あなたは血液ガスデータをきちんと読むことができますか?血液ガスのデータの意味を正しく理解できているでしょうか?血液ガスは患者さんの状態を反映している重要な検査データです。
今回は、血液ガスデータの中でも動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)について詳しく説明していきます。動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の基礎知識や正常値、PaCO2が上昇する原因・低下する原因をまとめましたので、参考にしてください。
1、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)とは
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2=arterial partial pressure of carbon dioxide)とは動脈血中の二酸化炭素分圧のことです。「分圧」とはその気体が持つ圧力のことで、濃度(量)に比例します。
つまり、PaCO2は動脈血の中にどのくらいの二酸化炭素が溶け込んでいるのかを示す指標になります。単位はmmHg、もしくはTorrです。
PaCO2は動脈血を採血して、血液ガス分析装置によって測定することができます。
1-1、PaCO2とPCO2の違い
PaCO2とPCO2の違いに戸惑ったことがある人は多いと思います。PaCO2は動脈血二酸化炭素分圧です。PCO2はPartial Pressure of Carbon Dioxideですので、日本語にすると「二酸化炭素分圧」になります。
つまり、PCO2は「動脈血に限らない二酸化炭素分圧」ということになります。PCO2はPaCO2と同じ意味で使われることもありますが、血液ガスデータで「PCO2」と記されていた場合、静脈血の血液ガスデータの可能性もありますので、その点は考慮しなければいけません。
静脈血のPCO2はPaCO2よりも値が平均で4~5mmHg程度高く出ます。1)
そのため、PCO2をPaCO2と思い込んでデータを読むと、患者さんの換気状態を見誤る可能性がありますので、注意してください。
1-2、PaCO2を測定する意味
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は肺胞換気量の指標になるもので、換気がきちんとできているかを表すものです。
換気とは血液中の二酸化炭素が肺胞に放出され、さらにそれが呼吸によって体外に放出されることを言います。
ここで、PaCO2の計算式を確認しておきましょう。
・PaCO2=0.863×(二酸化炭素産生量/肺胞換気量)
つまり、二酸化炭素産生量が多くなる、もしくは肺胞換気量が少なくなるとPaCO2は上昇します。逆に二酸化炭素産生量が少なくなる、もしくは肺胞換気量が多くなるとPaCO2は低下します。
二酸化炭素は血液に溶けると酸性の性質を持ちますので、PaCO2が高ければpHは下がり、PaCO2が下がればpHは高くなります。
つまり、PaCO2を測定することで、換気が正常にできているかどうかを判断することができ、さらに酸塩基平衡の状態を見ることができるのです。
2、PaCO2の正常値
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は換気の状態を表す指標です。PaCO2の値を見て、換気が正常にできているかどうかを判断できるようになるためには、PaCO2の正常値を知っておく必要があります。
PaCO2の正常値は35~45mmHgです。この正常値は絶対に覚えておかなくてはいけません。ただ、PaCO2の正常値は年齢によって違ってきますので、注意が必要です。
<年代別のPaCO2の正常値>
・新生児:33mmHg
・乳児(1~24ヶ月):34mmHg
・小児(7~19歳):37mmHg
・成人:40mmHg
小児科の看護師は年代別のPaCO2の正常値も覚えておくと良いでしょう。
3、PaCO2が上昇する原因
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が45mmHgより高くなると、換気が不十分であることを示しています。血液中に二酸化炭素が溜まってしまった状態です。PaCO2が上昇する原因には、以下のものがあります。
■閉塞性肺障害
PaCO2が上昇する原因には、閉塞性肺障害があります。閉塞性肺障害とは気管支や肺などに障害が起こり、呼吸がしにくくなる状態です。
閉塞性肺障害には気管支や肺気腫、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などがあります。
また、気道に異物が詰まるなどの気道閉塞でもPaCO2は上昇します。
■呼吸筋麻痺
呼吸筋が麻痺することでも、呼吸に障害が出ますので、PaCO2は上昇します。呼吸筋が麻痺する原因には、脊髄損傷(頚髄損傷)や筋ジストロフィー、重症筋無力症などの神経筋疾患などがあります。
■呼吸中枢抑制
脳幹にある呼吸中枢が抑制されると、呼吸停止や呼吸が浅くなり、換気が不十分になってPaCo2が上昇します。呼吸中枢が抑制される原因には、麻酔薬・鎮静薬・麻薬の過量投与、急性薬物中毒、脳血管障害、ふぐ毒のテトロドトキシンの摂取等があります。
3-1、PaCO2が上昇すると呼吸性アシドーシスに
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇すると、pHが低下しますので、呼吸性アシドーシスになります。
急性呼吸性アシドーシスになると、次のような症状が現れます。
<呼吸性アシドーシスの症状>
・頭痛
・錯乱
・不安
・眠気
・CO2ナルコーシス
・昏迷
呼吸性アシドーシスになると代償メカニズムが働き、アシドーシスは抑制されますが、呼吸性アシドーシスが顕著の場合は重症化しますので、PaCO2が上昇している場合は、しっかり換気をしなければいけません。換気のためには酸素投与だけでは不十分ですから、気管挿管や非侵襲的陽圧換気(NIPPV)を行わなければいけません。
4、PaCO2が低下する原因
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の計算式は「PaCO2=0.863×(二酸化炭素産生量/肺胞換気量)」ですから、分母の肺胞換気量が多くなれば、PaCO2は下がります。
肺胞換気量は呼吸数が増加する、もしくは呼吸量が増加することで多くなります。つまり、深く速い呼吸をすると、肺胞換気量は増加し、PaCO2が下がるということですね。
PaCO2が低下する原因には、次のようなものがあります。
<PaCO2が低下する原因>
・不安
・疼痛
・発熱
・アスピリンの過剰摂取
・低酸素症
・高地での滞在
これらの原因で、呼吸が速く深くなりますので、PaCO2は正常値よりも低く、35mmHg未満になります。
4-1、PaCO2が低下すると呼吸性アルカローシスに
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下すると、血液中の二酸化炭素の量が低下しますのでpHは上昇します。つまり、呼吸性アルカローシスになります。
呼吸性アルカローシスになると、次のような症状が現れます。
<呼吸性アルカローシスの症状>
・易刺激性
・ふらつき
・筋肉のひきつり
・筋痙攣
・指先や足先、口周囲のチクチク感
・錯乱
・失神
呼吸性アルカローシスは上記の症状が現れますが、呼吸性アルカローシスによって死に至る危険はありません。そのため、特別な治療的介入は不要です。
過換気症候群の場合、ビニール袋や紙袋を口に当てて、吸気の二酸化炭素濃度を上げて、呼吸性アルカローシスを是正する方法(ペーパーバッグ法)がありますが、PaO2が過度に低下したり、PaCO2が正常値を超えて上昇するリスクがあります。
PaCO2が低下している患者は不安などが原因で過換気になっていることが多いので、看護師は患者に寄り添い、声をかけ、安心させるようなケアをすると良いでしょう。
まとめ
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の基礎知識や計算式、検査の意味、正常値、PaCO2の上昇原因・低下原因をまとめました。PaCO2は患者の換気状態を表す大切な指標です。正常値をきちんと覚えると共に、なぜPaCO2が上昇しているのか・低下しているのかを考えながら、看護計画を立てるようにしましょう。
参考文献
・呼吸器は、酸素化と換気に分けて考える。 – 亀田メディカルセンター|亀田総合病院 呼吸器内科【呼吸器道場】
・呼吸の管理 C.参考 2.計算式・数値|京都府立医科大学
・大阪市立大学医学部附属病院 中央臨床検査部 安保浩二「初心者でもわかる血液ガスの見方・読み方」大阪臨床検査技師会定期講習会
・半井悦朗 釘宮豊城 稲田英一「解説 呼吸管理に必要な呼吸生理」日集中医誌.2008;15:49~56.
The post 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)とは?正常値や上昇・低下の原因を解説 first appeared on ナースのヒント|明日のヒントが見つかるWebメディア.