経済不況などによる雇用形態の多様性に伴い、慢性疾患や障害、アレルギー疾患を持つ子供が増えてきており、保育園内の看護師のニーズはますます高まっています。
また、子供たちのケガの発症率は非常に高く、以前にも増して保育士と保護者との関係がシビアになってきたことから、園児への応急手当や健康管理における看護師の役割も増大しています。
医療施設での勤務と保育園での勤務では、性質的に大きく異なりますので、保育園での就業を希望される方は、保育園看護師の役割や仕事内容などについて、しっかりと把握しておいてください。
1、保育園で働く看護師の実態
保育園における看護師の配置は、1969年に国から初めて通達がなされ、1977年には乳児保育指定保育所制度として、0歳児を9人以上保育する場合には、看護師または保健師を1人配置することが義務付けられました。
しかしながら、保育所設置に関わる児童福祉法においては、看護師など看護職の配置の明確な基準はなく、法的根拠はもっていませんでした。これは今でも同じであり、2009年に上別府圭子・多屋馨子らが行った調査1)によると、保育園における看護師の配置率は全国平均21.1%しかありません。
時代の流れとともに経済情勢や生活環境が大きく変化したことで、今では待機児童問題の深刻化、保育士の業務過多・保育の質低下を招き、保育に関する不安を抱える保護者が増加するようになりました。
これを受けて、2009年に「保育所保育指針」の改定が行われ、保育指針を大臣告示として定めることで、この指針が「最低基準」としての意味合いが生まれ、保育の重要性さや“重さ”に違いを持つようになりました。
保育所保育指針の改定から、保育園における看護師のニーズの高まりとともに、保育園看護師の果たす役割もますます重要なものとなっています。
2、保育園看護師の役割と仕事内容
保育園看護師の役割は、「園児の健康を守る」ことに尽きます。看護・医療に精通していない保育士では、園児の体調の変化や健康増進、ケガの手当・病気の看護などを行うことができません。そのため、看護師が園内の健康問題を一手に背負い、園児の健康を守る必要があるのです。
保育園看護師の仕事内容には、「園児・職員の体調管理と健康づくりの推進」、「園児のケガ・体調悪化時の対処」、「感染症の予防、蔓延時の対処」、「嘱託医・保育園職員との連携」、「健康問題に関する対策と実施」、「保育園職員への健康教育・健康相談」、「保護者への健康指導・健康相談」などがあり、これらを包括的に行うことで、園児の健康に寄与することができます。
①園児・職員の体調管理と健康づくりの推進
②園児のケガ・体調悪化時の対処 ③感染症の予防、蔓延時の対処 ④嘱託医・保育園職員との連携 ⑤健康問題に関する対策と実施 ⑥保育園職員への健康教育・健康相談 ⑦保護者への健康指導・健康相談 |
①園児・職員の体調管理と健康づくりの推進
子供の免疫力は大人よりも低いため、容易に体調を崩し、場合によっては病気へと発展してしまいます。体調不良や病気を防ぐために、視診や触診、呼吸、健康データなどをもとに園児の体調管理・健康管理を行います。同時に、保育園職員の体調管理・健康管理も行います。
②園児のケガ・体調悪化時の対処
園児がケガをした場合や体調不良の際に、応急処置ならびに看護を行います。また、状況に応じて与薬の実施、与薬前後の状態観察も行います。程度が悪化した際の、保護者への連絡や救急車の手配、病院への付き添いも看護師の役割です。
③感染症の予防、蔓延時の対処
厚生労働省発行の「保育所における感染症対策ガイドライン」を参考に、感染症の予防に努めます。蔓延が懸念される場合または蔓延時には、はっきりとした感染症の症状を認める園児を別室で保育するなど、臨機応変な対処が必要不可欠です。
④嘱託医・保育園職員との連携
園児の健康と安全を守るために、嘱託医と密に連携を図ります。園内の看護師配置は1人~2人が一般的であるため、健康管理について分からないことがあれば嘱託医に相談すると良いでしょう。また、園内に滞りなく情報が行き渡るよう、すべてのクラスの保育園職員とも連携を図ります。
⑤健康問題に関する対策と実施
給食や活動時間、睡眠など保育生活上における健康問題を抽出し、改善・解決に向けて取り組みます。これは園内全体の問題であるため、園長、保育士、栄養士・調理士と連携を図り、経営方針に参画します。
⑥保育園職員への健康教育・健康相談
入所児童数の多い保育園では、看護師1人~2人ではすべての園児の健康管理・体調管理を行うことができません。それゆえ、保育園職員に健康教育を行い、園内の健康水準が高まるよう努めます。また、保育園職員からの相談業務も行っていきます。
⑦保護者への健康指導・健康相談
園内の健康管理・体調管理に止まらず、園外においても子供たちが健やかに成長していけるよう、保護者への健康指導を行います。健康だよりの発行のほか、各保護者との面談による指導、健康に関する相談業務を行います。
一昔前の保育園看護師の業務は、園児の健康問題に重きを置いていましたが、現代では7割以上の看護師が保育士と同様に保育業務に携わっており、保育園看護師の仕事内容に多様性が生まれています。
これは、保育園内に看護師1人という配置や保育士の人材不足などの要因によるものと考えられています。入所児童数の多い保育園では、看護師1人ですべての看護業務を行うことができず、また保育士が足りていないことで、看護業務を「園児のケガ・体調不良時の対処」のみとし、それ以外を保育業務とするところが増えてきています。
しかしながら、保育園看護師が本来行うべき仕事は「園児の健康を守る」ことであるため、保育業務と兼務する場合であっても、看護業務を主体として園児の健康を優先的に考えなければいけません。
3、保育園看護師の雇用状況
2009年の「保育所保育指針」の改定を受けて、保育園での看護師の役割が増大し、また保育士不足も相まって、看護師を求める動きが強くなってきています。
現状において、保育園の看護師には、クラスを担当して保育業務を兼務する「クラス担当配置」と、クラスを担当せず看護業務に専念する「フリー配置」の2つの配置2)があり、多くの保育園ではどちらかの配置を採用しています。
待機児童問題が深刻になるに連れ、保育士の労働過多も同時に深刻なものとなり、近年では保育士の離職率は数ある職業の中でも非常に高く、保育士の人材不足が顕著であるために、看護師を保育業務に従事させる体制が一般的となっているのです。
空田 朋子が行った調査3)によれば、調査対象者である保育園看護職(保健師など含む)308人のうち、「クラス担当配置」が137人、「フリー配置」が164人、その他は病後児室や保健室などに配置されています。
また、フリー配置の定義は曖昧であり、フリー配置であっても保育業務を行うことが多々あるため、全体の7割以上の保育園看護職が看護・保健業務と保育業務を兼務している状態です。
配置人数においては、1人配置が264人(85.7%)、2人以上配置が31人(10.0%)となっており、このことから本来行うべき保健・看護業務を思うように遂行できないというのが、保育園看護職の現状となっています。
4、保育園看護師の平均年収
保育園において、看護師のニーズが高まっていることから、求人数も増加傾向にありますが、同一施設で長期的に働く看護師が多い、看護師の就業先として人気が高い、保健師との競争などの理由により、求人枠はそれほど多くはありません。
年収においては、一般的な看護師の平均年収470万円超に対して、保育園看護師の平均年収はおよそ320万円。保育園のほとんどは夜勤がなく、保育士と同程度の給与体制が定着しているため、基本的に高年収は望めません。
ただし、保育園の中には高年収が期待できるところもあり、一般的に認可保育園(公立・私立)では総じて高年収が期待できます。反して認可外保育園では、予算などの都合により、低年収が相場となっています。
「平成24年賃金構造基本統計調査」によると、保育士の平均給与月額はおよそ21.4万円(平均年齢35.0歳)。一般的な看護師(臨床)の平均給与月額はおよそ32.7万円(平均年齢37.3歳)であり、保育士の給与は看護師を大きく下回っていますが、保育園看護師は保育士と同等の給与が基本とされているため、年2回(4~4.5か月)の賞与や各種手当を含めても、年収470万はおろか、400万円を超えることも難しいと言えるでしょう。
なお、非常勤の場合では、時給1000円~1200円が相場。総じて、一般の看護師に及びませんが、同年代の保育士よりも多少、高給与に設定されています。
5、保育園看護師の求人情報
保育園看護師の求人枠は少ないものの、2009年の「保育所保育指針」の改定、ならびに待機児童問題への取り組みにあたり、今後ますます保育園看護師のニーズ・求人枠の増加が予想されます。
しかしながら、保育園は看護師の就業先として人気が高いために、誰しもが必ず入職できるというわけではありません。また、多くの保育園では求人に制限をかけており、優れた人材の確保を望む動きが強くなってきています。
長期勤続によるキャリア形成のために、採用時の年齢を40歳くらいまでとし、小児科経験者を優先的に雇用する傾向にあります。特に小児科経験者は即戦力となるため、経験者を優遇する傾向は当然と言えます。
保育園看護師の7割は保育業務にも携わる現状においては、小児科経験がない場合であっても、「チャイルドマインダー資格」、「ベビーシッター資格」、「ベビーマッサージ資格」、「レクレーションインストラクター資格」など、保育に関する資格を取得することで、他者よりも優位に立つことができます。
また、多くの看護師は常勤を望むため、小児科経験がなく各種資格も持っていない場合でも、非常勤であれば採用の道はそれほど困難ではありません。
非常勤から常勤へ転換できることも多々あり、他の保育園に転職する場合には非常勤としての経験が有利に働くため、保育園看護師としての長期的な就業を望まれる方は、勤務形態を問わず、求人を見つけた際には積極的に応募することが大切です。
まとめ
保育園での看護師の配置は1人~2人が一般的であり、さまざまな看護業務を一手に任される形となるため、子供が好きという理由だけでは務まらないのが実情です。それゆえ、医療施設と同様に多忙を極めるという事実をしっかり念頭に置いておきましょう。
給与においては、保育士の給与増の動きがみられており、保育園看護師も同様に給与増となることが予想されます。
保育園看護師としての採用には、小児科や保育経験が重視されていますが、未経験の方でも採用に至るケースが多々ありますので、経験・資格を持ち合わせていない場合でも、求人を見つけた際にはチャンスだと思い、積極的に応募してみてはいかがでしょうか。
参考文献
1)上別 府圭子,多屋 馨子ら:保育所の環境整備に関する調査研究報告書-保育所の人的環境としての看護師の配置-.社会福祉法人日本保育協会,2009.
2)阿久澤 智恵子,青栁 千春,金泉 志保美ら:保育所看護職者の配置形態の違いによる保育保健活動の現状と課題.桐生大学紀要 第24号, 2013. 9.
3)空田 朋子:保育所における医療的ケアが必要な子どもに対する支援の実態と保育所看護職の認識.山口県立大学学術情報 第7 号,2014.3.