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播種性血管内凝固症候群(DIC)|原因と症状、早期発見・治療のポイント

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播種性血管内凝固症候群(DIC)

さまざまな重篤疾患の合併症に「播種性血管内凝固症候群(DIC)」があり、致死率が非常に高く、現在最も懸念される合併症の一つに挙げられます。さらなる重篤化を防ぐためには、早期発見・早期治療がカギとなりますが、DICの知識なくして早期発見はありえません。

当ページでは、DICの概要や原因、症状、診断(鑑別)基準など、包括的かつ詳細に解説していますので、DICについて少しでも不安のある方は、最後までしっかりお読みいただき、知識の習得にお役立てください。

 

1、播種性血管内凝固症候群(DIC)とは

通常、正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、血液は凝固することはありません。しかしながら、何らかの原因により、血管内のあちこちに突発的な血栓が生じることがあります。

血管内に血栓が無数にできることで、小さな血管が詰まり、出血の抑制に必要となる血小板や凝固因子を使い果たしてしまい、過度の出血を引き起こします。この状態を「播種性血管内凝固症候群(DIC)」と言います。

DICは突発的に発症することが多く、大量出血によって死に至るケースも少なくありません。それゆえ、いかに早期発見・早期治療ができるかがポイントとなります。

 

2、播種性血管内凝固症候群の原因

DICの発症には、基礎疾患が関与しています。未だ確固たる機序は証明されていませんが、基礎疾患が悪化した際に、何らかの影響で生体内の抗血栓性の制御をはるかに超える大量の凝固促進物質が血管内に流入することが、原因であると考えられています。

凝固活動が活性化すると、血栓の元になる血小板や凝固因子が大量に消費され、それらが著しく減少します。また、アンチトロンビンも大量に使われ不足していき、その結果、凝固反応が加速化し、血栓の抑制機能を低下(血栓形成を促進)させます。

さらに、血栓を溶かそうとして働くプラスミンが、本来の止血のための血栓をも溶かしてしまうため、出血傾向がさらに高まります。このように、血液を固める凝固作用と固まった血液を溶かす作用が同時に起こることで、大量出血が引き起こされるのです。

なお、基礎疾患には主に、「悪性腫瘍・白血病」、「細菌感染症」、「産科的疾患」、「外傷・熱傷」などがあり、「悪性腫瘍・白血病」と「細菌感染症」が発生起因の約3/4を占めています。

 

悪性腫瘍・白血病

悪性腫瘍における主因は、腫瘍細胞の表面や腫瘍細胞中に組織因子が出現し、それに伴う凝固作用の活性化と考えられています。そのほか、腫瘍細胞に対する免疫反応の刺激に伴う組織因子の産出、サイトカインの血管内皮細胞に対する作用に伴う組織因子の産出、トロンボモジュリン発現抑制に伴う血管内皮細胞の抗凝固から向凝固への性格シフトなど、発生機序は多岐に渡ります。

 

細菌感染症

敗血症などの重篤な細菌感染症では、発熱物質であるエンドトキシンなどが単球/マクロファージの表面に組織因子を産出させることが主な原因と考えられています。敗血症患者の約40%がDICを発症すると言われており、これはDICの原因となる基礎疾患の中でも頻度が高く、また敗血症はDICだけでなく、さまざまな重篤な合併症の発症リスクが高いため、DIC患者の死亡例の多くは敗血症が原因となっています。

 

産科的疾患

産科的疾患によるDICは、主に子宮内圧の上昇が引き金となっていることから、子宮内圧の上昇に関係する常位胎盤早期剥離と羊水塞栓症の2つが、DICに起因する産科的疾患の大半を占めています。

 

外傷・熱傷

外傷性DICでは、組織の損傷によって組織因子が血管内に流入し、凝固反応を示すようになります。また、炎症性サイトカインによって凝固作用が活性化することが原因と考えられています。しかしながら、外傷に伴う異常出血は、“DICが基礎病態である”という主張と、“DICではない別の病態である”という主張が混在しており、未だ議論の渦中にあります。

 

3、播種性血管内凝固症候群の症状

「出血」と「臓器症状」がDICの2大症状となっており、どちらが発現するかは綿溶(血栓の溶解)と凝固の優位性によって異なります。綿溶が優位に働く場合には出血症状が発現し、凝固が優位に働く場合には臓器症状が発現します。

播種性血管内凝固症候群の症状

出典:播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態、診断、治療 金沢大学 血液内科・呼吸内科

 

出血症状

血栓の元になる血小板や凝固因子が低下することで、出血傾向が高まります。止血作用が働いていると出血量はそれほど多くはありませんが、プラスミンの働きにより、止血のための血栓をも溶かしてしまうと、止血が追い付かなくなり、大量出血となります。DICに起因する基礎疾患のうち、「悪性腫瘍・白血病」、「産科的疾患」、「外傷・熱傷」は、出血症状が主な症状となっています。

 

臓器症状

微小血栓が多発すると、各臓器に十分な血液が流れなくなり、いわゆる微小循環障害をきたします。その結果、十分な血液を供給できない臓器で機能障害を行い、進行具合によっては全く機能しなくなる“不全”の状態になります。

DICでは、微小血栓が血管内のさまざまな部分に無数に発生することから、しばしば多臓器不全を引き起こします。臓器症状を呈する主な基礎疾患は、敗血症などの「細菌感染症」であり、薬物治療によって改善を図りますが、敗血症自体が生命にかかわる病気のため、DICを合併した敗血症患者の死亡率は60%以上にものぼると言われています。

 

4、早期発見のための指標

DICは基礎疾患に起因しているため、基礎疾患による可能性を念頭に置くことが何より大切です。DICに起因する基礎疾患には、悪性腫瘍(固形がん)、白血病、細菌感染症(敗血症)、産科的疾患(常位胎盤早期剥離や羊水塞栓など)、外傷・熱傷のほかにも、内科においては「膠原病」・「大動脈瘤」・「劇症肝炎」・「肝硬変」、「急性膵炎」、そのほか「ショック」などもあります。

これらの有症患者に対して、DIC発症の可能性を念頭に置いておくと、出血傾向がみられる場合や臓器機能の低下がみられる場合に、DIC発症の疑いを持つようになり、早期発見に役立ちます。

 

DICを発症しやすい基礎疾患

順位 基礎疾患 DIC症例数 全症例 発生頻度
敗血症 303 969 31.3%
ショック 222 945 23.5%
非ホジキンリンパ腫 161 847 19.0%
呼吸器感染症 144 2,568 5.6%
肝細胞がん 142 4,480 3.2%
肝硬変 123 3,807 3.2%
急性骨髄性白血病 104 312 33.3%
肺がん 99 2,316 4.3%
胃がん 93 3,456 2.7%
10 急性リンパ芽球性白血病 76 247 30.8%
11 急性前骨髄球性白血病 73 100 73.0%
12 大動脈瘤 69 1,183 5.8%
13 結腸がん 65 2,767 2.3%
14 胆道系感染症 55 831 6.6%
15 急性呼吸促迫症候群 53 251 21.1%

※文献1)を修正して引用

 

上表は、DICを発症しやすい基礎疾患を、発症数をもとに順位づけを行ったものです。特にこれらの疾患を有する患者には、DICの可能性を懸念し、入念な観察を行ってください。

なお、DICを発見するためには、“診断(鑑別)”が必要不可欠です。所見にて出血の確認はとれますが、出血の原因はDIC以外にもさまざまあるため、“出血症状があるからDICだ”と決めつけ、すぐに治療を開始することはできません。これは臓器症状においても言えることです。

DIC発症の有無を確認するためには、起因する基礎疾患の有無や、症状の程度などから多角的に分析し、可能性のある場合に血液検査の結果から、以下のような診断基準を用いて鑑別を行います。

 

■日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案

日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案

・(※ 1 ):血小板数>5万/μLでは経時的低下条件を満たせば加点する(血小板数≤5万では加点しない)。血小板数の最高スコアは3点までとする。

・FDPを測定していない施設(Dダイマーのみ測定の施設)では、Dダイマー基準値上限2倍以上への上昇があれば1点を加える。ただし、 FDPも測定して結果到着後に再評価することを原則とする。

・プロトロンビン時間比:ISIが1.0に近ければ、INRでも良い(ただしDICの診断にPT-INRの使用が推奨されるというエビデンスはない)。

・トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、可溶性フィブリン(SF)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2):採血困難例やルート採血などでは偽高値で上昇することがあるため、FDPやD-ダイマーの上昇度に比較して、TATやSFが著増している場合は再検する。即日の結果が間に合わない場合でも確認する。

・手術直後はDICの有無とは関係なく、TAT、SF、FDP、D-ダイマーの上昇、ATの低下などDIC類似のマーカー変動がみられるため、慎重に判断する。

・(※2)肝不全:ウイルス性、自己免疫性、薬物性、循環障害などが原因となり「正常肝ないし肝機能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ、初発症状出現から8週以内に、高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間活性が40%以下ないしはINR値1.5以上を示すもの」(急性肝不全)および慢性肝不全「肝硬変のChild-Pugh分類BまたはC(7 点以上)」が相当する。

・DICが強く疑われるが本診断基準を満たさない症例であっても、医師の判断による抗凝固療法を妨げるものではないが、繰り返しての評価を必要とする。

※文献2)より出典・引用

上図ならびに解説は、日本血栓止血学会が提示するDIC診断基準の暫定案です。DICの診断基準には、ほかに厚生省の「旧基準」、日本救急医学学会急性期DIC診断基準である「急性期基準」がありますが、どれも未だ確立されておらず、感度が悪い、適応疾患が少ないなどの問題が見受けられます。

現状においては、暫定版ではあるものの、上図の診断基準が最新であるため、これを参考にするとよいでしょう。なお、鑑別を行うに至るまでには、看護師の情報提供が必要不可欠となります。

出血はDIC以外にも、さまざまな原因によって発生するため、まずは何が原因となっているのかを考えなければいけません。出血を認めるすべての患者に対してDICの鑑別を行うのは得策ではありませんが、起因する基礎疾患の有無や出血の程度・時間などによって評価し、疑いのある場合には早急に鑑別を依頼してください。

また、臓器機能低下においては、初期段階では自覚症状がないことが多く、早期発見がさらに困難となります。さまざまな因子を多角的に評価する分析力が不可欠となりますが、多臓器不全に陥る前に治療に移れるよう、何かしらの兆候を感じた際には、すぐに医師に報告し、鑑別を急いでください。

≪診断のポイント≫

①基礎疾患の存在

②出血症状の存在

③臓器症状の存在

④血小板数の低下

⑤血中FDP(Dダイマー)の上昇

⑥血中フィブリノゲンの低下

⑦プロトロンビン時間(PT)の延長

 

まとめ

重篤な基礎疾患に起因するために、DICを合併することで予後不良となります。発見が遅れれば遅れるほど死亡率は高まりますので、早期発見・早期治療が非常に重要となってきます。

起因する基礎疾患の有無や所見、各種検査データなどをもとに、DIC発症の可能性を分析し、少しでも可能性のある場合には、患者の状態を細かく報告し、鑑別の依頼を仰いでください。

鑑別によってDICだと認められない場合でも、その事実が分かることで原疾患の早期治療に寄与しますし、決して無駄にはなりません。過度な血液検査は医療従事者への負担に繋がりますが、患者を第一に考え、行動に移しましょう。

 

参照・引用文献

1)中川雅夫:本邦における播種性血管内凝固(DIC)の発症頻度・原因疾患に関する調査報告. 厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会, 平成10年度研究業績報告書. 57-64, 1999.

2)DIC診断基準作成委員会:日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案, 血栓止血誌 25: 629-646, 2014.


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