浮腫は様々なことで発現するため、各個人にあった看護ケアが必要です。また、浮腫の改善・治療に取り組むだけでなく、二次的障害を防ぎ、再発予防を指導することも看護ケアの一環です。
浮腫の原因は様々であることから、改善・治療するためには原因特定のためのアセスメントが非常に重要となり、浮腫に関して詳しくなくてはいけません。それゆえ、ここでは浮腫に関する概要や看護計画など、効率的かつ迅速にケアしていくための情報を詳しく紹介しますので、看護職に携わっている方は是非参考になさってください。
1、浮腫とは
手や足が腫れぼったくみえる、いわゆる”むくみ”のことを医学用語で浮腫(ふしゅ)と言います。皮下組織に水が溜まることで、全体が大きく腫れて見え、当該部位を指圧すると、その痕がなかなか元に戻らない状態がこれにあたります。
皮下組織に溜まる水分量が体重の5~10%程度である時に浮腫と認められ、この水分量により体重が増加します。つまり、通常時60kgの人に浮腫が認められる場合には、63kg~66kgに増えているということになります。
浮腫は重力との関係が深いため、通常は下腿に認められやすいものです。ただし、寝たきりの人であれば、背中もしくは顔に多く認められます。
浮腫の原因はさまざまあり、特定するのが難しい場合も多くありますが、浮腫自体は水分による腫れであるため、過度な心配は無用。しかしながら、人によっては圧迫による激しい痛みを伴うこともあるため、看護の際には各人に合わせたケアが必要になります。
1-1、浮腫のメカニズム
浮腫の元となる水分は血液の液体の一部です。通常、血管の壁を通って外に流れ出ます。そして、組織液として細胞の周りを覆うように停滞します。その後、静脈の壁を通り血管の中に戻ります。この際、戻りきれなかった水分は、リンパ管を通って排水されます。
・毛細血管内圧の上昇
・血漿の膠質浸透圧の低下 ・毛細血管の透過性亢進 ・リンパ管の障害 |
これらが起こると、血管内の水分が血管外に染み出してしまうので、浮腫が起こります。
血液中の水分量は常に一定であるものの、何らかの影響で組織液の量が多くなるか、リンパ管に流れる量が少なくなることで浮腫が発現します。
2、浮腫が起こる原因
浮腫が起こる原因は実に様々あり、病気のほか、ストレスや不摂生な生活環境によっても起こります。主な原因は以下の通りです。
①静脈圧、また毛細血管圧の増加
②血漿コロイド浸透圧の低下による血液の水分保有力の減弱 ③毛細血管壁透過性の変化により、血液から組織へ水分の移動が促進されること ④細胞組織の水分吸引力と保有量増進 (心臓疾患は①、急性肝炎で③、ネフローゼまた慢性肝炎では②と④が関係する。) |
病気による浮腫であれば特定は容易ですが、それ以外の場合、原因を特定するのは難しいため、適切な看護のためには代表的な原因を全て知っておく必要があります。
2-1、病的要因
■腎性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:顔や手足
症状:血圧の上昇、血尿 |
ネフローゼ症候群 |
部位:顔や手足
症状:尿が出にくい |
急性糸球体腎炎 |
部位:下肢
症状:息切れ、胸苦しい |
糖尿病性腎症 |
■心性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:足全体
症状:痛みが夕方に強くなる、呼吸困難 |
慢性心不全、肺性心 |
■肝性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:下肢 | 肝硬変 |
■内分泌性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:目のまわり、顔、手足
症状:汗をかかない、悪寒 |
甲状腺機能低下症 |
部位:顔全体
症状:顔全体が赤くなる、手足が細くなる |
クッシング症候群 |
■栄養障害性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:顔、下肢、または全身
症状:腹痛、下痢、吐き気 |
メネトリエ病 |
部位:顔、下肢、または全身 | 蛋白漏出性胃腸症 |
部位:手足
症状:しびれ、動悸、筋力低下、 |
ビタミンB1欠乏症 |
■静脈性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:下肢
症状:下肢のだるさ、重量感、痛み |
静脈瘤 |
部位:頭、まぶた、腕
症状:うっ血によるむくみ |
上大静脈症候群 |
■リンパ性浮腫
浮腫が認められる部位と症状 | 浮腫を伴う病気 |
部位:足、かかと、手の甲
症状:皮膚の硬化 |
リンパ浮腫 |
2-2、生活要因
生活習慣の中で特に不摂生な食生活と浮腫の関係が強いものです。主に「塩分過多」、「蛋白質不足」、「ビタミンB1不足」、「カリウムとナトリウムのバランス崩れ」が、生活要因に該当します。
■塩分過多
ファーストフード店などの食べ物は非常に塩分量が多く、塩分の摂りすぎによって浮腫が起こることがあります。人の体液は塩分濃度によって決まり、体内の塩分濃度が高くなると、体液の濃度が上昇します。その結果、血管内圧が上がり、いわゆる高血圧になります。血管内圧が上昇することで、漏出>再吸収+排出となり、細胞間の水分量が多くなり、浮腫が発現するのです。
■蛋白質不足
血液は、赤血球・白血球・血小板など、タンパク質が水分に溶けている液体であり、血中の蛋白質濃度は自律神経により一定に保たれています。蛋白質の摂取量が不足すると血中の蛋白質濃度が薄くなり、そうすると自律神経によって、血液中の水分が多く血管外に排出されます。それゆえ、蛋白質不足の時にも浮腫が認められる場合があります。
■ビタミンB1不足
病的要因にてすでに取り上げましたが、ビタミンB1欠乏症のように、ビタミンB1が不足している場合にも浮腫が起こります。ビタミンB1の主な働きは、①糖質(ブドウ糖)をエネルギーに変える時の潤滑油 、②神経の働きを守る 、③脳の働きに必要な物質を作るのに役立つ。このようにビタミンは体内において非常に重要な役割を担っています。また、ビタミンB1が不足することで、蛋白質の合成がスムーズにいかず、血液中の蛋白質濃度が低下するため、血液中の水分が多く血管外に排出されます。
■カリウムとナトリウムのバランス崩れ
体内では、細胞外のナトリウム(塩分)と細胞内のカリウムのバランスが一定に保たれています。ナトリウムの過剰摂取やカリウム不足になると、このバランスが崩れ、細胞が水分を多く吸収しようと働きます。なお、ナトリウム不足、カリウム過多の場合には基本的に浮腫は発現しませんが、その他ミネラル分のバランス崩れによって起こる場合があります。
2-3、ストレス要因
ストレスが蓄積すると交感神経や自律神経に悪影響を及ぼし、それぞれの神経が正常に働かなくなります。これにより、血管の収縮や拡張機能が低下し、血液もしくはリンパ液の巡りが悪くなることで浮腫が起こる、または悪化する場合があります。さらに、ストレスにより、副腎でアルデステロンというホルモンが生成されます。アルデステロンは、体内に水とナトリウムを蓄積しようと働くことで、絶対量が増え浮腫が発現する場合があります。
その他、原因不明なものも多いですが、ストレスにより浮腫が起こる、または悪化することがよくあります。ストレス要因はまだ解明されていないことが多いため、浮腫が認められる場合には、主な原因だけでなく、ストレスにも考慮しておく必要があります。
2-4、その他
妊娠中も浮腫が起こりやすくなります。妊娠すると、次のようなことが起こります。
・ホルモンバランスの変化(エストロゲンの分泌量増加)
・子宮増大による大静脈圧迫 ・血液量の増加 |
これらの要因によって、妊娠中は浮腫が起こりやすくなります。妊娠中に浮腫が増悪すると、妊娠高血圧症候群の可能性があるので、注意が必要です。
脳浮腫は脳がむくむことですが、脳浮腫が起こると頭蓋内圧亢進が起こり、生命にかかわる事態になりますので、一般的な浮腫とはまた別の問題になります。
3、浮腫の改善策
浮腫の原因について紹介しましたが、改善するためには、それぞれの原因を根本から治していかなければいけません。病気から起こる浮腫の場合は病気を治すこと、生活要因が起こる場合は主に食生活を見直すこと、ストレス要因から起こる場合はストレスを解消すること。浮腫は二次的なもので、根本の病気ではありません。それゆえ、一次的原因を改善するほかありません。
4、浮腫の看護計画
浮腫に対する看護計画を立てる際、まず各個人によって症状が異なるということに留意する必要があります。各個人それぞれの浮腫を、注意深く観察し、何が原因で起こっているのか突き止め、原因に応じた対処と二次的障害の予防に努めることが主な看護計画となります。なお、看護計画は「観察・アセスメント」、「浮腫の軽減」、「二次的障害の予防」から成り立ちます。
4-1、観察・アセスメント
浮腫をケアをする前にアセスメントにより、患者が有する浮腫の状態や程度などを細かく知ることが大切です。症状をもとに原因を特定することで、ケアの効率化はもちろん、患者の負担軽減にもつながるため、しっかりとアセスメントする必要があります。浮腫の観察項目・浮腫のアセスメント項目を以下に説明していきます。
①浮腫の部位と程度
顔、手足、背中など、どの部位に生じているのか、また、軽度・中度・重度というように、浮腫の部位や程度は患者によって様々です。会話の中はもちろん、注意深く観察して症状を把握しておきましょう。
浮腫の観察方法では視診だけでなく触診も大切です。
視診で浮腫と思われる場所や患者が訴える場所にを指で押してみましょう。腓骨前面や仙骨、前頭部などを母指で圧迫し、指を離した後にも圧痕が残る「圧痕性浮腫」か、痕が残らずすぐ回復する「非圧痕性浮腫」かを評価します。
②痛みの有無
症状が重くても痛みがない場合や、症状が軽くても痛みが強い場合など様々です。また、痛みの有無に関わらず、皮膚に損傷がないか確かめましょう。
③随伴症状の有無
看護師は浮腫の随伴症状の有無も確認しておきましょう。随伴症状としては主に、「皮膚の弾力性の低下・乾燥」、「皮膚温の低下」、「倦怠感」、「疲労感」、「食欲不振」、「尿量減少」、「体重増加」、「腹部膨満感」、「呼吸数増加」、「息切れ」、「喘鳴」などがあります。
④食事の摂取量
浮腫を出現・悪化させる要因として、蛋白質・ビタミンB1・カリウムの不足があります。それゆえ病食もしくは在宅での食事の摂取量にも配慮しておきましょう。
⑤水分出納
水分の摂取量と排出量のバランスは浮腫ケアのために非常に重要となります。それゆえ、毎日の水分の摂取量と尿(水分)の排出量を確かめておきましょう。
⑥体重・腹囲
浮腫は細胞間の水分によって出現し、体内の総水分量が増えることで体重が増加します。おおよそ通常時の5%~10%増加するため、現在の体重と通常時の体重を確認しておきましょう。また、腹水が溜まることで浮腫が出現することもあるため、腹囲も一緒に確認しておきましょう。
⑦薬物の副作用
浮腫治療における薬物の副作用にはしっかりと配慮しておかなければいけません。また、薬物治療における副作用として浮腫が出現することもあるため、出現すれば原因薬物を即座に中止する必要があります。
4-2、浮腫の軽減
観察して得た情報をもとに、浮腫の軽減に努めていきます。「体位変換」、「浮腫部の高挙」、「塩分・水分制限」、「利尿剤の使用」、「保温」など、患者の症状に合わせて浮腫の軽減に努めます。後で看護ケアに関して説明しますが、ここでは看護計画の一環として各方法を簡略的に紹介します。
看護で浮腫はどうなるのか?薬剤を使用しないと軽減できないのでは?と思うかもしれませんが、看護で浮腫を軽減させることは可能です。
医師に指示された薬剤を使いながら、看護行為で浮腫を軽減させるようにしましょう。
①体位変換
寝たきりの人の場合、背中に起こることが多くあります。これを「体位性浮腫」と呼び、常に同じ姿勢をとっていることで発現します。それゆえ、軽減させるためには、こまめに体位を変えてあげる必要があります。
②浮腫部の高挙
浮腫は水分であることから、重力によって押し下げられ下部に溜まる傾向があります。また、血管との関係が深いため、下肢の場合は毛布や枕などを用いて、心臓より高くしてあげるのが効果的です。
③塩分・水分制限
塩分量や水分量によっても浮腫は起こるため、これらが原因である場合には制限する必要があります。
④利尿剤の使用
体内の水分をいかに外に排出させてあげるのかが大切であるため、尿として多くの水分を排出させるために利尿剤の使用も考えておきましょう。
⑤保温
浮腫がみられる部位の皮膚は血行が悪く、冷感を伴うことがあります。血行をよくするために、外部からの保温だけでなく、内部からも温めてあげましょう。
4-3、二次的障害の予防
浮腫の看護ケアにおいて、治療はもちろん、二次的障害の予防にも努めなければいけません。感染症や外傷、食欲不振など、浮腫が原因となる障害を未然に防ぐことで、一貫したケアが成り立ちます。
①感染・外傷
浮腫がみられる皮膚は血行が悪く、脆弱化しているため、皮膚や粘膜は非常に傷つきやすいものです。そして、傷口から容易に細菌感染を起こしてしまいます。悪化させないために、外傷や感染の予防策を考えておかなければいけません。
②褥瘡発生
寝たきりなどによって体重で圧迫されることで浮腫が治らない、もしくは悪化することがあります。入院時には付き添いながら体位変換させてあげることができますが、自宅療養に切り替わる場合には、ご家族に指導しておく必要があります。
③食欲不振
浮腫に伴い、末梢循環が圧迫されることで、酸素・二酸化炭素・栄養素の運搬がスムーズにいかず、消化管の機能が低下する場合があります。こうなると、腹部緊満によって食欲が低下します。特に高齢者は注意が必要。食欲不振により体力低下を起こさないよう、栄養価の高い食事を提供・提案することが大切です。
4-4、浮腫の看護計画
浮腫がある患者への看護計画の一例をご紹介します。
看護目標 | 浮腫軽減のためのセルフケア行動・感染予防のための方法を理解し実践できる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・浮腫の原因疾患の治療状況や症状の程度 ・浮腫の部位 ・浮腫の程度 ・疼痛の有無 ・食事や飲水の摂取量 ・水分出納 ・体重や腹囲 ・浮腫への考え、理解度 ・冷汗やチアノーゼの有無 ・呼吸苦の有無 ・皮膚の状態(乾燥、落屑、創傷) ・ADL ・検査データ(TP、Alb、Hb、CRP、白血球、Na、K、Crなど) |
TP(ケア項目) | ・医師に指示された薬剤を適切に投与する
・足浴・下肢のマッサージを行う ・体圧分散マットを使う ・体位交換を行う ・手浴を行う ・皮膚の保湿など損傷予防のためのケアを行う ・皮膚を刺激しないように清潔ケアを行う ・医師の指示による塩分・水分の摂取制限を行う ・冷汗がある場合は保温を行う ・寝衣や寝具の調整をして、皮膚の損傷を予防する ・爪の手入れをこまめに行う |
EP(教育計画) | ・水分や塩分のコントロールの必要性を説明する
・皮膚損傷のリスクを説明する ・感染予防の必要性を説明する |
上記の看護計画はあくまでも基本的な浮腫の看護計画です。
患者さんの状況や浮腫の原因疾患、患者さんの抱える問題、アセスメントで浮上した看護問題などによって、細かい内容は変わってきます。
患者さんの個別性を大切にして、患者さんに合った看護計画を立案してください。
5、浮腫の看護ケア
浮腫の看護ケアには、大きく分けて「安静療法」、「食事療法」、「薬物療法」の3種類があります。浮腫の原因はさまざまあり、患者によって症状が異なるため、アセスメントで得た情報をもとに療法の選択・実践をしていきましょう。
■安静療法
これは、主に①体位の変換、②上体挙上、③皮膚・粘膜の清潔、④保温、の4つから成り立つ療法です。病気になどにより二次的に発現する場合、主に根本となる病気を治さない限り浮腫は改善されません。それゆえ、安静状態を保ちながら、悪化させないためのケアを施します。
■食事療法
塩分過多や、ビタミンB1・カリウム不足などにより浮腫が発現している場合には、それらを考慮した食事療法を実践していきます。検査データをもとに調理師と献立を吟味し、栄養価にもしっかりと配慮しましょう。なお、食事療法を実践する場合でも、体位の変換や皮膚粘膜の清潔など、安静療法の各項目も同時進行で行っていきます。
■薬物療法
薬物療法には一般的に利尿薬が用いられます。体内に多くの水分が貯留しているため、尿意を促すことで改善を図ります。また、場合によっては鎮痛剤、高血圧の薬、ホルモン剤、漢方など、各種薬物を使用します。薬物療法は非常に効果的ですが、原因を特定して適切な薬物を使用するのはもちろん、常時服用している薬物がある場合には、各薬物同士の相性にしっかりと配慮しておかなければいけません。
まとめ
浮腫における看護ケアは各個人の症状、年齢、病気の種類などによって変わってきます。適切にケアするためには原因の特定はもちろん、浮腫に関する豊富な知識も必要です。患者の負担を最小限に抑えられるよう、浮腫について学び、しっかりとアセスメントしていきましょう。
参考文献
・3.腎臓がわるくなったときの症状-一般のみなさまへ-一般社団法人 日本腎臓学会|Japanese Society of Nephrology
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