看護サマリーの記載にあたって、どう書いていいのか分からない、やる気がでないという人は非常に多いのではないでしょうか。しかしながら、看護サマリーは患者に対して継続的に質の高いケアを提供するために欠かせないものです。それゆえ、新人看護師の方は早期に書き方をマスターし、記載に慣れてきた場合でも高い意識を持って取り組まなければいけません。
当ページでは、看護サマリーの概要に加え、書き方のコツについてご説明しますので、看護サマリーに何かしらの負の感情をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みいただき、参考にしていただければ幸いです。
1、看護サマリーとは
看護サマリーとは、いわゆる患者の情報を要約した情報(書類)であり、患者が退院する際や他の病棟へ移る際に、次の受け入れ先へ情報を伝達するために作成します。
主に①患者の基本情報、②病名、③現病歴、④既往歴、⑤ADL(日常生活動作)、⑥投与薬、⑦看護上の問題点、⑧患者・家族への説明などを記載します。ただし、看護サマリーの書式は定型化されていなく、病院・施設によって異なります。
なお、看護サマリーには上述の「退院時(転院時)看護サマリー」のほか、入院中の中間評価として作成する「中間看護サマリー」がありますが、ここでは「退院時(転院時)看護サマリー」に焦点を当ててお話しします。
2、看護サマリーの必要性
看護サマリーがないと、患者情報が正しく共有されず、次の受け入れ先ではこれまでにどのような治療・看護がなされてきたのかという情報が分からず、疾患の改善を遅らせてしまいます。ゆえに、正しく患者情報を引き継ぐこと(看護サマリーの作成)は非常に重要なのです。
しかしながら、看護サマリーが苦手という看護師が多く、多忙などにより軽視されている、また疎かにされているのが現状です。看護師は何も直接的な看護だけが業務ではなく、長期的な看護を視野に入れ、最後まで責任を持って患者のために取り組まなければ、一流の看護師とは言えません。
看護サマリーを初めて記載する方や経験が少ない方だけでなく、熟練の方も適当に記載するのではなく、さまざまな情報元を参考に、次の受け入れ先で適切に看護がなされるよう、正確にそして時間をかけて記載する必要があります。
3、看護サマリーの問題点
上述のように看護サマリーの作成は非常に重要であり、正確かつ簡潔的に記載・引き継ぎを行わなければいけません。しかし、①多忙により記述する時間がない、②先輩看護師が教えてくれない、③フィードバックが得られない、④情報の伝達が不十分など、さまざまな問題点があり、これらによって看護サマリーが軽視または疎かにされているのです。
①多忙により記述する時間がない
看護師の看護業務は忙しく、看護師が不足している病院・病棟では特に、看護業務に追われて残業することもしばしばあるでしょう。そこにさらに看護サマリーを記述するとなると残業は当たり前となり、ほとんどボランティアといった感覚に陥ります。また、記述するのに早くて30分、場合によって1~2時間かかることもあり、これが長く続くと意欲の消失ならびに心身疲労となります。これが、看護サマリーが疎かにされている最も大きな要因と言えるでしょう。
②先輩看護師が教えてくれない
看護サマリーの書式は病院・施設によって異なります。よって、各病院・施設の書式に合わせて記述する必要があります。しかしながら、先輩看護師の多くは教えてくれないでしょう。もちろん、多忙により教える時間がないという場合もあるでしょうが、“教え方が分からない”というのが大きな要因となっています。自身がいかに書き方を把握していても、1つ1つ細やかに教えるのは困難です。よって、書き方をマスターするためには、言葉による教授ではなく、記述済みの看護サマリーを参考にするのが最良の手段と言えます。
③フィードバックが得られない
自身が記述した看護サマリーが次の受け入れ先でどこまで活用されているのか、そのフィードバックを受けることができません。それに伴い、どのように改善すればいいのか、どのような情報が不足していたのかが分からず、向上心や意欲が削がれてしまいます。
④情報の伝達が不十分
1人の看護師が1人の患者を24時間、看護をするわけではなく、病棟内で毎日引き継ぎが行われます。しかしながら、引き継ぎにおける情報共有は口頭で行われることが多く、すべての患者情報を把握できるわけではありません。それゆえ、どのように患者情報を取得して整理すれば良いのか、どのようにまとめれば良いのかが分からないのです。
このように、看護サマリーを作成する上でさまざまな弊害があることで、疎かにされがちなのです。しかしながら、情報の伝達が上手くいかないと、患者に適切な看護が実施されないだけでなく、事故発生の危険性も高めてしまいます。そのため、作成上さまざまな問題点が存在するものの、正確に患者情報を記述する必要があるのです。
3、看護サマリーの書式
看護サマリーは病院・施設によって異なりますが、一般的には①患者の基本情報、②病名、③現病歴、④既往歴、⑤ADL(日常生活動作)、⑥投与薬、⑦看護上の問題点、⑧患者・家族への説明、に関して記述する欄が設けられています。
出典:長崎県看護協会
①患者の基本情報 | 患者の氏名、生年月日、性別、住所、入院日など、患者の基本情報を記載します。基本情報は看護記録に記載されているため、そのまま抽出しましょう。 |
②病名 | 医師より診断された病名を記載します。 |
③現病歴 | 現病がいつからどのように始まり、どのような経過をとってきたのか、どのような症状が出たのかを記述します。医師の紹介状を抜粋するのではなく、看護の視点から現病の経過を記述し、特に現状(最終的にどうなったのか)を記述することが大切です。 |
④既往歴 | これまで患った病気を記載します。患者・家族からの聴取のほか、入院カルテから抽出することができます。なお、既往歴が多い場合には、必要・不要を判断し、現病と関連の深い病気のみ記載します。 |
⑤ADL(日常生活動作) | 寝たきり度、麻痺、起居・移動、歩行、排泄、食事、更衣など、現在の日常生活動作について記述します。ADLは入院中に大きく変動するため、現状を正しく把握しておかなければいけません。 |
⑥内服薬 | 内服している薬を記載します。 |
⑦看護上の問題点 | これまで看護を行ってきた中で、問題となっている事柄(看護問題)について記述します。転院の場合は入院に際する看護問題、退院の場合は退院に際する看護問題を記述します。
これまでの看護の中で試行錯誤の末に浮上したさまざまな問題を他者が引き継ぎ、問題解決のために取り組むための情報であるため、看護上の患者のすべての問題を正しく引き継げるよう、可能な限り詳細かつ分かりやすく書く必要があります。 |
⑧患者・家族への説明 | 患者・家族に対して医師から説明が行われますが、内容が乏しい場合もあるため、看護師の立場から説明内容を付け加えるとともに、理解や受け止め方、同意の状況について記述します。 |
このように、引き継ぎに必要となる情報を記載しますが、中でも記載に際して困難となるのが「現病歴」と「看護上の問題点」です。この2つはこれまでの治療・看護の一連を把握しておかなければ詳しく書くことができません。よって、日頃から他の担当看護師との患者情報の共有が必要不可欠です。
また、患者に対する看護ケアが各看護師によって異なる場合、たとえば“言ってることが違う”ことがあると患者は困惑し、時に精神状態が不安定になることもあるため、看護サマリーにおいてだけでなく、医療従事者間での日頃からの情報共有は非常に大切です。
4、看護サマリー記載におけるコツ
まず、どのように書けば良いのかということに関しては、ネット上で調べるのはあまり良い方法とは言えません。というのも、看護サマリーの書き方に正解はなく、病院・施設によって書式が異なり、また人によって書き方が異なるからです。それゆえ、書き方に関しては既存の看護サマリーを参考にするか、先輩看護師の看護サマリーをタイムリーに見せてもらうかするのが習得の近道です。
よって、ここではどのように作成時間を短くするかに重点をおいて、看護サマリーの書き方のコツを精神論も踏まえてご紹介します。
■日頃からしっかりと情報共有をしておく
上で軽く触れましたが、「現病歴」や「看護上の問題」においては、これまでどのような治療・看護が行われてきたのか、その過程で生じた問題は何かなど、一連の情報を把握しておかなければ容易にまとめることができず、時間がかかってしまいます。それゆえ、夜勤従事者やチーム間で日頃から情報共有をしっかり行い、口頭だけでなくメモをとるなどして、気になることを書き留めておきましょう。そうすることで、記載時間の削減はもちろん、次の受け入れ先へ患者情報を正確に引き継ぐことができます。
■目的を明確にする
ダラダラ書いていては当然時間がかかります。“誰に”“何のために”書いているのか、その目的を明確にすることで、より容易にまとめやすくなります。たとえば、自分ならこのように書いてくれたら分かりやすい!というように、引き継ぐ側の気持ちになって書くのです。これは一つの心理であり、目的があれば効率的(時間の短縮)に行うことができ、またやる気にも繋がります。
■書ける時に書く
看護師の多くは複数の患者の看護サマリーを“一気”に書いているのではないでしょうか。こうすると、書くことへの精神的負担が大きくなり、心理的に書くのが“嫌”になってしまいます。また、複数の患者情報を一度に考えながら書くと混乱しやすく、患者一人に対する看護サマリーの記載時間が長くなり、結局のところ非効率になります。よって、複数の患者の看護サマリーを一度に書くのではなく、転院・退院が決定したら出来るだけ早く作成するようにしましょう。
■経過が長い場合は要約する
入院期間が長い患者の看護サマリーで、これまでの経過を長々と書く方がいますが、引き継ぐ相手にとってはその全てを必要とすることは少ないと言えます。また、これまでの経過を振り返る時間が長くなることで、必然と記載時間が長くなってしまいます。それゆえ、「入院時・中間・現状」の3つ時期だけピックアップしましょう。
5、参考になる書籍
最後に、看護サマリーの作成にあたって参考となる書籍をご紹介します。看護サマリーに関する書籍の数は非常に少なく、書かれていても看護記録の一部として軽く触れられているだけのものが多いのが現状です。書籍数は少ないながら、参考になる教本は出版されていますので、看護サマリーに関してもっと知識を増やしたいという方は読んでみてはいかがでしょうか。
看護サマリー(退院時)にどのような内容が書かれていれば患者の支援に役立ち、引き継ぎ先に必要とされるものになるのか、患者の円滑な移行に重点を置いて詳しく書かれています。看護サマリーの書籍の中で文章量が多く、参考度は最も高いと言え、知識の習得を目指す方はぜひとも読んでおきたい一冊です。 |
東京都立病院で使われている「看護記録表現事例集」を基に、看護記録・看護サマリーに記述してはいけない例など文章の書き方に重点を置いて詳しく書かれています。看護記録全体についての書籍ですが、文章の選び方などは看護サマリーにおいても大いに役立ちます。看護記録の書き方が分からないという方は、ついでに勉強してみてはいかがでしょうか。 |
まとめ
看護サマリーは患者が転院後(退院後)も適切な看護ケアを受けられるよう支援する情報であり、患者のために必ず必要なものです。毎日の看護業務は多忙を極め、看護サマリーの記載を疎かにしがちで、また単調になりがちですが、担当している間だけ看護に携わるという考え方ではなく、長期的な視点で親身になって看護を実践していきましょう。
そうすることで、患者のためだけでなく、自身のスキルアップにも大いに役立つでしょう。特に看護師としての経験が長くなればなるほどルーティーン化して“やりがい”を感じにくいものです。それゆえ、常に高い意識を持って看護業務に取り組んでいってください。看護サマリーは面倒くさいものですが、看護サマリーに高い意識を持って取り組むことで、自身の看護業務の意識改革のための促進剤になるはずです。