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看護における「プロセスレコード」の目的と書き方・記入例

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プロセスレコード看護

患者との会話や出来事を振り返り考察し、それを記録に留める「プロセスレコード」。患者理解やコミュニケーション力の向上を図ることができ、昨今では看護学校や新人看護師の教育の一環として広く活用されています。

ここでは、看護におけるプロセスレコードの目的と書き方・記入例をご説明しますので、ぜひプロセスレコードの知識習得にお役立てください。

 

1、プロセスレコードとは

プロセスレコードとは、1952年にヒルデガルド・ペプロウが提唱した、看護師と患者間の相互関係における文章記録のことで、看護の振り返りとして行われる「リフレクション」の過程の中での記録にも用いられています。

患者の身の回りのお世話や手技による看護実践はもちろん、言語・非言語による「コミュニケーション」も看護の1つであり、多くの場合、傾聴することで患者の精神的安楽を図ることができます。

しかしながら、日々の関わり合いの中では、患者が何を考えているのか、何を感じているのかという気持ちを瞬時に理解することは難しいのが実情です。

そこで、患者との関わり合いの中で気になった会話や行動を振り返り、患者の言動は何を意味していたのか、自分の言動が患者にどのような影響を与えたのか、状況に応じて適切な回答ができたのかなどを具体的に文章に記す「プロセスレコード」が重要になってくるのです。

 

2、プロセスレコードの目的

プロセスレコードを用いて看護師と患者の会話を振り返り、それを記録として残すことで、明確に会話を抽出することができます。

また、抽出した会話文を見ながら、患者が何を思ってそのように発言したのか、自分が話したことやとった行動が正しかったのかなど、1つ1つの会話を考察することができます。

これらを文章に記さず頭の中だけで行うと、適切かつ詳細に振り返ることができず、1つ1つの会話を考察することができないため、プロセスレコードの用紙に記入することが大切なのです。

また、プロレスレコードを実施することで、患者の気持ちをより理解できるようになる、患者と良好な関係を築けるようになるなど、コミュニケーション力の向上を図ることができます。

 

コミュニケーションによる学び

非言語コミュニケーションについての学び 患者の表情・仕草・行動などを通して、患者が何を考え何を思い何を伝えたいのかを知ることができる。
コミュニケーションは援助的な関わりである 看護実践だけが患者に対する看護行為なのではなく、患者の考えや思いが分かれば、患者は落ち着き、精神的安楽を図ることができる。
患者のペースや待つことが大切 会話の中で間を取ること、患者の話すスピードに合わせること、沈黙することで、患者が訴えを伝えやすい雰囲気を作ることができる。
受容・傾斜・共感の行動が大切 患者が抱える不安や恐れは、話すことで多少なりとも緩和され、患者が話すことをしっかり傾斜した上で、受容・共感の態度を示せば、患者の不安や恐れを取り除くことができる。
患者理解の重要性 全ての患者がよく話すとは限らず、話すのが恥ずかしい、日によっては話す気分ではないなど、患者によって異なるということを理解することが大切だと分かる。
信頼関係形成の基盤 患者のことを一番に考え寄り添うよう対応することで、患者から率先的に話しかけてくれたり、本当の思いを話してくれるなど、良い関係を築くことができる。
意図的に関わることが大切 自分が間違った対応をしたのではないか、本心ではどう思っているのかを自分なりに解釈し伝えることで、患者は自分のことを気にかけてくれていると感じ、寄り添う看護を実現できる。
注意深い観察が大切 無口で訴えの少ない患者に対しては、表情・視線・話し方などこれまでの変化がないか注意深く観察し接することで、気分や感情が次第に分かるようになる。
共にいる、患者の気持ちに寄り添う 患者の訴えに耳を傾け気持ちを理解し、一緒に考え一緒に悩む、それだけでも十分看護になり得る。

 

このように、コミュニケーションは患者理解や良好な関係構築のために非常に重要なものであり、プロセスレコードを通して1つ1つ会話を考察することで、何がダメだったのか、何が良かったのか、どのようなことを改善すれば良いのかなど、自身のコミュニケーション力を高めることができるのです。

 

3、プロセスレコードの書き方・記入例

プロセスレコードで用いられる様式は医療施設や教育機関によってさまざまですが、日本で用いられる様式の多くは、「患者情報」「患者の言動(行動)」「私(看護師)が感じたこと」「私(看護師)の言動(行動)」「分析・考察」の項目が記載されています。

なお、プロセスレコードの要となる「患者の言動(行動)」「私(看護師)が感じたこと」「私(看護師)の言動(行動)」は、それぞれ時系列で記入していきます。

 

プロセスレコードの事例

≪患者情報≫

C氏 58歳 男性 統合失調症 入院期間:10年

幻覚(幻聴)が活発な状態である

≪この場面をとった動機≫

幻聴によって言動が左右されているC氏に、どう対応したらよいのかわからなかった。もう少し、C氏の気持ちを汲んだ対応を考えたかったから

患者の言動 私が感じたこと考えたこと 私の言動
①「先生が退院はダメだけど、学生さんと相談して学生さんがいいよって言うんだったら、退院していいよって」 ②えっ、本当にそうおっしゃったのかな? ③「先生が本当にそうおっしゃいましたか?」
④「うん、そう言ったよ」 ⑤どうしよう、何て言おうかなあ ⑥「先生のほうが私よりえらいので、私は勝手に判断できないんです」
⑦「けど、先生がそう言ってたし頼むよ、何でもするし・・・」 ⑧どうしよう、どうしたらいいのだろう ⑨「私、学生なので勝手に決められないんです」
≪分析・考察≫

C氏が退院の希望を強く持っていることが分かった。また、その希望の強さから幻覚の内容はできあがっているのではないだろうか。

はじめ、私はC氏の言葉に混乱してしまい⑥⑨のように曖昧な対応を続けてしまっている。

≪私がこの場面で学んだこと≫

幻聴に左右されているC氏も混乱しているし、私も同じように混乱していたのでは、判断がお互いにつかなくなる。落ち着いて、じっくりC氏の言葉を聴いていくことが大切であると思う。(以下略)

長谷川雅美・白波瀬裕美『自己理解・対象理解を深めるプロセスレコード』39項より抜粋、一部改変

 

  • 患者情報

患者の氏名(特定できないように)、年齢、性別、現病名、入院期間、症状など、患者の情報を記入します。どの患者との会話・行動の記録なのかを明瞭にするために、簡潔かつ可能な限り詳しく書いてください。

 

  • 患者の言動(行動)

患者がどのような言動を発したのか、どのような行動をとったのかを記入します。ここでは患者の発言や行動をそのまま書いてください。

 

  • (看護師)が感じたこと

患者の言動(行動)に対して、患者がなぜそのような言動を発したのか、なぜそのような行動をとったのかについて、あなたなりに感じたことを記入します。ここでも堅い文章を使う必要はなく、あなたが感じたことをそのまま書いて構いません。

 

  • (看護師)の言動(行動)

患者の言動(行動)に対して、あなたが発した言葉やとった行動を記入します。ここでも堅い文章を使う必要はなく、あなたの発言や行動をそのまま書いて構いません。

 

  • 分析・考察

患者の発言や行動は病気によるものなのか、性格によるものなのか、真意は何だと思うのか、あなたの発言や行動は回答として相応しかったのかなど、会話を振り返って思うこと、気づいたこと、分かったことを記入します。

 

このように1つ1つの発言や行動を抽出し、それに関する考察を行うことで、患者の真意やあなたの発言・行動の正誤を確かめることができます。

 

4、プロセスレコードに関する研究

プロセスレコードは、コミュニケーション力の向上や看護実践に役立つことから、これまでに数多くの研究で活用されています。

最後に、プロセスレコードの事例集(記入例)、文献・雑誌をいくつかご紹介しますので、プロセスレコードについて深く学びたいという方は閲読の上、参考にしましょう。

なお、当ページから移動できないものに関しては、医中誌など教育機関や医療施設付属のパソコンで閲読することができます。

 

プロセスレコードの事例集

論題 著者
プロセスレコードの分析からみた患者への対応に関する考察 丸橋 佐和子、山本 裕子、柳井 勉
プロセスレコード(見本例) 社会福祉法人 福岡県社会福祉協議会 ふくふくネット
プロセスレコード 記入例 一般社団法人 鹿児島県介護福祉士会
成人看護学実習における教師の実践的力量の検討 芥川清香、奥祥子、安酸史子
平成8年度 山口県実習指導者養成講習会集録「ふれあい」 山口県看護協会

 

プロセスレコードの文献・雑誌

学生が困った場面を振り返ることの学習効果-精神看護学実習におけるプロセスレコードの分析より-

名古屋市立大学看護学部紀要, 第1巻

三原 亜矢巳、夛喜田 恵子
臨地実習における患者-学生間のコミュニケーションの分析-テクストとしてのプロセスレコードの内容分析を通して-

沖縄県立看護大学紀要, (6): 10-24.

伊礼 優、岡村 純、栗栖 瑛子
精神看護学実習においてプロセスレコードに取り上げられたテーマと学習内容(報告)

滋賀医科大学看護学ジャーナル,  1(1): 56-66

片岡 三佳、須藤 葵、瀧川 薫
スタッフの対応が認知症患者に与える影響 : プロセスレコードの分析から

日本看護学会論文集. 精神看護45, 107-110,

大野 明子、伊藤 信子、渡邉 美紀、他
看護学生の観察力の変化に関する研究 : プロセスレコードに記載された患者の非言語的表現の分析

青森中央短期大学研究紀要(27), 57-64,

秋庭 由佳、藤澤 珠織、松島 正起、他
看護とコミュニケーション授業『プロセスレコード演習』における教育的効果 : 場面を選んだ理由と学びの分析から

川崎市立看護短期大学紀要19(1), 1-9,

福永 ひとみ、吉村 惠美子
在宅看護論実習におけるプロセスレコード活用の教育的効果の検討

日本看護学会論文集. 地域看護44, 212-215,

内藤 恭子、篠田 晃子、深谷 由美、他
認知症患者家族に対する看護師のコミュニケーションの実際 : プロセスレコードの分析を通して見えてきたもの

日本看護学会論文集. 精神看護44, 82-85,

河野 裕子、大坂 望美、藤田 清美、他
再発婦人科がん患者に対する人間中心的コーチングの実践 : プロセスレコードを用いた効果的なコミュニケーションの探求

看護研究集録 24, 35-40,

廣井 由佳、廣田 良子、藤野 聖子、松永 理子、吉村 久美
在宅看護論実習における療養者と家族の理解を深めるためのコミュニケーション能力支援 : プロセスレコード活用の試み

日本看護学会論文集. 地域看護43, 187-190,

御田村 相模、深谷 由美、篠田 晃子、他
精神科看護師の異和感を抱いた要因とそのサポート〜事例検討会とプロセスレコードでの振り返りを通して〜

看護研究集録 平成21年度, 9-12,

小西 亜侑美、若林 優
看護初学者のプロセスレコードからみるコミュニケーションの特徴

三重看護学誌 14(1), 141-148,

林 智子、井村 香積

 

まとめ

プロセスレコードにより、患者との会話や出来事を振り返ることで、患者の考えや思い、何が大切だったのかなど、さまざまなことを知ることができます。

また、この取り組みを継続的に行うことで、コミュニケーション力の向上を図ることができ、患者によりよい看護を提供できるようになります。

プロセスレコードを用いなくても、日々、患者と接する中で言動・表情・仕草などを観察し続ければ患者理解が深まり、コミュニケーション力は次第に高まっていきますので、日々綿密な観察を続けていってください。

 

【参考文献】

精神看護学実習におけるコミュニケーション技術を通しての学生の学び

自己理解・対象理解を深めるプロセスレコード-プロセスレコードが書ける、読める、評価できる本


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