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硬膜外麻酔(エピドラ)の看護|副作用・合併症における観察

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硬膜外麻酔の看護

局所麻酔法の1つである硬膜外麻酔。英語では「Epidural Anesthesia」と言うことから、医療現場では「エピドラ」または「エピ」略称されています。

適応症例が多く効果的に無痛・鎮痛操作ができ、さらに術中の出血量の減少、術後合併症の発症頻度の減少など、硬膜外麻酔を実施することのメリットが多大に存在するため、今や多くの手術で全身麻酔と併用して利用されています。

しかしながら、硬膜外麻酔は比較的安全な麻酔法ではあるものの、副作用や合併症の発症は常に懸念されていますので、硬膜外麻酔を行った患者の術中・術後の観察や看護は非常に大切です。

安心・安全・安楽な看護を実施すべく、硬膜外の副作用や合併症、禁忌、術後看護など包括的かつ詳細に熟知しておいてください。

 

1、硬膜外麻酔について

硬膜外麻酔は、椎管内面の骨膜および靭帯と硬膜との間にある骨膜外腔に麻酔を注入し、知覚神経ならびに交感神経を直接的に遮断することで、クラシカルな神経・内分泌系反応を抑制する麻酔法のこと。

持続的かつ効果的に神経・内分泌系反応を抑制できることから、顔面や頭部以外の手術すべてに用いることができます。また、日本ではまだ普及していないものの、アメリカをはじめ海外では分娩に際しても多用されています。

硬膜外麻酔を単独で行う場合には使用する薬剤量が必然と多くなってしまうため、単独で行うことは稀であり、基本的に全身麻酔と併用して実施されます。全身麻酔を単独で行うことも多いのが現状ですが、これまでに検証された多くの研究では全身麻酔を単独で行うよりも、硬膜外麻酔と併用することで術中の管理がしやすく、さらに術後鎮痛にも応用することで多くのメリットがあるとして、近年では全身麻酔と硬膜外麻酔を併用する麻酔法が主流となりつつあります。

しかしながら、硬膜外麻酔には頭痛、血圧低下、徐脈、吐き気・嘔吐、呼吸抑制などの副作用に加え、血腫、膿瘍、神経損傷といった重篤な合併症のリスクもあり、これによる死亡例もいくつか報告されていることから、100%安全な麻酔法とは言えません。

これはすべての麻酔法に言えることですが、数ある麻酔法の中でも硬膜外麻酔の難易度は高く、重篤な合併症の発症の多くは不適切な手技が原因となっているため、難易度という観点からリスクを避けることが難しいのが現状です。

 

2、麻酔法の種類

麻酔法は硬膜外麻酔だけでなく、麻酔部位や方法によってさまざまな種類があります。大別すると「全身麻酔法」・「局所麻酔法」があり、細分化すると、全身麻酔法には「吸入麻酔」・「静脈麻酔」、局所麻酔には「硬膜外麻酔」のほかに「表面麻酔」・「浸潤麻酔」・「伝達麻酔」・「脊髄麻酔」などがあります。

 

全身麻酔法

吸入麻酔 全身麻酔では静脈麻酔が主ですが、幼児など静脈麻酔に抵抗のある患者に対しては吸入麻酔が積極的に行われます。刺入しない分、侵襲性が低いというメリットがある反面、効果が現れるまでの時間が長いというデメリットがあります。
静脈麻酔 静脈麻酔は点滴により静脈に直接的に麻酔薬を投与する方法です。昨今では、静脈麻酔と吸入麻酔を併用することが多く、その場合には酸素投与をしつつ静脈麻酔を行い、意識消失後に吸入麻酔に切り替えます。

 

局所麻酔法

表面麻酔 皮膚や粘膜の表面に直接的に麻酔薬を塗布し、皮下へ浸透させて神経終末に作用させる方法が表面麻酔です。口腔内(喉頭)・鼻腔内へのスプレーや眼球など目の手術にも用いられています。
浸潤麻酔 皮内または皮下に麻酔薬を注射し、麻酔薬の及ぶ範囲の神経を遮断します。副作用が比較的少なく、簡便に実施できることから手術よりも簡易的な治療に広く使用され、特に歯科治療においては第一選択となっています。
伝達麻酔 末梢神経の中枢側付近に麻酔薬を注入し、神経の支配領域を無痛にする方法が伝達麻酔です。これも簡易的な治療に広く使用されており、主に歯科領域では下顎神経ブロックに、全身的には四肢の骨折の手術時など、広範囲に使用されています。
脊髄麻酔 くも膜下腔に麻酔薬を注入し、下半身の神経を抑制させるために行われます。脊髄損傷を防ぐために穿刺部位は第2腰椎以下を原則とし、また適切な刺入を促すために基本的には側臥位で行います。

 

なお、硬膜外麻酔・脊髄麻酔はいずれも脊椎周辺に穿刺しますが、それぞれは異なる麻酔法です。穿刺部位が異なるのはもちろん、麻酔薬の効能範囲や効能発現時間、持続時間、持続注入の可否など、さまざまな相違点があります。

 

硬膜外麻酔と脊髄麻酔の違い

  硬膜外麻酔 脊髄麻酔(くも膜下)
麻酔注入部位 硬膜外腔 くも膜下腔
穿刺部位 腰椎~仙骨部まで 通常、第2腰椎以下
手術部位 頸部以下 下腹部以下
血圧の低下速度 緩やか 速い
持続時間 長時間の鎮痛可能

(カテーテル使用により)

おおむね3時間

(使用する薬剤に依存)

麻酔薬使用量 多い 少ない
ブロックの程度 調節可能 強い
効果の発現速度 緩やか 速い
持続注入 一般的 一般的でない
術後鎮痛への利用 一般的 一般的でない
局所麻酔中毒 起こりうる ほとんど起こらない
手技の困難度 やや困難 容易

 

特に大きな違いが上表の“手術部位”です。硬膜外麻酔では頭部・顔面を除く頸部以下が麻酔薬の効能範囲であり、広範囲にわたって作用しますが、脊髄麻酔では下腹部以下が効能範囲であり、下腹部以下の手術のみが適応となります。

 

3、硬膜外麻酔の適応と禁忌

硬膜外麻酔は頭部・顔面を除くすべての部位の手術に適応となりますが、術中の鎮痛を目的とした麻酔法というより、術後の鎮痛を考慮した麻酔法であるため、特に開胸手術や開腹手術など術後の強力な鎮痛を必要とする手術の際に実施されます。また、血液改善を期待して血管外科の手術にも多く実施されています。

しかしながら、すべての症例に適応となるわけではありません。意識のない患者、ショック状態で低血圧の患者、脳圧亢進をきたしている患者、抗凝固薬を常服している患者(出血が止まりにくいため)、循環血液量が極度に減少している患者、穿刺部位付近に感染巣がある患者、局所麻酔薬(リドカイン、メピバカイン、ブピバカインなど)にアレルギーのある患者、これらには硬膜外麻酔は禁忌となります。

 

適応 ・  頭部・顔面を除くすべての部位の手術に実施可能

・  術後の強力な鎮痛を必要とする手術(開胸・開腹手術など)

・  血液改善を期待した血管外科の手術

禁忌 ・  意識のない患者

・  ショック状態で低血圧の患者

・  脳圧亢進をきたしている患者

・  出血がとまりにくい患者

・  循環血液量が極度に減少している患者

・  穿刺部位付近に感染巣がある患者

・  局所麻酔薬にアレルギーのある患者

・  硬膜外麻酔に対して同意を得られない患者

 

禁忌は多岐に渡り、中でも抗凝固薬を常服している患者や出血が止まりにくい患者は、重篤な合併症の1つである硬膜外血腫を引き起こす可能性があり、そのリスクが懸念されています。

 

4、硬膜外麻酔の副作用と合併症

硬膜外麻酔は、頭部・顔面を除くすべての部位の手術に適応となる万能な麻酔法であり、近年では一般手術から心臓手術や小児手術まで幅広く行われ、全身麻酔との併用がスタンダードな時代になっています。しかし、実施頻度の増加に伴い副作用や合併症の発症も増加傾向にあり、そのリスクが懸念されています。

硬膜外麻酔の副作用には、頭痛、血圧低下、吐き気・嘔吐などの軽度なものだけでなく、徐脈・不整脈や呼吸抑制など中程度の副作用も報告されています。

また、合併症には不適切な手技に伴う脊髄液の漏出、くも膜下腔への誤注、血管内への誤注、神経損傷などがあり、ほかにも硬膜外血腫や硬膜外膿腫といった重篤な合併症も存在します。

 

副作用 頭痛、血圧低下、吐き気・嘔吐、徐脈・不整脈、呼吸抑制など
合併症 脊髄液の漏出、くも膜下腔への誤注、血管内への誤注、神経損傷、硬膜外血腫、硬膜外膿腫、硬膜下ブロック、局所麻酔アレルギー、局所麻酔中毒など

 

発症頻度は極めて少ないものの、永久的な髄神経麻痺の可能性がある神経損傷、硬膜外血腫、硬膜外膿腫の3つの重篤な合併症は特に問題視されています。

論文で報告された硬膜外血腫の頻度は、Tryba(※1)の報告によると150,000例に1例、Wulf(※2)の報告によると信頼区間では96,949~406,342 例中に1例であり、平均して190,000例中に1例と算出しています。

また、2004年に行われた日本麻酔科学会の調査によると、詳細は不明であるものの、硬膜外麻酔(脊髄麻酔含む)を実施した症例548,819例のうち、脊髄損傷が7例(約1/78,000症例)、末梢神経損傷が20例(約1/27,000例)という数値が報告されています。

発症例のほとんどは、不適切な手技や禁忌が深く関わっており、特に硬膜外血腫をきたす多くの例では抗凝固薬を常服している、血液凝固因子に異常があるなど、出血が止まりにくい場合に発症していることから、実施に際して患者の発症因子を正確かつ詳細に把握しておくことが求められます。

 

5、硬膜外麻酔を行うメリット

硬膜外麻酔による副作用や合併症を完全に防ぐことは不可能ですが、多大な利点が存在するのも事実であるため、副作用・合併症を懸念して適応症例で実施しないという考え方は適当ではありません。

硬膜外麻酔を実施することの利点は、①術中の出血量の減少、②術中のストレス抑制・免疫保持、③術後疼痛管理への利用、④術後合併症発生率の低下、などがあります。

 

①術中の出血量の減少

単独の全身麻酔と比べて硬膜外麻酔を併用することで、輸血に関するさまざまな合併症のリスク減少の観点から術中の出血量が少ないという報告が多々あります。

 

②術中のストレス抑制・免疫保持

下肢や下腹部の手術に際して全身麻酔と硬膜外麻酔を併用することで、全身麻酔単独と比べて術中のストレス反応を抑制し、さらに免疫能を保持することがいくつもの論文で証明されています。ただし、上腹部の大手術における作用は明らかにされていません。

 

③術後疼痛管理への利用

硬膜外麻酔の最も大きな利点が術後の疼痛管理です。静脈路からのPCAを含めた他経路からの鎮痛薬のよりも術後鎮痛の点で優れており、鎮痛薬の使用量減少はもちろん、麻酔の質の面でも優れた鎮痛効果を発揮します。

 

④術後合併症発生率の低下

術中での使用に加え、術後の疼痛管理にも利用することで術後に起こりうる心血管合併症や呼吸器合併症、術後イレウスなどの合併症の発症頻度が減少するというデータが報告されています。

 

6、硬膜外鎮痛法の利用

上で述べたように硬膜外麻酔による術後の疼痛管理は非常に大きな利点であり、効果的に鎮痛できることから多くの医療視閲で積極的に実施されています。

また、術後の起こりうる血管合併症、呼吸器合併症、術後イレウスの発症頻度が減少するほか、術後の消化管機能の早期回復といった利点も報告されています。

ただし、術中の実施と同様に、副作用や合併症発症の可能性もあるため、医師・看護師による十分な管理と観察が必要不可欠です。

 

管理と観察

管理 ・  注入前、注入直後、5分後、10分後、15分後、30分後、60分後に血圧を測定する

・  注入後は患者に安静臥床を続けてもらう。必要あれば安静臥床しているか観察を行う

・  注入後しばらくして血圧が回復しない場合、あるいは極端な血圧低下がみられる場合には補欠が必要となることがあるため、医師に相談する

副作用・観察 ・  血圧低下、嘔気・嘔吐、顔面蒼白、生あくび

・  排尿困難

・  徐脈・不整脈

・  発熱、頭痛、注入時痛、挿入局所の圧痛

・  呼吸困難、呼吸停止、意識消失

・  刺入部周辺の感染、皮膚トラブル

・  知覚異常、麻痺

看護 ・  バイタルサイン、副作用の有無を継続観察し、異常があれば継続の可否を医師と相談する

・  決められた流量通りに注入されているか、流量と残量を確認する

・  カテーテルが途中でクランプ(遮断)されていないか確認する

・  カテーテルと接続との緩み、外れ、漏れがないか確認する

・  カテーテルが途中で抜けないようにテープでしっかり固定し管理する

・  持続注入ポンプ、ルート、カテーテルの破損の有無を確認する

 

硬膜外鎮痛法ではカテーテルを留置して継続的に麻酔薬を注入するため、カテーテルの管理はしっかり行ってください。また、バイタルサインはもちろん、起こりうるさまざまな副作用・合併症を念頭に置き、少しでも異常があれば速やかに看護師長ならびに担当医師に報告し、指示を仰いでください。

 

まとめ

硬膜外麻酔には患者に対して多大なメリットがあることから、近年では全身麻酔とともに硬膜外麻酔を行う麻酔法が主流となりつつあります。ただし、軽度・中程度の副作用のほか、発症頻度は極めて少ないものの硬膜外血腫、硬膜外膿腫、神経損傷といった重篤な合併症の発症例もこれまでにいくつか報告されています。

軽度・中程度の副作用は術後にも残存し、場合によっては継続的に発症することもありますので、術後の観察は入念に行い、早期改善を図れるように努めてください。

また、術後における硬膜外鎮痛法では、バイタルサインや副作用・合併症の観察に加え、カテーテルの管理も重要になります。適切な量が注入されているか、カテーテルの遮断や損傷、抜去などがないかをしっかり確認し、患者が安心・安全・安楽に治療に臨めるよう綿密な観察を行っていってください。

 

参考文献

※1) Tryba M : Epidural regional anesthesia and low molecular heparin : Pro. Anasthesiol Intensivmed Notfallmed Schmerzther 28 : 179-181, 1993

※2) Wulf H : Epidural anaesthesia and spinal haematoma. Can J Anaesth 43 : 1260-1271, 1996


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