昨今、PNSという言葉をよく耳にするようになりましたが、詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。
そんな方のために、当ページではPNSの概要に加え、メリットやデメリット、今後の課題など包括的に分かりやすくご紹介したいと思います。
PNSは看護方式の1つ!とは知っていてもその詳細をご存知ない方は、この機会にぜひ知識を深めてください。
1、PNSとは
従来は、「チームナーシング」「プライマリー・ナーシング」「混合型看護」「機能別看護」などの看護方式がありましたが、すべてに共通するのが1人の看護師が複数の患者を受け持つという自己完結型の看護でした。
チーム
ナーシング |
1つの病棟に2つ以上のチームを編成し、各チームリーダーのもとで、チーム単位で一定の患者を受け持ち、看護ケアを提供する看護方式。 |
プライマリー
ナーシング |
1人の看護師が1人の患者を入院から退院まで一貫して担当し、 24時間責任を持って担当患者の看護にあたる看護方式。 |
混合型看護 | チームナーシングとプライマリー・ナーシングとの折衷方式で、1つの病棟に2つ以上のチームを編成し、チーム内の看護師を一定期間固定すると共に、担当患者の入院から退院までの一貫した看護を行う。 |
機能別看護 | 検温、注射、投薬、清拭など業務ごとに担当する看護師を選定し、各看護師が複数の患者に対し受け持ちの業務を提供していく看護方式。 |
どの看護方式にも大きなメリットがあるものの、自己完結型の看護では、看護師の力量により看護の質が左右され、医師も看護師も患者も不安・不満・疲労・多忙な状況が生じ、これらが誘因となり看護職員の離職の増加や患者に対する看護の質低下を招くことがしばしばありました。
そこで、これらを改善すべく2009年に福井大学医学部付属病院が新たに2人の看護師が共働して、複数の患者を受け持つ看護方式を開発しました。これがPNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)であり、看護師・患者双方にとって大きな益を生み出す看護方式として、すでに多くの病院が採用・実践しています。
しかしながら、従来の看護方式にはなかった新たな問題が浮上するなど、未だ確立段階に至っておらず、導入しているすべての医療機関で課題の改善がなされています。
1-1、PNS導入の目的
上記のように、さまざまな看護方式が存在しますが、PNSは従来の看護方式とは異なり2人の看護師が共働することで、多くの益を生み出すとし開発されました。看護師の人員不足が嘆かれている昨今、超過勤務が当たり前となり看護師への負担が増大することで、看護の質低下を招き、離職率が年々上昇するなど悪循環が生じていました。
この状況を改善するため、福井大学医学部付属病院が以下のような目的でPNSに開発に至ったのです。
①超過勤務を削減できる
②1人で患者を担当するストレスを軽減できる ③新人看護師に対してOJTを充実させることができる ④より安心・安全・安楽な看護を提供できる ⑤チームワークや協力体制を構築できる ⑥患者のニーズに対してタイムリーに対応できる ⑦安全な医療の実施と療養環境を保持することができる |
1-2、互いに必要となるマインド
PNSは従来の看護方式と大きく異なるため、開発元である福井大学医学部付属病院は、PNSを有効活用するためにそれぞれのパートナーが互いに認め合う気持ちや、円滑化に向けた姿勢などが大切であると提唱しています。
①定時に業務が終わるよう協力・補完し合う
②思いやりや謝意を表する ③パートナー間で自立・自立心を持つ ④パートナー間でより良い看護方法・方針を話し合う ⑤看護師一人一人が有する能力や持ち味を認め合う ⑥提供される看護の質を評価する姿勢を持ち続ける ⑦経験や職位を尊重しつつ1人の看護者として対等の意識を持つ ⑧業務の進め方を振り返り、改善・効率化に努める ⑨PNS定着を促進する気持ちを持ち課題に対応する ⑩看護提供上の課題解決を病棟全体で取り組む ⑪現状の勤務体制の妥当性を検討する ⑫命令口調などコミュニケーションを振り返る |
つまり、PNSを効果的に運用するためには、先輩看護師・後輩看護師という垣根を越えた絶大な信頼関係を有するパートナーであることが絶対条件なのです。
これらを踏まえて、「自立・自助の心」「与える心」「複眼の心」の3つのパートナーシップマインドと、それを支える3つ要素「尊重」「信頼」「慮る」が必要であると言われています。
■パートナーシップマインド
自立・自助の心 | 他者依存を捨てセルフヘルプの意識を持ち、自らがエンジンとなるよう先立って行動すること。 |
与える心 | 報酬(見返り)の存在を忘れ、give&takeではなくgive&giveの精神を持って価値提供に注力すること。 |
複眼の心 | さまざまな視点から物事を見ることを心掛け、パートナーの立場に視点をおき、価値観や考え方を正しく知ろうとする姿勢を持つこと。 |
■マインドを支える3つの要素
尊重 | 価値あるもの、尊いものとして大切に扱うこと。相手の話を聞き、理解しようとする謙虚な姿勢を示す立場に応じて言葉使いに注意することが尊重につながる。 |
信頼 | 信じて頼りにする、頼りになると信じること相手のことをよく知り、自分のこともよく知ってもらうこと。お互いが相手のことを十分に理解し受け入れた時、その相互作用によって信頼関係は気付く事ができる。コミュニケーションがその大切な手段となる。 |
虚る | 周囲の状況をよく考え、思いめぐらすこと。思いやる、気配り、推し量ること。 |
2、PNSのメリット・デメリット
PNSは2009年に開発された新しい看護方式ですが、すでに多くの病院で導入され、その成果が報告されています。従来の看護方式のデメリットを改善すべく開発されたことで、看護職員や患者にとって益となるさまざまなメリットが存在しますが、その反面、従来の看護方式にはなかった新たなデメリットが生じるなど、見直し・修正が必要であるとともに、まだまだ改善の余地があるのも事実です。
■メリット(看護師)
①患者情報の共有や行動の確認が増加する
②業務の進捗確認と相互補完が増加する ③協力依頼がより容易になる ④互いにスキルアップを図ることができる ⑤ケアに関する相談をより迅速に行える ⑥敬意を示す言葉がけが増加する ⑦看護技術や看護の考え方を学ぶ機会が増加する ⑧新人看護師・異動看護師へのOJTが充実する ⑨超過勤務時間が減少する ⑩コミュニケーションの増加のより全体の雰囲気が改善される |
■メリット(患者)
①患者に苦痛を与えないケアを提供できる
②適切なアセスメントが実施でき、観察漏れが減少する ③患者のニーズに対して迅速に対応できる ④治療・検査など患者からの質問・疑問に対して迅速に対応できる ⑤患者・家族に対する対応困難が減少する ⑥医療事故やヒヤリハットが減少する ⑦医療機器装着患者の安全な歩行をより適切に支援できる ⑧病室を訪室する頻度・時間が増加し患者に安らぎを与えることができる ⑨患者・家族と踏み込んだ会話の機会が増加する |
■デメリット
①通常(チームナーシング)の倍の人員が必要となる
②看護師間の力量・経験の差によりストレスが生じる ③ベテラン看護師の業務負担が大きくなる ③パートナーに気を遣ってしまい業務に支障をきたす可能性がある ④看護記録が後回しになってしまう ⑤パートナーの組み方が難しい(離職後の補充を含む) ⑥ケアの方法や方針における意見の相違によりPNS崩壊の可能性がある ⑦適切な管理体制が必要となる(休日・休暇の調整、PNSのコントロール) |
3、今後の課題
PNSは看護職員・患者にとって大いなる益を生む看護方式として注目されていますが、上記のようにさまざまなデメリットが存在するなど、改善の余地が大いにあります。
中でも「看護師間のストレス」と「補完管理困難」が大きな課題であり、これをいかに改善していくかがPNSの運用において非常に重要となります。
■看護師間のストレス
先輩看護師に対して気を遣う、先輩看護師との力量差にストレスを感じるなど、常にパートナーシップをとることで特に後輩看護師が大きなストレスを感じることが多いという課題が残ります。
また、PNSを効果的に運用するポイントである“相手の意見や考えを受け入れる”という行為においても自分の意志通りにケアできないストレスがのしかかります。
これを改善するためにはパートナーの選定が重要となりますが、仲の良し悪しを基準に選定すれば他のグループへの人員調整が難しくなり、得意分野や持ち味が同じパートナーで編成すれば妥協が生まれるなど、最終的に看護全体の質の低下を招くため、以下に述べる補完管理もまた非常に重要となってくるのです。
■補完管理困難
PNSの運用にあたって、看護師長・副看護師長・コーディネーターのいずれかがパートナー(グループ・チーム)の編成やチームメンバーの監督・教育、PNS全体の実践・成果を行いますが、PNSを効果的に運用するためには非常に優れた管理能力が必要になります。
パートナー編成においては仲の良さ・持ち味や得意分野・人間性・価値観など、さまざまな点を考慮しすべてのグループを平均化させる能力が求められるため、看護職員に対する高度なアセスメント力が要求されます。
また、PNSはまだ新しい看護方式であるため、看護業務や看護手順の見直し・修正を頻繁に行い、よりよい体制を構築しなければいけないことから、多角的な視野をもとにしたマネジメント力も問われます。
まとめ
従来の欠点を補い、看護職員への労働環境の改善・患者への看護の質向上などを目的として開発されたPNSは、看護職員・患者に対して益となる多くのメリットが存在する反面、従来の看護方式にはなかったデメリットの浮上など、未だ完全とは言えない看護方式です。
新しい方式ゆえに改善の余地が十分あるため、逐一、各医療機関の報告や論文などに目を通しておきましょう。