膵臓癌は、この疾患を原発として周辺臓器への転移例が多くみられることが特徴の癌疾患です。膵臓癌があると判明した場合は、高確率で他臓器への癌への看護計画も必要とされる状況になってきます。
今回は、同時に複数の看護計画が発生する事の多い膵臓癌の基礎知識と看護計画、そして膵臓癌発見時に転移している可能性が高い肝臓癌の看護について振り返ります。
1、膵臓癌とは
膵臓に発生する癌であり、発生の原因は不明とされています。膵臓の中でも膵管上皮由来の腺癌(膵菅癌)が多くみられ、60歳以上の男性に発生しやすいのが特徴です。また、部位別の癌発生の割合は膵頭部癌が全体の約3分の2、体尾部癌と膵臓全体を占める癌が約3分の1とされています。
膵臓そのものの大きさが小さいことや、膵臓から血管やリンパ管の多さから侵潤や周囲の臓器へと遠隔転移しやすいのも膵臓癌の大きな特徴です。転移は周囲臓器への直接浸潤し、リンパ行性・血行性を経て肝臓、肺、骨へと転移します。
乳頭膨大部の癌の場合は症状が出やすいため切除率が高い一方で、体・尾部癌の場合は症状が乏しいため、自覚症状がないため発症に気づくことも少ないとされています。血液検査による腫瘍マーカーやその他の検査でも発見しにくいため、症状が進行して疼痛などの初期症状を訴える状況に至ったり、肝臓癌など周辺臓器に転移したことによって膵臓癌が原発として診断される例も多いのが現状です。
膵臓癌の予後は根治手術を施行し得た膵頭部癌の場合でも5年生存率は約10パーセントと低く、それがステージ1の場合であっても約38パーセントと患者に厳しい現実を強いるものとなっています。
2、膵臓癌の看護計画には肝臓癌の看護計画も準備しておく必要性がある
膵臓癌は、病態の進行や検査、治療方式、患者の臨床症状に伴って身体的苦痛を患者が大きく受ける事になります。入院生活も長期に及ぶことが多いため、医師・看護師共にターミナルケアの必要性を予測しておくことが看護の上で必要といえます。
2-1、膵臓癌から発見される肝臓癌とは
膵臓癌の治療は、切除可能例の場合の対応と切除が不可能な例によって大きく異なります。切除可能例の場合は拡大手術に併せて術後科学療法が主に行われます。また、切除不可能例の場合は化学療法と放射線療法が併用されます。
膵臓は神経や血管が多く走っていることや、肝臓などへ近接する臓器である影響から、開腹手術を行った際に肝臓に小規模の癌転移が肝臓にみられる場合が多くあります。
肝臓癌は原発性肝癌と転移性肝癌に二分されますが、その95パーセントが転移性のものです。そのため、膵臓癌が認められた場合は肝臓癌転移の可能性を、肝臓癌がみられる場合は膵臓癌が原発である可能性を考え、患者の症状の観察やヒアリング、検査を行いながら医師と綿密に相談しつつ看護診断を進めていきます。
⇒看護診断(NANDA・NIC-NOC)に対する理解と知識の習得
2-2、肝臓癌特徴と膵臓癌と密接に関係した看護問題
肝臓癌は膵臓癌と同じく、自覚症状が少ないのが大きな共通の特徴です。肝臓癌は合併症を併発することが多い疾患でもあります。
肝機能の低下のほか、肝炎や肝硬変、閉塞黄疸や糖尿病を合併症として発症しているケースが多く、代謝異常による低栄養価状態や電解質の平衡を保たれにくいことや、解毒作用の低下、凝固因子不足による出血の可能性などが問題視されます。
患者のこれまでの生活態度を含めた療養経過や、入院時の患者の自覚している苦痛のレベルを把握することで、患者の肝臓がどのような状況にあるかを術前に把握し、術後の合併症を予防することが大切です。また、消化管の出血や感染仲介の危険性にも十分な配慮が必要です。
肝臓癌は膵臓癌と同じく治療が難しい疾患であることから、患者が疾患や手術に対して抱く大きな不安も2つの疾患に共通した看護問題になってきます。
3、術前・術後の状況により膵臓癌の看護計画は変化していく
膵臓癌および、肝臓癌を伴う膵臓癌の看護計画は、術前と術後によって変化していきます。膵臓癌と肝臓癌は生存率が低い疾患としても一般認知されている疾患です。
患者は疾患そのものや手術に対する大きな不安を抱えているほか、患者を見守る家族も大きな不安下に晒されています。肉体的苦痛を和らげるための看護対応のほか、患者や患者の家族に対する精神的アプローチも、看護を行う上で重要なポイントになることを予め考えておきましょう。
3-1、術前に行うべき看護計画と看護ポイント
膵臓癌の症状として、持続性の心窩部~背部痛の著しい疼痛、他の癌と比べて著しい体重減少や黄疸、肝外胆管の完全閉塞による白色便などがあります。また、痛みや悪心に伴って食べ物が摂取できないことや、手術に対する不安や恐れ、検査や治療に対する偏った情報や理解不足も患者への大きな精神的負担の要因となります。
これらを緩和するために、患者ができるだけストレスを感じにくくする声かけや環境づくり、適切な病状説明などを行います。患者が不安を表出できるための共感的態度、受容的態度での対応を心がけましょう。また、患者の不安が何に起因しているかを明確にできるよう、入院時から密接な患者とのかかわりを持つ事も大切です。
そのほかにも、患者が手術後の状態を具体的にイメージできるよう、術前オリエンテーションを行うほか、術式によって患者の体内にドレーンやチューブ類が数多く挿入されることとその重要性を理解してもらえるためのアプローチも必要です。
また、膵臓癌や肝臓癌は痛みも患者の状態を見分けるポイントになります。無理に痛みを我慢しないですぐに訴えてもよいという事をきちんと伝える事も心がけましょう。
痛みに対しては衣服を緩めて腹部の緊張を和らげるほか、医師の指導による鎮痛剤の投与とその効果の確認も行いましょう。術前の心身のストレスを軽減することで栄養状態が改善され、手術に対して心身の不安を取り除いた状態で患者が手術段階へと入れるように心がけます。
3-2、術後に行うべき看護計画と看護ポイント
手術後の回復過程は『障害期』『変換期』『筋力回復期』『脂肪蓄積』の大きく4段階に分かれ、各過程の状況によって患者が受ける肉体的・精神的苦痛の種類もさまざまに変化していきます。特に、患者の生体反応が非常に激しく変化する時期である障害期と変換期は注意深く患者を観察する必要があります。
障害期は手術後2~3日、変換期は障害期の後に1~3日程度続く状況と言われ、この2つの時期は手術侵襲に続いて起こる異化相となっており、その後の状況とは異なった生態の反応過程を示すと考えられています。そのため、変化に対して適宜対応が必要です。
術後は体力が落ちている状態でもあるため、血糖コントロールも術後の状態に応じてカロリー補給を行いつつインスリン投与の増減などで調整するなど、きめ細やかな観察と患者の状況に応じた看護対応が求められます。糖尿病状悪や縫合不全、下痢などの合併症に注意しながら観察と看護対応を行いましょう。
また、循環器系と呼吸器系の管理や疼痛の管理も重要です。膵臓癌患者は一般的に高齢の場合が多いため、術後肺炎や無気肺などを起こしやすい状況にあります。手術創の疼痛による呼吸抑制なども要因として挙げられます。他にも疼痛は心血管系にも負担をかけ、血圧上昇や不整脈を誘発することもあるため、持続的に鎮痛剤を注入することで痛みを和らげます。
膵臓癌や膵臓癌に伴う肝臓癌の手術後は、長期間にわたる入院が必要になるほか、退院後にも治療と経過観察が必要になります。長期の治療に対して患者自身や家族に対してしっかりした治療と精神的サポートができるシステムを構築しておく必要があります。
まとめ
膵臓癌と肝臓癌はセットで対応する事の多い疾患です。患者の術前と術後の状態変化の見落としがないように細やかな観察と柔軟な対応を心がけましょう。また、患者と患者の家族が抱く心身のストレスの軽減も看護に関する重要なポイントです。
術前・術後ともに患者の状況を的確に判断し、精神的側面や肉体的側面など、あらゆる方向から患者の苦痛を取り除く看護を心がけましょう。