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OJTを取り入れた看護教育の現場における特徴や課題

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OJT

看護における新人教育の現場で、OJTの重要性が主張されることがあります。臨床の現場で先輩看護師から直接指導を受けながら実践を積むことができるOJTの仕組みや課題点、他の新人教育方法との連携などを踏まえ、日本の新人看護師育成システムにおけるOJTの特徴を浮かび上がらせてみましょう。

 

1、OJTとは

OJTとは「On the Job Training」のことで、職場で実際に業務を実行しながら知識や技術を身につけ、上司や先輩の助言を受けて能力を磨いていく教育訓練の方法です。さまざまな職業分野でも取り入れられている制度ですが、看護師の世界でも新人教育の場で重要なポイントを占める訓練法と言えます。

 

1-1、看護師の仕事におけるOJTとは

看護師の職場で導入されているOJTは、新卒看護師を先輩看護師が現場で業務指導をする、アメリカから取り入れられた育成プログラム「プリセプターシップ」と言われています。2004年時点の調査では、日本の病院の85・6%がプリセプターシップを取り入れていることが分かっています。

具体的なOJTの年間スケジュール例を挙げると、ある病院では新人は4月に配属部署でのオリエンテーションを経て、先輩に付き従って仕事内容を学ぶシャドウイングや日勤を体験し、5月~7月には自身が先輩から業務を観察される逆シャドウイング、日勤での受け持ち患者数の段階的増加、ペアでの土日・休日出勤や夜勤を経験します。

8~12月には日勤・夜勤ともに、指導者のフォローを受けながらも受け持ち患者の数や重症度合いが上がった状況で業務を手掛けるようになり、翌年1~3月には基本的に独り立ちできるという、流れになっています。

 

2、OJTの実態と教育方法

OJTが看護教育の中で導入されている場合、指導看護師側の新人教育力の向上が課題として挙げられることがあります。新人を指導する側の看護師の実態を浮かび上がらせた上で、教育力向上のために取り入れられている方法を紹介します。

 

指導看護師の実態―能力の違い

OJTで指導する立場となる先輩看護師にも、新人看護師への対応の仕方に差があることを示す調査結果があります。新人看護師には「そもそも自分が何を分からないのか」といった点について正確に把握できていなかったり、聞かれたことに対して返答しようとはするものの、うまく表現できていないという場面が見受けられます。しかし、先輩看護師から新人に対する対応は個人によって異なります。例を挙げると、

 

・  新人からの質問に対して答えはするものの、そのまま自分の仕事に戻ってそれ以上のフォローをする余裕がない

・  新人の様子を察して状況判断し、自主的に適切な指導をする

・  全体的に新人らの状況を観察し、困っている新人を見つけると必要な対応をした上で指導を担当している別の看護師に報告し、以降のフォローを託す

 

といった行動が報告されています。このように、指導する側の看護師にも、異常時の対応やチームプレーを支える能力に違いがあることが示されています。

 

指導看護師の実態―負担

2004年時点の調査により、日本の大半の病院でプリセプターシップが導入されていることを記しましたが、その中で特徴的なのは、プリセプターの6割程度を経験3年目未満の看護師が占めていることです。そのため、プリセプター自身が自分の知識・技術不足を痛感し、プリセプターという役割に重責を感じて重荷になってしまうという事態が生じていると言われています。

また、中堅看護師を取り巻く環境としては、OJTを通した新人指導などで業務量が増加することで疲弊し、離職に至るケースも指摘されています。OJTを実施する際の問題点としては、指導者側にかかる負担も外せないポイントとなってきます。

 

指導者のための研修も!

OJTを実施する際、指導者側はこれまでに先輩がOJTの現場でやってきていた指導方法を模倣したり、自主的に教え方を学ぶなどして、進めるケースが多いと言われています。これまでに示したように、OJTにおける指導者側の教育力の向上は急務な課題となっており、指導法や新人看護師の評価の仕方などを、より体系的に学ぶ機会を設ける病院もあります。

OJTは新人に対する研修の一環ととらえることができますが、言わば研修を行う指導者に対しても、指導のノウハウを身に着ける研修が必要となる、ということになります。具体的には、指導者自身が年間教育計画の作成や評価システム、効果的な指導法を学び、演習なども通してOJTの実践に役立つような体験ができる、という研修内容が挙げられています。

 

3、OJT(職場内研修)とOFF-JT(集合研修)

看護の新人教育における過程の中で、OJTとともによく出てくる言葉にOFF-JTがあります。OFF-JTは「Off the Job Training」のことで集合研修とも呼ばれ、OJTが職場内での実践研修であるのに対し、OFF-JTは現場を離れた職場外での学習や教育の機会になります。

 

OFF-JTの特徴

OFF-JTは、新しい知識や技術を得る機会などになります。OJTの場合、部署ごとの現場で研修を受けますが、OFF-JTでは部署を越えた全体的な学習内容を身につけることができる上に、職場を離れて学習することで、職場以外の人間関係を構築して情報交換の機会を得たり、精神的にリフレッシュすることができるというメリットもあります。

 

OJTとの組み合わせ

厚労省の新人看護職員研修ガイドラインでは、OJTとOFF-JTを組み合わせた学習を行うことが、適当とされています。新人教育をOFF-JT中心で進めた場合、新人看護師の臨床現場での看護実践体験が乏しくなるというデメリットが、生じかねません。日本看護師協会が示す「継続教育の基準(ver.2)」の解説版である活用ガイドには、OFF-JTで得られた内容の応用能力を高めるため、OJTが行われると位置づけられています。

一方、この活用ガイドの中では、OJTのみの研修を導入してしまうと、最新の知識や技術に対応する能力を開発する上で限界が生じる可能性も指摘されています。そのため、集合教育も節目ごとに取り入れていく必要がある、ということになります。OJTとOFF-JTについては、両者をバランスよく取り入れることが重要なポイントとなると言えます。

また、OJTとOFF-JTは、クリニカルラダーと密接な関わりを持っており、クリニカルラダーを用いて段階的に教育・研修を行うことで、さらなる効果の増大が期待できます。クリニカルラダーについては、「看護師の教育制度「クリニカルラダー」の評価基準と評価項目」をご覧ください。

 

まとめ

OJTは看護師以外の職種にも広く導入されており、新人教育における有効な手段と言えますが、きちんと機能するためには指導看護師側の能力向上が必要となってきます。それも、効果的な教え方や新人の評価の仕方を身に着けるだけでなく、日ごろから新人を含め職場の同僚や後輩の様子を洞察して仕事が回りやすくなるような配慮を図ったり、タイミングや相手の力量を見計らった上で適切な対処をとる能力などを磨くこともカギとなるでしょう。

看護はチームプレーが重要な役割を果たす業務でもあり、指導者側もそのような能力を向上させることが新人教育に貢献するだけでなく、自身の職場でのコミュニケーションや働きやすさをアップさせるきっかけにもなり得るのではないでしょうか。

新人看護師にとっては、現場で直接先輩の指導を受けながら実践経験を積むことができるOJTは、看護師としてのスタートを切る上で心強い制度となるでしょう。臨床現場での実践を享受できるOJTと、新しい知識や技術を学ぶ機会となるOFF-JTのいずれの長所も取り入れることで、知識と経験をバランスよく吸収・活用しつつ、独り立ちの時期に向けて成長していくことが期待されます。

 

参考文献

1)鄭佳紅「OJTによる看護師の技能とその伝承-指導・育成能力と報告・連絡・情報共有能力に焦点を当てて―」2009年『日本ヒューマンケア科学会誌第2巻第1号』

2)厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン

3)日本看護協会「『継続教育の基準ver.2』活用のためのガイドPart.2 学習資源の基準


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