タッチングは、重要な看護技術のひとつですが、施術方法やタイミング、その効果について定量的に説明することの難しいものでもあります。
タッチングを直訳すれば「手当て」となります。まさに医療や看護の真髄とも言えるのですが、看護師として勤務するうちに自然と体得すると思われがちです。
ここではタッチングの意義や技術などを意識的に文字化して、効果などを見て行きましょう。
1、タッチングとは
タッチングとは、患者さんに触れる看護方法です。患者さんにさする・撫でるなど肌に直接触れることで、情緒的安定や痛みの緩和・緊張や不安の緩和などの効果を期待することができます。
学研メディカル秀潤社の看護学学習辞典(第3版)によると、「非言語的コミュニケーションの1つとして手や指で撫でる、さするなど肌と肌との触れ合いを通じた相互作用性のある行為であり、心の触れ合い、情緒的安定をもたらす。また、情緒的安定のほかに痛みの緩和など治療的・技術的ケアにも用いられ、とくに、言葉だけで理解できない子どもや緊張や不安、身体的苦痛を伴う状況のときなどに有効なケアの手段」としています。
タッチングって何?と思う人もいるかもしれませんが、看護師のあなたも日常的に行っている看護です。
タッチングとは患者さんに触れること。
あなたは患者さんの脈をとる時に手首に触れます。痛い時にはそこに触れたり、背中をさすったりします。痰を出しやすくするためにタッピングをすることもあるでしょう。
これがタッチングです。タッチングの別の言い方は、タッチケア・触れるケアになります。
タッチングは、患者さんに対する安心感を提供する目的で行われる非言語的(言葉を介さない)コニュミケーションのひとつです。 患者さんの痛みや不安感を軽減する効果があるほか、疾病等で引きこもってしまった患者さんの心を解きほぐし、看護師をはじめとする医療従事者に親しみや信頼を覚えるなどの効果も認められています。
カイロプラティックなど、物理的な機能回復を図るための施術とは異なり、タッチングはその効果により患者さんの思いや悩みなど、吐露しやすい雰囲気をかもし出すことから、ターミナルケア(終末期医療)などにおいては欠くことのできない看護技術となっています。
2、タッチングの研究
アメリカの心理学者Keltner氏によれば、人間は世話をすることや思いやりの文化の上で発達してきており、触れることや触れられることには重要な意味があり、その効果は計り知れないのだそうです。
これを裏付けけるように、触れるという行為が皮膚の感覚を通じて大脳を刺激し、オキシトシンやエンドルフィンが放出され、さらにマッサージは幸せホルモンと言われるセロトニンを増加させることが昨今の研究によって解明されつつあるそうです。
Touch Research Institute(アメリカの接触研究機関)は、タッチングが痛みを軽減させることから、マッサージがパーキンソン病の振戦(体の震え)を減らすという研究を発表しています。
疾病ごとにその効果はさまざまです。マッサージはアルツハイマー型認知症の症状である徘徊や暴力行為を減らす効果があるといわれており、実際、介護施設などでも、激しく興奮した認知症の患者さんの背中をやさしくさすり、興奮を抑える光景を見ることがあります。
また、認知症の患者さんは言語コミュニケーションが難しい場合も多いため、手を握ったり、顔に触れたりすることがコミュニケーションとなり、それが安心感・信頼感につながることも多くあります。
ターミナルケアからのアプローチを見てみましょう。アメリカでは2012年、月刊誌Supportive Care in Cancerにおいて、ガンに罹患している患者さんの痛みやストレス、悪心、無気力や不安などは、タッチングやマッサージによって軽減したという研究を発表しています。
このとき患者さんに施されたマッサージは、マッサージ師などのプロのものではなく、看護助手によるものであったことも明らかにされています。この研究では患者さんへの心理的なアプローチをタッチングが実現している、つまり思いやりや温かさをタッチングによって示し、それが患者さんのストレスを軽減させたのではないかと結論づけています。
このほかにも、タッチングによる効果をより定量的に示すため、現在もなおさまざまな形でアプローチが続けられています。
これは、タッチングには一定の医学的効果が認められているからであり、触れられることによって病気の症状や心理的な不安定感をいかに軽減するかを明らかにすることで、看護におけるタッチングの重要性を再認識し、医療現場でのタッチングの効果的な施術を目指していくことにもつながっているのです。
3、タッチングの方法
タッチングは患者に単に触れれば良いというものではありません。患者さんの症状はもとより、患者さんの性格や環境などをつぶさに観察し、その上で一番適したタッチングを必要とされるタイミングで施す必要があります。ここではまずタッチングの種類について見ていきます。
■手を当てる(手当て)
タッチングの中でも基本的な技術になります。患者さんの患部や身体の悪い部分、患者さんが訴えている痛みの箇所に手を当てることです。かるく患部を包むような感じをイメージしてください。
人の手のひらは適度に湿り気と体温が維持されているので、それが患部にとって湿気や熱となり皮膚を通して伝わります。軽い温湿薬のような効果があるのかもしれません。それが血行を良くし、患部を治癒するような働きをするようです。
■さする
患者さんの訴えている痛みのある箇所をやさしくさすることもタッチングのひとつです。衣服の上であったり、衣服を通さず患者さんの皮膚を摩擦で痛めることのない程度の強さでさすります。これによりほどよい熱が発生し、温湿布のような効果が生まれます。
■揉む
マッサージもタッチングの技法のひとつです。マッサージには、リンパの流れや血流を良くすることを目的とするものがあり、東洋医学の観点から、経絡とツボを意識しながら施術するものもあります。患部を手でつかんで離すという動きでおもに筋肉の懲りを和らげる作用があります。
■圧迫する
患部やその周辺にあてた手を動かさずに圧力を加えます。一定の時間、圧力を与えて離す、という動きですが、揉むことよりも動きが静かでゆるやかで、主に寝たきりの高齢者などに施されています。
■たたく
いわゆるタッピングと言われる動きで、一定のリズム感で患者さんの体をたたいて刺激を与えるというものです。よく見かけるタッピングの一例は、赤ちゃんを眠りにつかせるときに、おしりや背中などをやさしくタッピングして神経を落ち着かせるというものです
授乳後に軽く背中をたたいてゲップをさせるときも、このタッピングが使われていますね。成人の患者さんに対しては、手を握ったときに、手の甲をもう一方の手でタッピングする光景が見受けられます。
4、タッチングの効果
タッチングを施せる関係自体がかなり信頼感を得ていると考えて良いでしょう。患者さんの多くは闘病生活のつらさから孤独や孤立感を知らずに感じているものです。そうした患者さんに対し、大切にされているという感覚を呼び覚まし、自然治癒力を引き出すことができるとされています。
「医は仁術なり」という言葉があります。治療の甲斐もなく、絶望感で一杯になっている患者さんもいるでしょう。一人で思い悩んでいる患者さんに、「そばにいて見守っている」という言葉にできないメッセージを伝えることができ、安心感をあたえることができます。
現在、こうした感情の源とも言えるオキシトシンやセロトニンの分泌量を計測し、タッチングの効果を定量的に示そうとする研究がさまざまな形で続けられています。
4-1、タッチングの効果の具体例
タッチングの効果・ボディタッチの看護効果を見ていきましょう。
タッチング・ボディタッチの看護効果は急性期・慢性期も基本的には同じで、苦痛やストレスの軽減です。
ただ、具体的な効果やタッチングの看護方法は少し違います。
■急性期や侵襲的治療の時のタッチング効果
例えば、胃カメラなど上部内視鏡検査・下部内視鏡検査などの侵襲的な検査、術前や部分麻酔などの手術中、救急外来などでの急性期などでは、看護師が患者さんに軽く触れたりさすったり、手を握るなどのタッチングをすると、患者の不安や苦痛を軽減したり、ストレスを軽減することがわかっています。さらに、血圧の上昇を抑制したり、鎮痛薬の使用抑制効果が高いこと(つまり疼痛軽減効果がある)が確認されています。
■がん患者やターミナル期の患者へのタッチング効果
がん患者やターミナル期の患者、ホスピス病棟に入院している患者にも、看護師によるタッチングの効果が高いことが確認されています。
がん患者やターミナル期の患者には触れる・さするなどの短時間のタッチングよりも、長時間かけてタッチングするほうが効果が高いです。
例えば、ハンドマッサージやフットマッサージ、背部のマッサージなどです。
これらのタッチングにより、リラクゼーション効果や疼痛の軽減効果などを期待することができます。
5、タッチングのポイント
タッチングはあくまでも、患者さんが快適につらい闘病生活をのりきる手法の一助であるにすぎません。タッチングを行うとなったとき、たいていは「どうやれば効果的か」と考えてしまいがちです。
効果的なタイミングこそ、患者さんによって千差万別。患者さんの身になって「自分だったらどうしてもらったら嬉しいか」を考えて患者さんに退治することが大切だと考えます。
タッチングは、患者さんの心情に深く寄り添うことから始まります。看護師はどんなときも患者さんに対して十分な観察と配慮が必要となります。患者さんの状態を見極め、どうしてもらいたいかを率直に聞くこともよいでしょう。
タッチングにはいくつか技法がありますが、ほとんどが組み合わせで成り立っています。その患者さんに合ったものを自分なりに発見してみてください。
5-1、言葉だけよりもタッチング+言葉が効果的
患者さんとコミュニケーションをとる時には、言葉だけではなく、タッチング+言葉のほうが効果が高いことがわかっています。
加悦美恵、井上範江「苦痛を伴う検査時の看護師の関わり──話しかける介入と話しかけながらタッチする介入の対比」によると、ストレス状況下では会話だけではなく、タッチング+会話のほうがストレス緩和の効果が高いという研究結果が出ていて、「苦痛を伴う検査を受ける患者は,看護者により話しかけられながらタッチされるほうが,より検査を楽に受けられると考えられた」と結論付けています。
だから、看護師は患者さんにケアをする時にはタッチング+言葉・会話をするように心がけると良いでしょう。
まとめ
欧米では挨拶で抱き合うなど、医療従事者と患者さんという関係に限らず非言語的コミュニケーションが図られている社会だと言えるでしょう。それに比べて、日本は非言語的コミュニケーションが苦手な文化と言えます。
受容者である患者さんにも触れられることを嫌がる方がいるのは事実です。そうした人にタッチングするのはかえってストレスになりかねません。
タッチングは患者さんと看護師との間に揺るぎない信頼関係が築き上げられた上で成立するものなので、まずは信頼関係を築く努力を惜しまず、日頃から患者さんの様子に目を配り、それが必要であるかどうかを見極める力をつけることが大切です。
参考文献
川原由佳里・奥田清子「看護におけるタッチ/マッサージの研究:文献レビュー」 日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3
看護学学習辞典(第3版)「学研メディカル秀潤社」
市川和彦「保育者・支援者との“触れる関わり”が障がい児者に及ぼす影響~主に自閉症スペクトラム児者(ASD)における人間関係能力発達の視点から考える各アプローチの包括的理解~」
加悦美恵、井上範江「苦痛を伴う検査時の看護師の関わり──話しかける介入と話しかけながらタッチする介入の対比」日本看護科学会誌/27 巻 (2007) 3 号
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