ドレーンなどの内部に貯留した血液や排液の排出のために行われるミルキング。手技自体は簡単であるものの、不適切な方法で行うと症状の増悪や二次的合併症の発症を助長してしまいます。
ここでは、ミルキングの注意点やミルキングの方法・手順についてご説明しますので、適切な方法で行うための知識習得にお役立てください。
1、ミルキングとは
ミルキングとは、ドレーン(以下、チューブも統合する)に貯留した血液や排液を人為的に、排液バッグの方に流す作業のことを言い、搾って(しごいて)排出を促すことから、「乳搾り」の意味を持つ「Milking」が医療用語として使用されています。
ドレナージには、腹腔ドレーンや胸腔ドレーンなどがあり、各部に貯留した血液や排液などを体外に排出させるために行われます。しかしながら、常にドレーンから十分な量の血液・排液が排出されるわけではなく、また屈曲・圧迫、浮遊物・凝血に伴う狭窄・閉塞などにより、ドレーン内に血液・排液が貯留してしまうことがあります。
この状態が続けば適切に排出されず、ドレナージが正常に行われなくなり、症状の悪化を招いてしまいます。それを防ぐために、適宜ミルキングを行い、正常に流れるようにしてあげる必要があるのです。
なお、ミルキングはドレーンだけでなく、尿道バルーンカテーテルやシャント血管、点滴など、貯留した“液体”を援助的に排出する作業すべてに該当しますが、ここでは主にドレーンにおけるミルキングについてご説明します。
2、ミルキングの種類
ミルキングには、ミルキングローラーと呼ばれる専用の器具を用いて行う場合と、手で行う場合の2つの方法があります。ミルキングローラーを使用すれば、ドレーン内に貯留した血液・排液を効果的に排出させることができますが、その反面、ドレーンを損傷させる恐れがあります。
反対に、手で行えばドレーンを損傷させる可能性は低い反面、ドレーンを圧迫する力が弱く接地面が少ないことで、排出効果はミルキングローラーより劣ります。しかしながら、ミルキングは必ずしも必要な行為ではなく、貯留した血液・排液が自然に排出されることも多々あるため、現在では安全性を考慮して多くの医療施設では手によるミルキングが行われています。
3、ミルキングの注意点
ミルキングでも最も懸念すべきは「逆流」です。特に脳室・脳槽ドレーンにおける髄液の逆流は致命的となり、生死に関わることがあるため、逆流に気をつけ適切な方法で行わなければいけません。
また、シャント血管におけるミルキングは、血管の状態によって禁忌が存在します。①シャント作製後2週間未満、②新シャント穿刺3回目までの血管、③狭窄部位に強度の痛み・腫脹がある場合、④シャント瘤が外科的に処置が必要となる血管、⑤ステントのエッジ部分、⑥高齢者・表皮が薄くない血管や表皮剥離のリスクがある場合など、禁忌は多岐に渡るため、シャント血管におけるミルキングは医師の指示に従ってください。
4、ミルキングの方法
ミルキングの方法は至ってシンプルで難しいものではありませんが、逆流により重篤な疾患を助長する危険があるため、逆流に留意して適切な方法で実施する必要があります。
以下に、「ミルキングローラー使用時」の方法と、「手で行う場合」の方法の2通りをご紹介しますが、基本的な方法はどちらも同じです。
4-1、ミルキングローラー使用時
①ドレーンを手で持つ
ドレーン抜去を防ぐために、引っ張らないよう少し撓みをもたせるように手で持ち固定します。また、逆流を防ぐために、ミルキングしたい位置よりやや患者側のドレーンを指で遮断し、そのまま保持します。
②ローラーを挟む
ミルキングしたい場所にローラーの中央を挟みます。ローラーのエッジ部(端)を挟むと、ローラーが回転せずドレーンを損傷させる危険があるため、必ず中央を挟むようにしてください。
③ゆっくり滑らせ排出させる
ハンドルを押さえたまま、ゆっくり排液バッグの方に滑らすような感じで移動させ排出を促します。この際、ドレーンが引っ張られることで抜去の可能性があるため、ドレーンを持っている手(指)をしっかり固定しておいてください。
④伸びたドレーンを元に戻す
排出が終わると、ローラーで挟んだまま、ミルキングによって伸びてしまったドレーンを元に戻します。
⑤遮断した流路を解放する
最初に指で遮断していた患者側のドレーンを開放し、次にローラーのハンドルを緩めて流路を開放します。これらの作業を必要な回数繰り返してミルキングを行います。
4-2、手で行う場合
①ドレーンを手で持つ
ドレーン抜去を防ぐために、引っ張らないよう少し撓みをもたせるように手で持ち固定します。また、逆流を防ぐために、ミルキングしたい位置よりやや患者側のドレーンを指で遮断し、そのまま保持します。
②ゆっくり滑らせ排出させる
ミルキングした場所を反対の手の親指と人差し指で圧迫しながら、ゆっくりと排液バック側へずらして排出させます。
どちらも逆流を防ぐため、また効果的に排出させるために、患者側のドレーンより排液バック側が下になるようにし、ゆっくり絞るようにしてください。
まとめ
ミルキング自体はそれほど難しいものではありませんが、不適切な方法で行うと逆流の危険があります。また、強く搾りすぎるとドレーンが損傷し交換が必要となることもあるため、適切な方法で行う必要があります。
ミルキングローラーを使用する場合には、損傷の危険がさらに高くなりますが、必ず医師の指示のもとで使用するようにしてください。