日本では肝臓癌による死者は年間3万人前後。男性では肺癌、胃癌、大腸癌に次いで4位、女性では大腸癌、肺癌、胃癌、膵癌、乳癌に次いで6位(2016年、国立がん研究センターの推計値)と高率です。
患者数は2000年代初めをピークに漸減傾向にあり、これは肝炎ウイルス対策が進んできたためですが、患者は、肝硬変や慢性肝炎などを併発していることが多いため、看護においては身体的・精神的の両面から包括的なケアが必要不可欠となります。
1、肝臓癌とは
肝臓癌は、肝臓自体で発生する原発性肝癌と、他の臓器から転移した転移性肝癌に分類されます。原発性肝癌のうち90%は、肝臓の細胞に由来する肝細胞癌で、肝臓癌は肝細胞癌のことを言うのがほとんどです。そのうち肝炎ウイルスの感染が90%以上(60%がC型肝炎ウイルス、15%はB型肝炎ウイルス)を占めます。
肝細胞癌のほとんどは、慢性肝炎や肝硬変を合併しています。再発率も高く、看護の上でも配慮する必要があります。
また、近年ではB型でもC型でもない「非B非C型肝臓癌」が増加傾向にあります。中でも生活習慣の改善以外に有効な治療法が今のところ確立されていない「非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)」への対策が急務となっています。
2、肝臓癌の治療
肝臓癌の治療は、肝臓の障害度、肝癌の個数、大きさをもとにして治療法が選ばれます。
肝障害度分類 | 肝障害度A | 肝障害度B | 肝障害度C |
腹水 | なし | 治療効果あり | 治療効果少 |
血清ビルビリン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0〜3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 3.0〜3.5 | 3.0未満 |
ICGR15(%) | 15未満 | 15〜40 | 40超 |
プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50〜80 | 50未満 |
参照:日本肝癌研究会編:臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第5版補訂版.2009年:P15
■外科治療=肝切除
早期(肝障害度A、B段階)で、腫瘍数が1〜3個の場合には肝臓の一部切除が有効で、根治が期待できます。しかし、腫瘍数が多い場合、肝硬変が進行している場合は、切除は困難です。また、術後には肝不全が起きやすく、術前評価・術後管理が重要です。
■内科的治療①=局所療法
早期の肝障害度A、B段階で、肝臓癌が3センチ以下の大きさ、3個以下の場合は局所療法を選ぶことがあります。単発癌の場合、もう少し大きい癌でも選択する施設があります。
ラジオ波焼灼療法(RFA)が第一選択とされています。局所麻酔下で癌の位置を確認しながら電極針を挿入し高周波を流してまわりに発生する熱(ジュール熱)で病変部を固めます。
■内科的治療②=肝動脈化学塞栓療法(テイス)
腫瘍数が4個以上、あるいは、腫瘍の径が3センチを超える場合は肝動脈塞栓療法が選択されます。概ね進行癌の進行を止めるためのものですが、肝臓の血流を止めることで肝機能が低下しますので入念な観察が必要です。
肝動脈までカテーテルを挿入し門脈に抗悪性腫瘍薬を油性造影剤とともに注入後、ゼラチンスポンジを詰めて栓をする肝動脈化学塞栓療法(TACE、テイス)が主力です。抗癌剤を吸着させたビーズを使って塞栓する肝動脈塞栓術(TAE、ビーズテイス)が最近、保険適用になりました。
■内科的治療3=化学療法
進行性の場合、内服や注射によって抗癌剤を入れて癌増殖や進展を抑えます。「分子標的薬」とも呼ばれます。手足の皮膚反応、発疹やかゆみ、高血圧、食欲不振を含めた消化器への副作用も高率で起きるため看護が大切になります。
これ以外に肝動脈内注入療法(動注療法)があります。抗癌薬を直接、癌組織に届ける療法で、体外式動注ポンプか体内埋め込み式の動注ポンプを使い、いくつかの抗癌薬を持続して送り込む方法です。
インフォームドコンセントを図って患者が自己管理できるように指導すること、抗癌剤を使うことは同じですから副作用の観察は欠かせません。
■肝移植
肝硬変になっている組織を含めて正常な肝臓と入れ替えます。肝障害度がCまで進み、腫瘍数が3個以内で径3センチ以内、ないし単発癌で径5センチ以内が保険適応です。健康な人(ドナー)から肝臓を切除するため、その人に対するインフォームドコンセントも重要になります。
■放射線療法
切除不能な場合、肝臓の門脈が腫瘍で塞がれている場合、他臓器への転移などの場合に行われます。
3、肝臓癌の看護計画
肝臓癌も他の癌と同様、早期発見し、特に切除すれば根治する可能性が高い癌です。しかし肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、多くは慢性の肝障害で長い療養の末に肝硬変から癌に移行して見つかるか、無症状のまま末期の肝臓癌の症状が出て初めて分かる例もあります。
看護に当たっては、肝臓癌治療への対応だけでなく、肝障害の全身症状(食欲不振、発熱、倦怠感など)に対する配慮、長期にわたる闘病生活に対する支援の視点が必要です。
■看護目標
l 全身状態を評価し、術後合併症も予測して術前準備
l 外科的治療、内科的治療への精神的準備 l 術後の苦痛軽減を図る l 家族の精神的安定 |
4、術前検査、処置
肝切除の適応の場合、肝腫瘍の位置、形状、範囲などを診断するとともに、肝臓の予備能、全身状態を把握することに努める必要があります。
[術前検査]
l 肝機能一般の検査
l 腫瘍マーカー、血管造影、肝生検など肝腫瘍の診断 l 全身状態の把握 |
[術前処置]
l 栄養状態の悪い場合、栄養補給
l 血糖コントロール l 腹水のある場合、電解質異常の是正 l 食道、胃静脈瘤、胃・十二指腸潰瘍のある場合の治療 l 黄疸、腹水、肝性脳症、吐血などの症状の発現時の対応 |
5、術後の管理
特に肝硬変を伴う肝切除のあとは肝不全や、呼吸不全を中心にした多臓器不全に陥る危険を伴います。術直後には、循環不全、低酸素血症、消化管出血などからも多臓器の合併症に発展することが多く、輸液管理を中心に全身管理の対象となります。
■疼痛管理
肝臓癌患者は40歳代以降の中高年(男性が女性より多い)に多く、高齢ほど痛みが心肺機能に負担をかけ、血圧上昇や不整脈を誘発したり肺炎の併発につながったりするおそれがあるため、除痛が必要です。
■呼吸器、循環器の管理
低酸素血症は肝機能の不全の要因となるため術後の呼吸管理は重要です。肝予備能が高度に低下している場合、広範囲に肝切除した場合は、術後、レスピレータを使うのが有効です。
■輸血、輸液の管理
切除後の肝再生のためには、肝血流の維持、低酸素血症の防止、エネルギー基質の供給が重要です。術後の輸液は糖質を混ぜた電解質輸液とアミノ酸を含む輸液を投与し、新鮮凍結血漿を投与します(NA貯留傾向にある肝硬変併発例は、NAを含まない輸液製剤を用います)。
■栄養管理
肝硬変を持っていると低栄養、糖代謝、アミノ酸代謝異常などや免疫機能の低下を伴うことが多く、術前から異常を補正していくことが必要です。栄養管理には、高カロリー輸液や経口栄養剤投与が一般的となっています。
■経口摂取の開始
胃に入れていた管の抜管後、腸の蠕動と排ガスがあれば、水分→全粥と進み、その後は高カロリーの肝庇護食の摂取になります。摂取により腸管が刺激され下痢の可能性もあり、要観察対象です。
そのほか、「精神的サポート」や「清潔の保持」なども重要な看護ケアになります。
6、肝硬変と末期肝臓癌への対応
肝臓癌患者のかなり多くは肝硬変を持っていますが、繰り返し治療を行う過程で徐々に癌の増大と、肝機能の低下をきたします。肝硬変の末期状態になると痛みや腹水、黄疸、肝性脳症などの苦痛を伴うことが多い中で終末期(ターミナル期)を迎えなければなりません。
苦痛症状のコントロールに努め、精神的に落ち着いた状態で過ごすよう働きかけなければなりません。チェックすべき項目は以下の通りです。
l 栄養状態(代謝の低下、癌の増大により食欲不振、倦怠感の増加により栄養状態が下がります)
l 出血の兆候(肝機能低下により出血傾向が高まり、食道動脈瘤の予防が必要です) l 腹水、むくみの増大(門脈圧の増大、腎臓の体液貯留が起きている可能性が高く食事療法、利尿剤、治療としての穿刺が行われます) l 黄疸に関連するかゆみ(皮膚の観察と治療が欠かせません) l 意識障害(肝性脳症に移行する可能性があります) |
⇒食道動脈瘤の予防的看護と治療後(EIS・EVL)の看護実践
6-1、ターミナル期の看護目標
肝硬変を伴った肝癌は予後が悪く、急速に症状が悪化し、生命の維持に危険が迫る事態に陥ることがあります。
看護は、少しでも患者の精神的苦痛、身体的苦痛を緩和できるよう医師や家族と協力し、余生をできるだけ有意義で楽しいものになるよう努めることに重点が移ります。
l 出血(食道動脈瘤による消化管出血)傾向を観察し、異常時に医師に報告できるようにするとともに出血予防する策を取る
l 肝性脳症にならないように栄養状態を保つとともに意識レベルの観察を続ける l 不安を患者が表現でき、精神的に安定した状態で闘病生活を送れる l 痛み、かゆみが緩和され、安らかに過ごせる |
まとめ
肝臓癌は、多くが肝炎ウイルスに起因するとわかってきました。初期の癌であれば切除で根治できるものの、肝硬変を伴っていると全身症状も出て末期段階に進むことも多いやっかいな病気です。看護に当たっては、身体全体に対する総合的なケアの視点が必要です。