頭蓋内圧亢進とは脳腫瘍や頭部外傷、脳血管障害が原因で発生する病気です。さらにすすむと脳ヘルニアという重篤な状態に陥り、緊急CT・MRI、緊急治療が必要になる非常に注意が必要な病態です。一歩遅れれば患者が死に至る場合もあります。脳は複雑すぎてわからない、そんな苦手意識がある看護師の方も多々いらっしゃると思いますので、この機会にわかりやすくまとめた今回の記事をぜひ参考にしてください。
1、頭蓋内圧亢進とは
脳および脊髄は、外側から順に硬膜、くも膜、軟膜の3層の髄膜で覆われています。くも膜はオブラート様の膜で、その下に脳脊髄液で満たされたくも膜下腔があり、脳は脳脊髄液の中に浮かんだ状態にあります。脳脊髄液は絶えず循環しており、1日に3~4回入れ替わり、総量は約150mlで、脊柱管内には約20~30mlほどあります。
引用元:脳の病気 くも膜下出血(医療法人健成会小林脳神経外科病院)
頭蓋内の構成は次の通りです。
・脳実質:87%
・脳血液:9% ・髄液:4% |
そして、外気圧に対して一定の圧を保っています。
頭蓋内圧は正常時は5~10mmHgですが、脳浮腫や脳腫瘍などにより脳実質の容積が増えたり、脳の血管が拡張して脳血流量が増えたり、髄液が増えたりすると、頭蓋内圧が上がり、15mmHg以上になることがあります。
頭蓋内圧が15mmHg以上が持続する状態を頭蓋内圧亢進と言います。
頭蓋内圧亢進とは、通常仰臥位で60~180mmH₂Oに保たれている頭蓋内圧が増大した状態のことを指し、髄液圧が200mmH₂O以上のことをいいます。
2、頭蓋内圧亢進の原因
硬い頭蓋骨に覆われている頭蓋内では、以下のような原因によって頭蓋内圧が亢進します。
・脳腫瘍
・脳膿瘍 ・頭蓋内血種 ・水頭症(髄液の通過障害・吸収障害) ・髄液の過剰産生 ・二酸化炭素分圧の上昇による脳血管拡張 ・脳静脈の閉塞 |
明らかな原因がある頭蓋内圧亢進もありますが、原因が不明な特発性頭蓋内圧亢進症もあります。
3、頭蓋内圧亢進の症状
頭蓋内圧亢進の症状は、慢性の場合と急性の場合で症状が異なるので注意が必要です。
3-1、慢性頭蓋内圧亢進の場合
慢性頭蓋内圧亢進にはわかりやすい三徴候があるので必ずおさえておきましょう。
頭蓋内圧亢進の三大症状は次の3つです。
・悪心嘔吐
・頭痛 ・うっ血乳頭(網膜中心静脈圧迫による乳頭浮腫) |
頭蓋内圧亢進状態では、起床時に頭痛を伴います。理由として、睡眠中のいびきによる換気不良が挙げられます。換気不良により脳血管を拡張させる働きがある血中炭酸ガス濃度が高くなり、睡眠中にさらに頭蓋内圧が上がってしまうため起床時に強い頭痛を感じるのです。これらの三徴候に次いで、外転神経麻痺(複視)、意識障害を起こします。なぜ外転神経かといいますと、外転神経は脳神経の中で最も長い距離を走行するため頭蓋内圧亢進の障害を受けやすいからといわれていますが、はっきりとした理由はわかっていません。外転神経は眼球を外側にむける神経なので、障害されることにより眼球が内転することにより複視になります。
3-2、急性頭蓋内圧亢進の場合
急性頭蓋内圧では、意識障害、異常呼吸、血圧上昇、徐脈、瞳孔異常を起こします。頭蓋内圧亢進に対し、生体の恒常性を維持する代償制反応が働き、脳血流量の減少を代償するため血圧を上昇させ、脈はゆっくりとしたものになります。この現象をクッシング現象といいます。さらに進行すると脳ヘルニアを生じ、生命の危機に陥ります。
頭蓋内圧亢進時に観察される呼吸は、頭蓋内圧亢進の進行によって変わってきます。初期の場合は深いため息や生あくびなどになり、進行すると間脳が障害されることでチェーンストークス呼吸(無呼吸と深い呼吸が交互に出現)になります。さらに間脳や橋が障害されて呼吸回数が上昇して過呼吸になり、その後は無呼吸と頻呼吸を繰り返すようになって、最後は延髄が障害されて失調性呼吸になります。
3-3、脳ヘルニアとは
頭蓋内圧亢進したらどうなるのでしょうか?頭蓋内圧亢進が進行すると、脳ヘルニアが起こります。
脳ヘルニアとは、脳組織の一部が、本来の位置から押し出されて頭蓋腔の区画を越えてしまうことをいいます。脳ヘルニアは圧迫部位によって大脳鎌下ヘルニア、大孔ヘルニア、テント切痕ヘルニアの3種類に分けられ、症状も異なります。
脳ヘルニアの種類 | 圧迫部位 | 主な症状 |
大脳鎌下ヘルニア | 前頭葉 | 進行するとテント切痕ヘルニアになる |
テント切痕ヘルニア | 間脳 | 意識障害
チェーン・ストークス呼吸 |
中脳 | 昏睡状態、中枢性過呼吸、
散瞳・対光反射消失、徐脳強直 |
|
延髄 | 昏睡状態、呼吸失調、四肢弛緩 | |
大孔ヘルニア | 延髄 | 意識障害、呼吸障害 |
出典:看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア
チェーンストークス呼吸とは、数秒間にわたる低換気(ときに無換気)と、次第に深さと数を増し、やがて漸減する過換気が規則的に出現する呼吸です。
4、頭蓋内圧亢進の治療と検査
緊急CT、MRIを施行して頭蓋内病変を確認し、頭蓋内圧降下薬(D-マンニトール、濃グリセリン)、副腎皮質ホルモンの投与で頭蓋内圧を下げます。抗浮腫薬である濃グリセリン薬剤は、血管内の浸透圧を上げ、周りの細胞から水分を引っ張りそのまま排尿されるため浮腫を軽減することができます。
5、頭蓋内圧亢進の看護計画
5-1、組織循環の変調:脳
■看護目標:脳組織への循環が良好になる
①頭蓋内圧亢進の観察項目
・バイタルサイン(徐脈の出現はないか)
・チェーンストークス呼吸の有無 ・頭痛、吐き気の有無 ・24時間In、Out ・頭蓋内圧モニター ・意識レベル ・電解質濃度 ・チアノーゼの有無 ・四肢の運動の程度 ・うっ血乳頭の有無 ・対光反射の有無(動眼神経が麻痺すれば対光反射は起こらなくなる) |
②頭蓋内圧亢進のケアプラン
・訪室のたびに神経系の状態を確認する
・頭蓋内圧亢進症状を詳細に監視する ・頭蓋内圧モニターがあれば装置内の管が開通し、無菌状態になるよう管理する ・頭蓋内圧モニターの包帯交換は無菌操作で行う ・ケアや治療に対する頭蓋内圧の反応を観察する ・禁忌でなければベッドを30~40度ギャッチアップし、脳静脈からのドレナージを促進する ・視力障害の有無 ・水分出納の厳密なコントロールを行う(1500~1800ml/24時間) ・脱水や水分過剰の徴候を確認する ・指示に従い薬剤投与:ステロイド・抗痙攣薬・抗生物質・繊維素溶解阻止薬(プロトロンビン時間・部分トロンボプラスチン時間・血小板数のデータ確認)・血管攣縮の阻止薬・鎮痛薬 ・指示に従い体温調整行う ・照明を暗くし刺激を少なくする ・絶対安静を保つ ・適宜浣腸緩下剤を使用する(腸の運動による緊張を防ぐため) ・面会制限実施 ・食事制限実施(コーヒーや紅茶は刺激物に当たる) ・てんかんをモニターし予防する ・ベッドサイドに舌圧子とエアウェイを準備しておく ・てんかんが起こってもけがをしないようベッド柵はタオルやクッションで囲っておく ・ベッドサイドに救急薬品を準備しておく |
③頭蓋内圧亢進の指導項目
・テレビを見たり、ラジオを聴いたり、読書しないよう指導する
・食事制限のため、家族に持ち込み食をしないよう指導する |
5-2、無効な呼吸パターン
■看護目標:呼吸パターンが有効である
①頭蓋内圧亢進の観察項目
・呼吸音(1~2時間おき)
・レスピレーター使用時のモニター(回換気量・回数・方式・酸素濃度が指示通りにセットされているか・警報機はオンになっているか) ・動脈血ガス値 |
②頭蓋内圧亢進のケアプラン
・気道確保(状態に応じて気管挿管、人工呼吸器適応)
・PO₂が10~15mmHg以上低下または上昇したら医師に報告する ・1~2時間ごとにバイタルサインを確認する ・禁忌でなければ、必要時吸引する |
6、頭蓋内圧亢進の観察項目・看護ケア
6-1、頭蓋内圧亢進患者の観察項目
■観察項目:クッシング現象
頭蓋内圧亢進の患者さんの看護をする時には、異常の早期発見ができるように、ただバイタルサインを計測するだけではなく、きちんとアセスメントできるようにしましょう。
急性の頭蓋内圧亢進の症状にクッシング現象があります。
クッシング現象は血圧上昇や脈圧の上昇、徐脈です。
頭蓋内圧が亢進して脳内の血流が障害されることで、体は血圧(特に収縮期血圧)を上げようとします。
それに対し、血圧を一定に保とうとする恒常性が働くので、心拍数が下がり、徐脈になるのです。
だから、看護師が頭蓋内圧亢進の患者さんのバイタルサインを測る時には、血圧・脈圧・心拍数に注意して、頭蓋内圧亢進が進行していないかを確認しましょう。
■観察項目:意識レベルや神経学的徴候
頭蓋内圧が亢進すると、脳ヘルニアに移行する危険があります。
看護師は、意識レベルや神経学的徴候に注意して、異常の早期発見に努めてください。
・意識レベルの変化
・瞳孔不動や対光反射の有無 ・麻痺の出現はないか |
これらを経時的に確認していくことで、頭蓋内圧亢進の進行に早く気づくことができます。
6-2、頭蓋内圧亢進の看護ケアのポイント
頭蓋内圧亢進の患者さんには、頭蓋内圧を下げるためのケアを行いましょう。
■ベッドアップは20~30度
頭部を挙上させることで、頭蓋内の静脈圧・髄液圧を下げることができます。
■排便コントロール
排便する時にいきむと頭蓋内圧亢進を助長させますので、看護師は排便コントロールを行うようにしましょう。
ただ、グリセリン浣腸は頭蓋内圧を上昇させますので、使用してはいけません。
■体温の管理
発熱すると頭蓋内圧が亢進しますので、発熱患者には冷罨法や解熱鎮痛薬を投与して、体温のコントロールを行いましょう。
■呼吸管理
血中酸素分圧や二酸化炭素分圧を正常域に保つために呼吸管理をします。
咳やくしゃみも頭蓋内圧を上昇させますので、体位ドレナージなどで痰を出しやすくするケアも行っていきましょう。
まとめ
頭蓋内圧亢進は、気づくのが遅いと重篤な状態に陥るので細やかな観察が必要ですが、早期発見に努めれば脳ヘルニアに至ることを食い止めることができます。脳疾患の患者に苦手意識があっても、きちんと観察するところがわかれば自信がついてきますので、少しずつ覚えて臨床に役立てていきましょう。
参考文献
看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(医療情報科学研究所|2015/07/10)
看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|2015/03/19)
危険な頭痛とは(東海大学八王子病院脳卒中センター神経内科・脳神経外科)
外転神経麻痺(医療法人育成会篠塚病院付属北関東神経疾患センター)
クリニカルナーシング7神経疾患患者の看護診断とケア(株式会社医学書院|石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|1990/09/01)
The post 【2023年最新】頭蓋内圧亢進の看護|原因と症状、治療・観察項目と看護計画 first appeared on ナースのヒント|明日のヒントが見つかるWebメディア.