胃がんは日本人に多いがんで、胃の切除が適用される代表的な疾患です。早期治療により治癒率は年々上がっている反面、日本人の死亡要因として依然高い位置に留まり続けています。
患者の年齢層や進行度・症状の幅が広いため、入院時や術後の看護は多角的な視点ならびに柔軟性が求められます。今回は、進行度や症状のタイプから看護体制も大きく変化する胃がんの看護についてご紹介します。
1、胃がんとは
胃がんは、胃の粘膜に悪性腫瘍が発生する病態のことを指し、環境因子によるさまざまな遺伝子変化によるものが原因とされています。
前庭部小弯および幽門部が好発部位で、はじめは胃壁内にとどまっていますが、後に肝臓や膵臓、横行結腸、横行結腸間膜、横隔膜、前腹壁などの隣接臓器へ循環増殖するほか、胃周辺のリンパ節にも転移するおそれがあります。
なお、胃がんは進行度に応じて『早期胃がん』と『進行胃がん』の2つがあります。
■早期胃がん
リンパ節転移の有無を問わず、がんの深達度が粘膜下層までにとどまる状態を指します。最近では早期胃がんが増加している傾向にあり、早期胃がん患者は胃がん患者の6割を占めています。早期胃がんの場合、早期発見・治療を行うことで多くは完治します。
■進行胃がん
固有筋層からさらに深く進行している胃がんの状態を指します。粘膜から腫瘍が盛り上がっている状態の限局隆起型(1型)、潰瘍を作り肝臓にも転移しやすい限局潰瘍型(2型)、境界のはっきりしない潰瘍がんである浸潤潰瘍型(3型)、粘膜層の下にがん細胞が木の根のように広がるびまん浸潤型(4型)の4つがあります。4型はスキルス胃がんとも呼ばれ、予後が極めて悪いことでも有名です。
2、胃がんの症状
胃がんの症状は、個々の症例によって異なり、多くは胃がん特有の症状はないことから、健康診断や他疾患の検査に伴って偶然発見されることが多々あります。
自覚症状としては悪心や嘔吐、食欲不振や胸やけのほかに、胃部腹満感や体重減少などがあります。他疾患で入院や来院をしている患者がこういった症状を訴えている場合は、医師に相談して内視鏡検査などを考える必要性を考慮しましょう。
また、がんが進行していくと貧血や痩せ、悪液質といった全身症状と共に、腹部所見として腫瘤触知、圧痛、腹水などが認められるようになります。
3、胃がん患者に対する看護計画
胃がん患者はその進行度や術前・術後、入退院後によって受ける精神的苦痛や疾患による苦痛、手術・化学療法に伴う副作用など、心身の苦痛も状態によってさまざまに変化します。
また、日本人の死亡要因として知名度の高い疾患でもあるため、患者親族への精神的苦痛の緩和も看護目標の一つに挙げられます。
患者ならびに患者親族への継続的なメンタルケアを積極的に行うほか、患者の身体の変化を注意深く観察し、身体的苦痛の軽減ならびに術後に起こりうる合併症の予防・早期発見を目指し、看護計画を組み立てていきます。
■精神的苦痛の緩和
術後にはドレーンやチューブ類が挿入されるため、術前にその重要性をきちんと説明し、理解を得ることが大切です。
また、検査や手術に対して強い不安を感じている場合があります。検査を行う場合は検査の必要性や方法をわかりやすく説明して協力を得たり、術前に行うオリエンテーションを不安なく受けられるように援助するほか、静かに休息を取れる環境づくりや受容態度で、患者や家族と接することで不安を表出でき、患者や親族との信頼関係を構築していくことも大切です。
術後は日常的に行っていた食事が制限されることでストレスを抱く可能性も配慮し、不安や苦痛を患者が表出できるように接します。
■身体的苦痛の緩和
術後に起こりうる疼痛は、麻酔薬・麻酔法によるもの、術式によるもの、手術に起因する合併症・副作用など多岐に渡ります。疼痛の発現時期や程度においては個人差が大きいものの、何かしらの疼痛は発現しますので、患者に我慢をさせることなく、適切に痛みを和らげる疼痛管理は重要な看護計画と言えるでしょう。
■合併症予防・早期発見
術後には、麻酔薬による気道や肺胞の乾燥・胸筋や骨格の運動抑制などを発端に、肺合併症を発する可能性があります。術前にパンフレットなどを用いて、合併症が発生する可能性の高いことを患者に理解してもらうと同時に、深呼吸や痰の出し方など、合併症予防の練習を行っておきます。
呼吸器関連合併症のほか、手術に伴う合併症(術後早期)として、腹腔内出血や消化管出血、縫合不全、腹腔内膿瘍、イレウス、通過障害、術後肺炎、肺塞栓症、創部・カテーテル感染などがあり、また晩期合併症としてダンピング症候群や貧血、骨粗鬆症など、さまざまな合併症の発症リスクがありますので、観察を怠ることなく、早期に発見できるよう努めます。
4、胃がん手術の種類とESDについて
胃がんの治療は、主に手術療法、化学療法、放射線治療法の3種類を状況に応じて適用することが多く、手術療法が一般的に適用される治療方法になります。胃がんの手術療法では胃全摘術、幽門側胃切除術などで行われる根治的手術や胃部分切除術、胃・腸痩造設術などの姑息的手術が行われます。
以前は開腹手術を行う手法が一般的でしたが、近年では早期胃がんであれば内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を用いて施術する方法も、『切らずに胃がんを治す方法』として広く実施されています。
しかし、早期胃がん患者すべてにこのESDが適用されるわけではなく、ガイドライン上の制約があります。ESDが適用される条件は『腫瘍の深さが粘膜内にとどまる早期胃がんで、大きさは20ミリ以内、分化型腺がんで潰瘍を伴わないもの』になります。
患者や親族がESDの存在を知っていてもガイドラインを知らないケースもあるため、相談を求められたり医師からESDが適用されないと患者や親族が申告を受けた場合は、ガイドラインの制約について理解してもらえるよう、言葉選びなどを慎重に行いながら説明を行いましょう。
5、終末期における胃がん患者との向き合い方
胃がんは進行すると他臓器に転移することが多く、遠隔転移が起こっている場合は手術不可の状況になります。そのため、終末期の治療は患者の感じる痛みを取り除く緩和療法がメインとなってくるほか、抗がん剤治療と放射線治療を同時に行うことになります。
終末期での緩和ケアにおいて何よりも重要視されるのは、患者自身や親族・関係者の思いを知るためのコミュニケーションです。限られた時間の中で、患者の希望を尊重し、親族や関係者の思いを考慮するようにしましょう。
まず、患者や親族・関係者がどのような治療目標を持っているかを知るために、それぞれの現状把握の度合いを傾聴しましょう。医療現場目線で最初から具体的な細かい医療の選択肢を提示するのではなく、患者が残された時間をどのように過ごしたいか、それを可能にするために何が大切かをきちんと汲み取ることが大切です。
まとめ
胃がんは、進行状況によって看護対応が大きく変わる反面で、一貫して患者や親族のメンタルケアが重要視される疾患でもあります。術前から患者や親族との密接なコミュニケーションを行うことが、進行状況の如何に関わらず患者の苦痛を和らげる大きなキーポイントとなります。
傾聴・受容の姿勢での声かけや、患者目線での対話を心がけ、心身の苦痛を少しでも和らげる看護を心がけましょう。