嘔吐は生体防御反応のひとつです。通常、嘔吐は一時的な症状であることが多く、治療の対象とならないケースがほとんどですが、原因によっては症状が持続する場合や治療が必要となる場合もあります。いずれの場合も、患者にとって苦痛な症状であることは間違いありません。ここでは嘔吐のメカニズムや原因、看護ケアについて説明します。嘔吐についての知識を深め、実際の場面で柔軟に対応できるよう学習していきましょう。
1、嘔吐とは
嘔吐とは、胃や小腸上部の内容物が口から吐き出されることを言い、何らかの原因で嘔吐中枢が、刺激されることにより引き起こされます。嘔吐中枢が刺激されると、胃の出口(幽門部)が閉鎖され、胃の入口(噴門部)が弛緩し、胃に逆流運動が起こります。同時に横隔膜や腹筋が収縮し、胃を圧迫することで胃の内容物が排出されます。嘔吐の原因は様々ですが、その原因により大きく中枢性嘔吐と末梢性(反射性)嘔吐、神経性嘔吐に分けられます。
■中枢性嘔吐
中枢性嘔吐とは、嘔吐中枢に対する直接的刺激により引き起こされる嘔吐のことで原因として以下のようなものが挙げられます。
・その他:尿毒症、肝不全、糖尿病性昏睡、アジソン病、高山病など
■末梢性(反射性)嘔吐
末梢性嘔吐とは、舌咽神経や迷走神経、交感神経などの求人性神経路を介して嘔吐中枢が刺激されることにより引き起こされる嘔吐のことで、以下が原因と考えられます。
・食道疾患:逆流性食道炎
・胃疾患:急性腸炎、胃·十二指腸潰瘍
■神経性嘔吐
神経性嘔吐とは、嘔吐の原因となる明らかな異常・疾患がなく、心理社会的なストレスが原因で嘔吐するものを指します。
嗅覚や味覚、激しい情緒の変化などが原因になることもありますし、不安や緊張、ストレスが原因になることもあります。
心理的嘔吐、心因性嘔吐と呼ぶこともあります。
その他、薬物や妊娠などにより嘔吐が引き起こされる場合があります。
2、嘔吐のある患者の看護問題
嘔吐により、嘔吐物が謝って気管に入り誤嚥を引き起こすことがあり、誤嚥により窒息や誤嚥性肺炎などの合併症が引き起こされる場合があります。また、嘔吐により大量の胃液や水分を喪失すると、電解質異常や脱水症状が出現することがあるため注意が必要です。嘔吐は不快で苦痛な症状です。嘔吐に伴い、患者の苦痛やストレスが増強することも予測されます。
■看護問題:誤嚥により窒息や誤嚥性肺炎を引き起こす可能性がある
嘔吐があると、それを誤嚥することで窒息したり、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
看護師は「誤嚥を起こさない」などの看護目標とそのための看護計画を立てる必要があります。
■看護問題:電解質異常や脱水症状が引き起こされる可能性がある
激しい嘔吐が続くと、電解質異常や脱水症状が引き起こされるリスクがあります。
「脱水を起こさない」や「異常の早期発見ができる」などの看護目標とそのための看護計画を立案してケアをしましょう。
■看護問題:苦痛やストレスが増強する可能性がある
嘔吐は苦痛やストレスを伴います。苦痛やストレスをそのままにしておくと、それによって更なる嘔吐が引き起こされる可能性もあります。
患者さんが安楽で過ごせるように看護目標を立てて、看護計画を立案しましょう。
3、嘔吐の観察項目
■突然の嘔吐かどうか
観察項目の1つ目は、突然の嘔吐かどうかです。
一般的には悪心・嘔気があってから嘔吐することが多いですが、なんの前触れもなく突然嘔吐した場合、くも膜下出血などの疑いがあります。
■嘔吐が持続しているか
嘔吐が繰り返す場合は、胃腸炎のほかに腸閉塞や消化管の狭窄、薬物、腹膜炎などが疑われます。
■吐物の性状
胃液が多いか、血液や胆汁が混ざっているか、便臭があるかなどを観察します。
胃液が多い時は胃潰瘍や胃炎など胃に原因疾患がある可能性が高いです。
また、血液が混ざっていたら、どこからか出血があります。
胆汁が混ざっていれば色は茶褐色になりますし、便臭があれば腸閉塞など胃より下部の消化管に原因があることが多いです。
■随伴症状
嘔吐の患者さんには随伴症状があるかどうかを観察しましょう。
・発熱
・悪寒
・腹痛
・下痢
・めまい
・頭痛
・胸痛
・眼痛
随伴症状を観察することで、嘔吐の原因疾患を特定するヒントになります。
■既往歴・生活歴
嘔吐の患者さんには次のような既往歴・生活歴を確認してください。
・過去に同じような嘔吐があった
・既往歴
・手術歴(開腹手術)
・職業歴(有機溶媒、化学薬品)
・海外渡航歴
・最近の転居
・妊娠の可能性
これらの情報も、嘔吐の原因疾患の特定には必要になります。
■食事歴
最後に食事をしてからどのくらい経って嘔吐したのか?も確認してください。
・食事後すぐに嘔吐→薬物や毒物
・食後2時間程度で嘔吐→ブドウ球菌など毒素型の食中毒
・食後半日程度たってからの嘔吐→サルモネラ菌など感染性の嘔吐
最後に食事をしたのはいつか?によって食中毒の原因菌を推測することが可能です。
4、嘔吐の看護ケアのポイント
嘔吐のある患者のケアのポイントを以下に記します。
■体位の工夫
嘔吐時の姿勢は、誤嚥防止のために右を下にした右側臥位が良いです。右側臥位が困難な場合は仰臥位のまま顔を横に向けるようにしましょう。
嘔吐後の姿勢は、服圧のかからない体位を保持できるようにしましょう。膝を曲げるなど患者が安楽でいられる体位を保てるようにして下さい。
■安静の保持
できるだけ静かな環境で安静を保持できるよう環境を整えましょう。深呼吸を意識的に行うよう指導し、心身の安静を保てるようなケアの提供が必要です。
■嘔吐後の基本的な看護ケア
吐いた後はどうすればいいのか?それは、気道確保・口腔ケアと環境整備です。
まずは、口腔内に吐物が残っていないかを確認してください。嘔吐物が口腔内に残っていると、窒息したり、誤嚥したりするリスクがあります。そのため、口腔内に吐物が残っていないかを確認します。意識レベルが低い患者は、嘔吐後はすぐに顔を横向きにしてから、口腔内を確認しましょう。
気道を確保し、窒息・誤嚥のリスクがなくなったら、次は口腔ケアをします。嘔吐後は口腔内が汚染され、それにより不快感が残ります。そのため、すぐに口腔ケア・含嗽を行って、爽快感を得られるようにします。
また、吐物は臭いがありますし、吐物を見ると不快に感じます。また、感染症で嘔吐した場合、吐物から感染が広がることもありますので、看護師は速やかに吐物を片付けてください。また、換気を行うなどの環境整備も行いましょう。もし、寝具・寝衣が汚れたら、すぐに交換してください。
■食事の援助
患者の状態に合わせた食事とし、嘔気、嘔吐の有無を確認しながら、必要時は食事の援助を行います。食事で十分な水分や栄養を摂取できない場合は、輸液での管理や薬物療法が必要となる場合があります。
■不安の除去
嘔吐した際は、すみやかに嘔吐物を片付けるなど、患者の不安が増強しないよう配慮します。患者の訴えに寄り添い不安の軽減に努めましょう。
まとめ
嘔吐により身体的苦痛はもちろん、精神的な苦痛を伴うことがあります。また、精神的な状態が嘔吐に影響を与える場合もあるため、精神的ケアが看護の重要なポイントとなります。患者の不安を取り除き、少しでも安楽な状態でいられるようケアを提供していきましょう。
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