人工呼吸法の1つである「NPPV」。侵襲性は低いものの、合併症の発症率が高いことで看護量は多い傾向にあります。ゆえに、さまざまな項目について綿密な観察を行わなければいけません。
また、機器関連トラブルも多く、早急な対処が行われなければ場合によっては重篤化することもあるため、機器の操作やアラーム発生時の対処についてもしっかり把握しておく必要があります。
1、NPPV
NPPV(非侵襲的陽圧呼吸法)は、気管挿管や気管切開などの侵襲的処置を行わず、マスク装着だけで一定の圧力や空気量を肺に送る人工呼吸法のことです。
人工呼吸法には他にも気管挿管や気管切開を行うIPPV(侵襲的陽圧呼吸法)がありますが、IPPVは主に自発的に呼吸ができない患者に対して適応となり、NPPVは自発呼吸ができる患者に対して適応となります。また、それぞれの相違点は以下のように多岐に渡ります。
■NPPVとIPPVの相違点
NPPV | IPPV | |
気管内挿管 | 不要 | 必要 |
気管内吸引の難度 | 困難 | 容易 |
気道・食道の分離(気道確保) | 確保されない | 確保される |
回路のリークの有無 | あり | なし |
O2濃度 | BiPAP Visionのみ設定可能 | 設定可能 |
発声・食事の可否 | 可能 | 基本的には不可能 |
鎮痛剤など薬剤の使用 | なし | 必要になることが多い |
意識レベル | 維持 | 鎮静することが多い |
患者からの訴え | 判断が容易 | 判断が困難 |
合併症の発生(VAPなど) | 少ない | 多い |
口腔内の清潔保持 | 保持が容易 | 保持が困難 |
離脱の難度 | 比較的容易 | 慎重 |
看護ケアの必要性 | 多い | 安定すれば比較的少ない |
■NPPVとIPPVの長所
NPPV | IPPV |
・ 侵襲性が低い(気管内挿管・気管切開の必要がない)
・ 食事や会話が可能である ・ VAP(人工呼吸器関連肺炎)などの感染症の発症率が低い ・ 鎮静剤を軽減できる ・ 咳反射の温存、気道クリアランスの保持 ・ 血行動態や頻脈が改善できる ・ 酸素化が改善できる(Pa02/Fi02上昇) ・ 換気の補助が可能である ・ 入院期間の短縮、死亡率が改善できる |
・ 自発呼吸ができない患者に有効である
・ 確実に気道確保ができる
・ 気道内吸引が容易である
・ 誤嚥の可能性が少ない
・ 呼吸や循環管理が容易である |
■NPPVとIPPVの短所
NPPV | IPPV |
・ 呑気や誤嚥の可能性がある(気道と食道を同時に送気することにより)
・ 患者の協力が不可欠である ・ 意思疎通のできる患者のみに使用可能 ・ 自発呼吸がある患者のみに使用可能 ・ 高気道内圧をかけることができない ・ 血圧低下や尿量減少がみられる ・ マスクによる顔面圧迫に伴う皮膚障害が形成されやすい |
・ 気管内チューブや吸引による苦痛が伴う ・ 鎮静剤などの薬剤が必要となる ・ VAP(人工呼吸器関連肺炎)などの感染症の発症率が高い ・ コミュニケーションや活動が制限される |
NPPVは自発呼吸ができる患者に対して、簡便に開始できる反面、患者の協力が不可欠であり、看護量も多いのが特徴です。それゆえ、看護師はNPPVを行う患者に対して、適切かつ綿密な観察とより良い看護を行わなければいけません。
2、NPPVの適応・禁忌
NPPVが開始される条件として自発呼吸が可能であることが第一であり、その他にもさまざまな条件が存在します。また反対に、禁忌となる症例も数多くあり、NPPVが実施できない場合にはIPPVの実施が検討されます。
■NPPVの適応
・ 意識が良好で患者が協力的である
・ 自発呼吸が可能、循環動態が安定している ・ 気道が確保できており喀痰の排出ができる ・ 消化管が活動している(閉塞などがない) ・ 気道分泌物がコントロールできる ・ 顔面の外傷がなくマスク着用が可能である |
■NPPVの禁忌
・ 非協力的で不穏な状態にある
・ 気道が確保されておらず喀痰の排出が困難である ・ 呼吸停止、昏睡、意識状態が悪い ・ 自発状態のない状態での換気が必要である ・ 顔面に外傷、火傷などがありマスク着用が困難である ・ 咳反射がない、または乏しい ・ ドレナージされていない気胸がある ・ 嘔吐、腸管の閉塞、アクティブな消化管出血がある ・ 気道分泌物がコントロールできない ・ 誤嚥の危険性が高い |
なお、NPPV実施時に、病態・意識レベルの悪化、症状が軽減されない、新たな合併症の発現などがみられると、IPPVに移行することもあります。
3、NPPVに伴う合併症
NPPVは、常時マスクを着用し口と鼻の同時送気により、「皮膚トラブル」「口腔・鼻腔内の乾燥」「結膜の乾燥」「呑気・腹部膨張」「圧迫感・不快感」などの合併症が起こることがあります。
これら1つ1つは重大な合併症ではないものの、改善が困難であることから、患者の著しいQOL低下を助長します。それゆえ、合併症を起こさないために、まずは患者の全身状態を細かく観察し、機器側の綿密な管理を行っていくことが大切です。
■皮膚トラブル
常時、マスクを着用していることで、特に鼻根部や前額部が圧迫され、皮膚損傷や褥瘡などの皮膚トラブルが起こり得ます。マスク着用によるスキントラブルの発症率は約30%にのぼり、リーク漏れを防ぐためにキツく固定することが主な原因です。
キツく固定することは非常に重要ですが、30L/min以内であれば、多少のリーク漏れは許容できる範囲内ですので、30L/minを目安にゆるめるのもよいでしょう。また、褥瘡を防ぐために、呼吸が安定している場合には2時間に1回ほどの頻度でマスクを外し、圧迫解除を行う工夫も大切です。
予防的対策 |
・ 前額部、鼻根部、頬部など好発部位に皮膚保護剤(ディオアクティブET・CGF)を貼用する
・ 許容の範囲内でマスクの固定を緩める ・ 2時間に1回程度の頻度でマスクを外し、皮膚の観察・圧迫解除を行う ・ 清拭や洗顔などを定期的に行い、皮膚を清潔に保つ ・ マスクのサイズまたは種類の変更を検討する |
■口腔・鼻腔内の乾燥
NPPVは口や鼻を介して多量の空気を出し入れするため、口腔や鼻腔内が常に乾燥した状態になります。程度に差はあるものの避けることが不可能であり、うがいや口腔ケアの施行、加湿器の使用が必要不可欠です。また、口腔内用の保湿剤の塗布も有効であるため、積極的に実施していきましょう。
予防的対策 |
・ 加温加湿器を使用する
・ 口腔ケア、含嗽の施行する ・ 保湿ケア、保湿剤を使用する(オーラルバランスやホウ砂グリセリン) |
■結膜の乾燥
結膜の乾燥は、フルフェイスマスクやトータルフェイスマスクの着用で発生しやすく、鼻根部や尾翼部からのリークにより、気流が目に当たることで起こります。急性期において点眼薬や眼洗浄などにより対応しますが、急性期を脱したらマスクの変更を検討するなどの工夫が必要です。
また、大量のエアリークがある場合にはマスクの再固定が必要ですが、キツく固定しすぎると皮膚トラブルを助長させるため、固定の圧加減には注意しなければいけません。
予防的対処 |
・ 加温加湿器の使用、加温加湿レベルを検討する
・ 大量のリークがある場合には、マスクの再固定を行う ・ マスクのサイズや種類の変更を検討する ・ 点眼薬や眼洗浄を検討する |
■呑気・腹部膨張
NPPVでは、マスクによって口と鼻を同時に送気するため、胃に空気が入り込んでしまい呑気や腹部膨張が起こることがあります。呑気・腹部膨張には胃管の挿入・留置による脱気が最も有効ですが、そのほか、設定圧の変更や排便コントロールも有効な手段です。
予防的対処 |
・ 胃管の挿入による脱気を行う
・ 排便コントロールを行う ・ 設定圧が高いことで腹痛、腹部膨張が強い場合は設定変更を検討する |
■圧迫感・不快感
覚醒下でマスクを使用して換気を行うため、実施早期においてはマスクによる圧迫感や不快感が必ずあります。マスクによる圧迫感・不快感は、マスクの固定を緩めたり、サイズや種類の変更が有効ですが、固定を緩める場合にはリーク漏れを考慮してください。
予防的対処 |
・ マスクの固定を緩める
・ マスクのサイズや種類の変更を検討する ・ 設定圧が高いことで圧迫感、不快感が強い場合は設定変更を検討する |
これらはNPPVを実施している以上、完全に避けることはできず、1つ1つは軽度な合併症であるものの、長期化することでQOLは著しく低下します。特に皮膚トラブルは発症すると改善するのに時間がかかるため、マスク装着部や患者の全身状態を綿密に観察した上で、予防のための対処を積極的に行っていってください。
4、NPPV施行中の観察項目
NPPV施行中の観察項目は主に、患者の「呼吸状態」「循環状態」「意識レベル」「消化器症状」などです。何かしらの異常があれば機器側(BiPAP Vision(後述))でアラームが発せられますが、その兆候を瞬時に察知するためにも、以下のように患者の観察が不可欠です。
呼吸音 | 血液ガスデータ |
呼吸回数 | 1回換気量・分時換気量 |
呼吸パターン | 気道内圧 |
呼吸困難感 | リーク量 |
補助呼吸筋の動き | 安全弁(呼気ポート)の開閉 |
胸郭の動き | 意識レベル |
NPPVと患者の同調性 | ECGや血圧などの循環動態 |
気道分泌物の量・喀痰状況 | グラフィックモニター |
SPO2 | NPPVの合併症の有無 |
これら観察項目はNPPVのものですが、原疾患に関する観察も忘れないよう注意してください。また、NPPV使用中に高い圧をかけている場合には、肺の圧損傷(緊張性気胸)や腹部膨張などの合併症を引き起こすことがあるため、高圧時には特に注意しておきましょう。
5、BiPAPの操作・設定
BiPAP(BiPAP Vision)とは、NPPVに使用される機器(フジ・レスピロニクス社)のことで、その高い品質と性能により、現在では多くの医療施設に設備されています。
呼吸器関連の医療用語の中にBIPAP(Iの文字が大きい)がありますが、これは高相と低相の二相のPEEPを一定時間交互に繰り返す“換気モード”のことであり、BiPAPとBIPAPは根本的に異なります。
ここでは、多くの医療施設に設備されているフジ・レスピロニクス社の製品「BiPAP」の操作・設定についてご説明します。
■BiPAPの外観
■モニタリング項目
表示の種類 | 単位 | 表示内容 |
Vt | MI | 一回換気量(計算された予測値) |
MinVent | L/min | 分時換気量(計算された予測値) |
PIP | cmH2O | 最高気道内圧 |
Ti/Ttot | % | 吸気の割合 |
Pt.Leak | L/min | マスクからのリーク量(呼気ポートを行わないと表示されない) |
Tot.Leak | L/min | 呼気ポートやマスクからの全てのリーク量 |
Pt.Trig | % | 過去30分の自発呼吸の割合 |
■アラーム項目
内容と画面表示 | LED | アラーム音 | 原因・対処 |
電源消失
(画面表示なし) |
点滅 | ピッ ピッ | 機器の接続不良や電源の供給不良などが原因です。他のAC電源に接続してください。 |
作動停止
Ventilator Inoperative |
点灯 | ピー | 機器関連トラブルが原因です。直ちに患者からマスクを外し、手動蘇生器または別の人工呼吸器に切替えてください。 |
圧下限
Low Pressure |
点滅 | ピピピッピピッ | 呼吸回路の破損または接続外れが原因です。インレットフィルタの汚れや空気取入口の閉塞、リーク漏れを確認してください。 |
圧上限
High Pressure |
点滅 | ピピピッピピッ | 患者の容態の変化(ファイティングなどの可能性)や回路の閉塞が原因です。まずは患者の状態を確認し、異常がなければ閉塞箇所・閉塞原因を特定・改善してください。 |
分時換気量下限
Low Minute Vent |
点滅 | ピピピッピピッ | 呼吸回数・1回換気量の低下/呼吸回路からのリーク漏れが原因です。患者の状態を確認し、患者の呼吸に問題があれば、処置とともに1回換気量や呼吸数などの設定変更を行ってください。 |
回路外れ
Patient Disconnect |
点滅 | ピピピッピピッ | 回路の接続不良または接続外れが原因です。回路を接続し直すか、リークを修正してください。 |
無呼吸
Apnea |
点滅 | ピピピッピピッ | 患者の容態の変化(無呼吸や呼吸間隔の延長などの可能性)が原因です。直ちに蘇生などの治療・処置を行ってください。 |
まとめ
自発呼吸の可能な患者に対して実施されるNPPVは、IPPVと比べて侵襲が低いものの、看護量が多いのが特徴です。また、皮膚トラブルや各部乾燥などの合併症が起きやすいため、患者の全身状態をよく観察しておく必要があります。
NPPVにはBiPAPが広く使用されているため、操作・設定変更方法やアラームの内容・対処は必ず覚えておきましょう。なお、患者の年齢や状態に応じてV60やCarinaなど他の機器も広く使用されていますので、所属する医療施設に設置してあるすべての機器の使い方は必ず把握しておいてください。