併症の予防・早期発見
喫煙は、慢性的に肺を刺激することで徐々に肺の構造が破壊されていくため、気胸を誘発すると言われています。入院中はもちろん喫煙厳禁です。患者には、禁煙を徹底するようにしっかりと注意した上で、健全な入院生活が送れるように管理しましょう。
また、術後の合併症として、脳梗塞や心筋梗塞、肺炎などを発症したり、胸腔への出血が起こる可能性があります。これらの症状は通常術後2週間以内に起こると言われていますので、特に注意して患者の状態の観察に努めましょう。
まとめ
特に自然気胸の場合、若い男性がかかることが多いため、病院生活に慣れていない患者を対象に看護するケースが想定されます。初めての入院や手術を経験する患者も多いかもしれません。そんな患者の不安感を和らげ、症状や治療に対する疑問点を払拭するためにも、闘病生活を丁寧にフォローすることがポイントとなってきます。
胸腔ドレナージなど具体的な処置への取り組みはもちろん、入院や検査に関する説明、退院指導なども医師や看護師らスタッフが連携してきめ細かく取りかかることで、患者の病気や治療、再発防止策に対する理解を深めることができるでしょう。