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【2023年最新】VAP(人工呼吸関連肺炎)の看護|原因や予防バンドル、ガイドライン、看護計画・看護ポイント

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VAP(人工呼吸関連肺炎)とは、人工呼吸管理をスタートして48時間以降に発症した肺炎のことです。ICUにおける院内感染の中で最も多く、患者の死亡率を上げるものですので、看護師は予防のためのケアを徹底しなければいけません。VAPの基礎知識や原因、治療とガイドライン、予防バンドル、予防のための看護のポイントをまとめました。実際に看護をする時の参考にしてください。

 

1、VAP(人工呼吸関連肺炎)とは

人工呼吸関連肺炎(VAP=Ventilator Associated Pneumonia)とは、人工呼吸管理前には肺炎がなく、気管挿管して人工呼吸管理をスタートした後48時間以降に発生した肺炎のことです。

VAPの定義は「入院時や気管挿管時に肺炎がなく、気管挿管による人工呼吸管理開始後 48~72 時間以降に発症する肺炎。(肺炎患者が挿管になり人工呼吸器管理となった場合は含まない。)」1)です。

・早期VAP 人工呼吸器を使い始めて4日以内に発生したもの
・晩期VAP 5日以降に発生したもの

ICUにおいては最も多い院内感染となっています。ICUでは3~4%の患者がVAPを発症し、死亡率を20~55%も増加させるというデータ2)があります。また、VAPのリスクは非常に高く、全挿管患者の9~27%3)に生じ、VAP合併患者の死亡率は 30~76%4)と報告されています。だから、看護師はVAPを予防するためのケアを行っていかなければいけません。

 

2、VAPの原因

気管挿管中は、本来の気道のフィルター機能やバリア機能が働きません。また、人工呼吸管理をしている患者は、全身状態が悪く、免疫力が低下していることが多いです。だから、原因菌が気道に侵入すると、肺炎を起こしやすくなります。原因菌は、外部の環境から侵入した細菌と患者自身の体内にある細菌に分けることができます。

VAPの原因菌は早期VAP(気管挿管4日目以内)か晩期VAP(それ以降)かで異なります。
早期VAPの場合、口腔・咽喉頭細菌叢が原因となりますが、晩期VAPの場合、菌抗体によるグラム陰性桿菌やMRSAが原因となります。

 

人工呼吸関連肺炎

出典:人工呼吸関連肺炎;VAP(日本メドトロニック株式会社)

 

■外部環境のからの原因菌

外部環境の原因は、人工呼吸器の回路の汚染です。加湿器や回路の汚染、看護師の不潔な操作などが原因で、人工呼吸器の回路内に原因菌が侵入すると、そこから気管挿管を通って、下気道で感染を起こします。

 

■患者内部からの原因菌

患者の体内にある細菌がVAPを起こす原因は、口腔内や咽頭部の分泌物の気管への垂れ込みです。気管挿管中は、次の要因で口腔内に細菌が繁殖しやすくなります。

・経口摂取をしないので唾液の分泌量が低下する

口腔ケアが不十分である

経管栄養や消化管潰瘍の予防薬で胃液がアルカリ化し、胃の中の細菌がストマックチューブを介して口腔内に逆行してくる

・経鼻挿管だと副鼻腔炎を発症しやすい

このような原因で、口腔内に細菌が繁殖し、それが気管内に垂れ込んでしまい下気道で感染を起こすため、VAPを発症します。

 

2-1、VAPの発生要因

VAP発生要因は次の3つがあります。

1.逆流
2.誤嚥
3.定着

 

逆流したものを誤嚥して、そこで定着し、感染が起こるということです。

・胃の内容物の逆流・誤嚥
・口腔鼻腔内の細菌が気管チューブを伝って流入
・呼吸器回路やジャクソンリースアンビューなどの汚染、不潔な吸引操作

 

これらによって、VAPは発症します。

発症のリスク因子には、長期人工呼吸器管理や再挿管、発症前の抗菌薬の投与、誤嚥、筋弛緩薬の使用、カフ圧の低下、移送、仰臥位、原疾患などがあります。

 

3、VAPの治療とガイドライン

治療は、現在はアメリカの感染症学会(IDSA)のガイドラインに沿って行われることが多いです。

ただ、IDSAのガイドラインに掲載されている抗生物質の投与量は、日本では未承認であることも多く、日本の現状に隔たりがある5)ため、ガイドライン通りに治療ができないこともあります。VAPの治療は、原因菌を確定する前に抗菌薬を投与するエンピリックな治療を行うことが多いですが、黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、その他のグラム陰性菌について、それぞれ考慮して、抗菌薬を決定します。

 

4、VAPの予防バンドル

VAPは患者の死亡率を上昇させますので、治療よりも発症させないための予防が重要になります。

VAPを予防するためには、予防策を単独で行うのではなく、できる限り予防策をひとまとめにして行うと良いとされています。複数の予防策をひとまとめにして行うことをバンドリングと言います。VAPの予防はバンドリングを行うことで、31~57%もVAPの発症率を低下させることができるというデータ2)があります。

VAP予防バンドルは、日本集中治療医学会・ICU機能評価委員会が「人工呼吸関連肺炎予防バンドル2010改訂版(略:VAPバンドル)」をまとめています。

 

この予防バンドルには、次の予防策が挙げられています。

1.手指衛生を確実に実施する

2.人工呼吸器回路を頻回に交換しない

3.適切な鎮静・鎮痛をはかる。特に過鎮静を避ける。

4.人工呼吸器からの離脱ができるかどうか、毎日評価する

5.人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しない

このVAP予防バンドルを実践していけば、VAPを予防して、発症率を下げることができるはずです。

 

5、VAPの症状

VAPの症状は一般的な肺炎とほぼ同じです。発熱、悪寒、痰の分泌物の増加、酸素化の低下、倦怠感などがあります。
VAPの臨床診断は、発熱やCRPの上昇などの全身性炎症反応、酸素化の低下、画像検査、膿性気道分泌物の増加などによって行われますが、人工呼吸器管理をすることになった原疾患や、人工呼吸器管理をすることによって生じる無気肺ARDS胸水などとの鑑別が困難になることもあります。

 

6、VAP予防のための看護のポイント

VAPは看護師が予防を意識し、予防のためのケアを徹底することで、発症率を下げることができます。VAPの予防のための看護は、難しいことではなく、日ごろの看護の中で少し気を付ければ良いものばかりですので、今日から予防のための看護を実践していきましょう。

 

①手洗いの徹底

先ほどのVAPの予防バンドルにもありましたが、予防のためには看護師の手洗いは非常に重要です。VAPは院内感染です。そして、院内感染を予防するためには、手洗いは基本中の基本です。忙しい時でも、「一患者、一手洗い」を徹底していきましょう。

 

②カフ圧の調整

VAPを予防するためには、カフ圧の調整は重要です。カフ圧が低すぎると、気管壁とカフの間に隙間ができて、口腔内からの分泌物が下気道に垂れ込んでしまいます。ただ、カフ圧が高すぎると、気管壁を圧迫して、血流障害を起こすことになります。だから、看護師は20~30cmH2Oにカフ圧を保つように、こまめにチェックするようにしてください。

 

③吸引

痰の吸引もVAP予防につながります。ただ、必要以上の頻回な気道吸引は、気道内の汚染につながりますので、必要最低限の回数で清潔操作を心がけて、痰の吸引をするようにしましょう。

 

口腔ケア

気管挿管中の口腔ケアは、挿管の位置がずれてしまうリスクもあるため難しいですが、挿管中の口腔ケアは頻回に行わなければいけません。気管挿管中の口腔ケアはブラッシングケアと維持ケアを組み合わせて、1日4~6回行うのが望ましい3とされています。

 

体位の調整

VAPを予防するためには、体位の調整も重要です。仰臥位にすると、口腔内の分泌物が気管内に垂れ込みやすくなるため、基本的に仰臥位はNGです。VAPを予防するためには、看護師は体位交換の時に、側臥位や腹臥位にするようにしましょう。

また、経管栄養中は胃の内容物が逆流しないように、30~45度にギャッジアップすると良いですが、通常時は口腔内の分泌物が垂れ込みやすくなるリスクもありますので、経管栄養を投与していない時は、ベッドの角度を調整するようにしてください。

 

⑥呼吸器回路の管理

看護師は、VAPを予防するために、人工呼吸器の管理にも注意しなければいけません。

・呼吸器回路に汚染や破損がないかをチェックすること

・加湿器には滅菌水を用いること

・回路内の結露はウォータートラップに落とすなど早めに除去する

これらのことを徹底して、呼吸器回路から細菌が侵入しないように管理していくようにしましょう。

 

7、VAPの看護計画

看護目標 人工呼吸器離脱までVAPを起こさずに過ごすことができる
OP(観察項目) ・バイタルサイン
・検査データ(炎症所見など)
・画像データ
・人工呼吸器のモード、FiO2、PEEP
・痰の量や性状、色
・水分出納
・原疾患の状態
TP(ケア計画) ・ケアの前の手洗い・手指消毒
・適切な吸引
・腹臥位
・体位交換や体位ドレナージ
・30~45度のギャッジアップ
・安静度に応じて車イス乗車
・口腔ケア
・カフ圧の調整
EP(教育項目) ・意識レベルに応じて体位ドレナージやギャッジアップの必要性を説明する
・口腔ケアの必要性を説明する

 

まとめ

VAPの基礎知識や原因、治療とガイドライン、予防バンドル、看護のポイントをまとめました。VAPは日ごろの看護をする上で、看護師が少し注意をするだけで、発生率を下げることができますので、看護のポイントを押さえ、しっかり実践していくようにしましょう。

 

参考文献

1)、4)人工呼吸器関連肺炎(VAP)防止対策|鹿児島大学病院

2)ICU感染防止ガイドライン改訂第2版(株式会社じほう 第4章|国立大学病院集中治療部協議会・ICU感染制御CPG改訂委員会|2013年2月)

3)志馬伸朗「人工呼吸器関連肺炎(VAP)」呼吸臨床 2017年第1巻3号

5)人工呼吸器関連性肺炎(VAP)の 予防・治療に関する 最新のエビデンス(第57回日本化学療法学会西日本支部総会/第52回日本感染症学会中日本地方会学術集会 教育セミナー13|竹末芳生|2009年)

6)人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)(一般社団法人日本集中治療医学会・一般社団法人日本クリティカルケア看護学会|2016年)

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