軽度のものから生命に関わる重度のものまで、さまざまな消化器官の異常を示すのが下血の症状です。患者の状態によって症状の度合いを判断し、的確に看護を進めていくためにはどうしたらいいかを素早く判断していくために、下血の概要や状態によって変化する看護方法と看護ポイントを再確認してみましょう。
1、下血とは
下血は血便とも呼ばれ、吐血と同様に消化器官の異常を示す身体のサインです。食道、胃、十二指腸の上部消化器官のみならず、小腸や大腸などの下部消化器官も含めた全領域の消化管のいずれからでも出血した場合に認められる症状であり、血液成分を肛門から排出することを指します。
そのほかに同時に起こる症状としては、悪心のほか、ふらつきや息切れといった貧血による症状などもあります。症状は出血の原因となった部分や出血速度、疾患の有無によってもさまざまに変化します。
大量出血を起こしている場合は、ショック状態(出血性ショック)を引き起こす、もしくは引き起こしている場合があり、重篤な状態と考えられます。この場合、重篤な症状が進行している可能性もあるため、早急な検査や治療、看護が必要となってきます。
また、出血量が軽度のものであっても、状況によっては生命の危険を伴うこともありえます。少量ずつ時間をかけて出血していた場合は、患者の自覚症状が乏しい場合もあるためです。
そのため、下血に関しては常に排出物の目視や問診によるヒアリング、検査を行うことによって患者の体に何が起こっているかを迅速に判断・診断し、状況に応じた適切な看護計画による処置が必要になっていく事を理解しておく必要があります。
2、下血の症状は大きく2つに大別される
下血によって排出される排泄物の状態は、鮮血便、黒色便(タール便)に大きく二分されます。患者が下血症状を訴えて医療施設を訪れた場合はヒアリングによる下血状態の確認を、患者が入院中の場合は排便状態を速やかに目視で確認します。
■鮮血便
鮮血便は、鮮紅色の出血を伴うため、黒色便とはすぐに違いがわかります。この症状は肛門側に近い大腸からの出血で起こります。黒色便とは異なり、体内に留まる血液が排出される速度が速いためです。しかし、十分量の出血が緩やかに続き、大腸の運動が低下している場合は血液が体内に多く留まり、黒色便に変化している場合もあります。
■黒色便
黒色便は、上行結腸よりも口腔側の出血で起こり得ることが多い状態です。出血した血液が黒色便として排出されるためには、血液中の血色素が胃液や大腸内細菌によってヘマチンに変換される必要があり、少なくとも60ml以上の出血量が必要となります。したがって、黒色便が確認された場合の出血箇所は消化器官上部である可能性を考え、内視鏡検査や内視鏡を使用した止血処置を医師に提案するなどの対応を行います。
しかしながら、本来であれば鮮血便になりうる大腸などの消化器下部の出血でも腸の運動状態によっては黒色便に変化する可能性があるため、入院状態であれば患者のカルテによる経過観察資料と問診、来院であれば問診などを綿密に併せて行い、医師に報告を随時行いながら出血箇所を特定していくことが重要です。
3、患者へのヒアリングの正確さが疾患判明のヒントになる
下血を伴う疾患は重大なものが多く、患者の便に下血が認められた場合は速やかに問診と検査を行います。下血といっても、要因となる疾患はさまざまです。どのような疾患によってどの場所で出血を引き起こしているかを迅速に探ることが医師・看護師ともに求められます。
3-1、下血を伴うさまざまな疾患
下血を伴う消化器系の疾患は、大腸がん、腸捻転や腸重積を含む絞扼性イレウス、潰瘍性大腸炎をはじめとして多岐にわたります。
また、下血の要因となる疾患は消化器系だけに順ずるとは限りません。白血病や再生不良貧血などの血液系疾患、結節性多発動脈炎などの循環系、細菌性赤痢やO157による腸管出血性大腸菌感染症などをはじめとする感染症、毒キノコの摂取や漂白剤や電池、農薬などの誤飲による中毒症状でも下血症状は起こります。
早急に下血の要因となった疾患や原因をつきとめるためには、まず最初にどのようなタイプの下血であるのか、下血症状が起こる前後に患者がどのような状況におかれていたかを、事前把握やヒアリングによって把握していくことが、患者への看護計画や看護対応を決定づけていく重要なポイントとなってきます。
3-2、ヒアリングのポイント
患者が下血を訴えた場合は、排便状態の確認と同時に症状が発生するまでの経過をヒアリングします。入院中の場合は下血状態の確認が可能ですが、外来の場合は下血状態の詳細な確認ができないため、ここできちんとヒアリングを行うことが重要です。
まず、便の色調や量、硬度といった下血の症状、下血状態が急性的なものか慢性状態だったかをヒアリングします。また、繰り返し下血が起こっている場合はその周期を聞き取り、発症前の便通状態もチェックしておきましょう。
抗生物質や経口避妊薬、鉄剤などの薬物服用状態や既往歴、放射線治療歴や海外渡航歴、月経状態や家族歴、発熱や腹痛、悪心などの随伴症状についても聞き取りが必要です。聞き取りの項目が多くありますが、これは下血が示す症状が多岐にわたる可能性があるためだということを患者に理解してもらう必要があります。
下血に伴い吐血も併発している場合は窒息状態に陥らないように体位を変える、気道を確保するなどの看護対応もあわせて行います。患者自身がショック状態に陥っている場合は、ヒアリングが困難になるため、入院中の場合はこれまでの排便状態や体調の変化を振り返ってヒアリング項目にあてはめて対応するほか、外来の場合は同行している親族などに可能な範囲でのヒアリングを行います。
便通は患者にとって日常的な行為かつデリケートな話題でもあります。また、患者自身が持ち得た知識によって、自身の下血症状や今後の状況に対して大きな恐怖や不安を感じています。ヒアリングを行う場合は患者のプライバシーに配慮し、精神的に落ち着きをもてる声かけも看護のひとつと捉えておいた方がいいでしょう。
4、自覚のない下血状態を正確に確認するためには
患者自身が何らかの要因で入院治療を行っている場合は、自分の排便の状況の変化に気づかず、下血を起こしている自覚症状がないケースもあります。
特に少量の出血が長く続いている場合や慢性的・周期的に少量の出血を起こしている場合は、患者が自身の排便状況から下血であると正確に自己認識することが難しい場合もあります。また、黒色便になるレベルの出血量であっても自覚症状のない下血を起こしている場合もあります。
そのため、看護師には患者の排便状況から客観的にみて下血症状を起こしていると判断できるかどうかも看護対応として求められます。
下血状態を起こしているかを正確に判断するためには、普段から入院中の患者の排便状態を常に把握しておく必要性があります。状態や色、臭いといった通常便と下血による血中成分が混じった排便の差異を敏感に感じ取れるよう、普段から下血とは関係のない疾患の患者であっても、日常的な観察を行っておくことが変化をいち早く察知するポイントにつながります。
まとめ
下血は、さまざまな疾患の症状として表出してくる症状です。また、状況によっては命にかかわる重篤な状態を指し示すものでもあるため、出血箇所の特定と原因疾患の早急な判別が医師・看護師ともに求められます。
下血状態を明確に判断するため、普段からの患者の排便状態や健康状態を聞き取るためには患者との信頼関係も不可欠です。綿密な経過観察やヒアリングを定続的に行い、緊急を要する疾患や容態の変化に迅速に対応できるよう、患者の日々の変化に着目した看護を行うことが大切です。