保健師になるためには、看護師免許を取得後に保健師養成学校で所定の教育課程を受講・修了し、保健師国家試験に合格する必要があります。保健師国家試験の合格基準は87点/145点(60%以上)、合格率はおよそ90%と比較的にハードルが低いものの、確実に合格するためにはしっかりと勉強しておかなければいけません。
ここでは、保健師養成学校における教育課程や保健師国家試験の概要について、詳しく解説いたします。保健師を目指している方は、最後までしっかりとお読みください。
1、保健師とは
保健師とは、地域を通して人々の病気予防や健康増進、健康回復の支援など、保健指導全般に従事する者のことを言います。2014年時点の就業者48,452人(平成26年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 厚生労働省)のうち、およそ7割が都道府県または市町村の保健所・保健センターで就業し、およそ3割は地域包括支援センターや病院・診察所、事業所、企業、学校などで活動しています。
保健師の求人は、看護師や助産師などの他の看護職と比較して少ない傾向にありますが、高齢化が進行している現状において、保健師の需要は年々高まっています。特に過疎化が深刻な市町村における需要は非常に高く、多くの市町村で採用を積極的に行っています。
2、保健師への道
保健師になるためには、高等学校卒業(高等学校卒業程度認定試験合格)後に、看護系の学校で所定の教育課程を受講し、看護師国家試験に合格することから始まります。看護師免許を取得すると、保健師養成学校に入校することができ、そこで保健師に必要となる所定の教育課程(1年または2年)を受講し、保健師国家試験に合格することで晴れて厚生労働大臣から免許を受け、保健師として活動することができます。
出典:保健師になるには?(公益社団法人 愛媛県看護協会)
保健師養成学校には、1年制の専門学校(短期大学)と2年制の看護系大学があり、およそ200校もの教育機関(全国保健師教育機関協議会に入会している教育機関)で保健師養成課程を受講することができます。受講できる教育機関については、「会員校一覧 全国保健師教育機関協議会」のページをご覧ください。
3、保健師養成学校における教育課程
保健師養成課程は、受講する教育機関によって異なりますが、「公衆衛生看護管理論」「公衆衛生看護活動展開論」「健康教育学」「疫学」「保健統計学」「保健医療福祉行政論」「地域看護学実習」などがあり、これらの科目を通して保健師に必要となる知識・技術の習得を図ります。
公衆衛生看護管理論 | 地域で生活している人々の暮らしや健康を維持・向上させるために、地域の人々ならびに関係者と協働して行う地域保健活動の円滑な遂行に必要となる基本的な管理機能を学びます。 |
公衆衛生看護活動展開論 | 地域で生活している人々の健康的な日常生活を包括的に守るための公衆衛生看護活動、ならびに保健師としての役割や基礎的考えについて学習します。 |
健康教育学 | 健康診断や健康教育、保険情報管理など、地域で生活している人々の健康レベルに応じた問題・課題のアセスメント、ならびに健康を個人・集団として増進するために必要となる知識・技術の習得を図ります。 |
疫学・保健統計学 | 集団における病気やケガなどの健康問題の原因・発生率などを探り、有効な対策を計画・立案するための科学的な方法を学びます。 |
保健医療福祉行政論 | 地域の健康問題の解決に必要となる社会資源の開発や保健医療福祉サービスの効果的な支援活動のあり方、保健医療福祉に関する体制整備状況、保健医療福祉行政の政策形成過程などの知識を習得します。 |
地域看護学実習
(公衆衛生看護学実習) |
看護色や保健医療の専門職、衛生管理者、地域の住民などとのふれあいの中で、地域における看護活動の特徴・役割を実践的に学習します。 |
4、保健師国家試験の受験資格
保健師国家試験の受験資格を得るには、看護師免許の取得ならびに保健師養成学校での1年以上の教育課程を履修する必要があります。詳しい要件は以下の通りです。
次のいずれかに該当する者
(1) 文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、文部科学大臣の指定した学校(以下「指定学校」という。)において1年以上保健師になるのに必要な学科を修めた者 (2) 文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものとして、都道府県知事の指定した保健師養成所(以下「指定養成所」という。)を卒業した者 (3) 保健師助産師看護師法第2条に規定する業務に関する外国の学校若しくは養成所を卒業し、又は外国において保健師免許に相当する免許を受けた者で、厚生労働大臣が(1)又は(2)に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認めたもの (4) 保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第78号。以下「改正法」という。)の施行の際(平成22年4月1日)現に改正法による改正前の保健師助産師看護師法(以下「旧法」という。)第19条第1号に該当する者 (5) 改正法の施行の日(平成22年4月1日)前に旧法第19条第1号に規定する学校に在学し、施行日以後に同号に規定する要件に該当することとなった者(施行日以後に同号に規定する学校に入学し、当該学校において6月以上保健師になるのに必要な学科を修めた者を除く。) |
引用元:保健師国家試験の施行一部省略(厚生労働省|2017年8月1日)
5、保健師国家試験の概要
保健師国家試験は、全国11都道府県で開催され、「公衆衛生看護学」「疫学」「保健統計学」「保健医療福祉行政論」の4つの科目から出題されます。試験内容は、午前と午後に分かれ、一般問題(75問)、状況設定問題(35問)の計110問を解答します。
≪試験地と試験科目≫
試験地 | 試験科目 |
北海道、青森県、宮城県、東京都、愛知県、石川県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、沖縄県 | 公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、保健医療福祉行政論 |
≪試験内容≫
出題形式 | 問題数/得点 | 解答時間 | |
午前 | 一般問題
(四肢択一、五肢択一、五肢複択) |
40問(各1点) | 75分 |
状況設定問題
(四肢択一、五肢択一) |
15問(各2点) | ||
午後 | 一般問題
(四肢択一、五肢択一、五肢複択) |
35問(各1点) | 80分 |
状況設定問題
(四肢択一、五肢択一) |
20問(各2点) |
平成29年の第103回保健師国家試験で、3問が「採点対象から除外する」扱いにされたように、各年度によって細かな調整が入ることがありますが、一般的に145満点中87点、正答率およそ60%が合格基準となっています。過去問は、厚生労働省が公表していますので、受験前はしっかりと解いておきましょう。
≪過去問≫
平成25年(2013年)
第99回保健師国家試験 |
⇒午前
⇒午後 ⇒正答 |
平成26年(2014年)
第100回保健師国家試験 |
⇒午前
⇒午後 ⇒正答 |
平成27年(2015年)
第101回保健師国家試験 |
⇒午前
⇒午後 ⇒正答 |
平成28年(2016年)
第102回保健師国家試験 |
⇒午前
⇒午後 ⇒正答 |
平成29年(2017年)
第103回保健師国家試験 |
⇒午前
⇒午後 ⇒正答 |
出題科目は、「疫学」「保健統計学」「保健医療福祉行政論」「公衆衛生看護学」の4つですが、平成30年(2018年)の試験では、各科目の出題基準の改定が行われます。詳しくは厚生労働省の「改定概要」をご覧ください。また、今後も出題科目の変更や基準の改定が行われることが予想されますので、しっかりと確認しておいてください。
≪合格率≫
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
平成25年
(2013年) |
16,420人 | 15,764人 | 96.0% |
平成26年
(2014年) |
17,308人 | 14,970人 | 86.5% |
平成27年
(2015年) |
16,622人 | 16,517人 | 99.4% |
平成28年
(2016年) |
8,799人 | 7,901人 | 89.8% |
平成29年
(2017年) |
8,207人 | 7,450人 | 90.8% |
以前は卒業時に学生全員が保健師国家試験受験資格を得ることができましたが、平成24年(2012年)頃から選択制となり、所定の教育課程を履修した者、成績優秀者(教育機関による)のみが卒業時に保健師国家試験受験資格を取得できる体制に変更になりました。その関係で平成28年(2016年)から受験者数が大幅に減少しています。
なお、保健師助産師看護師法の改正により、現在では4年間(4年制大学)のうちに保健師と助産師の免許を同時進行で取得することはできません。助産師国家試験の受験資格を得るためには、保健師免許を取得後に助産師養成学校の教育課程(1年以上)を受講・修了する必要があります。また准看護師の試験内容も併せてご覧ください。
6、保健師の仕事内容・活動の場
医療機関で主に患者の治療のサポートを行う看護師に対して、保健師は地域に住む人々の健康促進、病気を未然に防ぐ疾病予防などの保健指導・相談が主な仕事です。就業場所は、「保健所・市町村保健センター」「健康診断センター」「企業」「学校」など多岐にわたりますが、対象が異なるものの、根本となる仕事内容に大きな違いはありません。近年では老人ホームや高齢者在宅サービスセンター、在宅介護支援センターなどの福祉施設にも活躍の場が広がっています。
なお、保健所・市町村保健センターなどの行政機関に就職する場合には、保健師国家試験だけでなく公務員試験にも合格する必要があります。また、学校で就職する場合には、基本的に養護教諭の免許取得後に養護教諭採用試験に合格する必要があります。
保健所
市町村保健センター |
乳幼児や妊産婦、成人、高齢者、障害者など、地域に住むあらゆる人々の健康を維持・促進するために、病気の健診や健康指導、健康相談などを行うとともに、地域全体の健康課題を解決するための保健施策全般にも携わります。 |
健康診断センター | 医師や看護師のサポート役として人間ドックや健康診断の補助、メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病の予防指導、健康増進のための相談・指導を行います。 |
企業の健康管理室 | 企業で働く人々を対象として、産業医や衛生管理者との連携をもって健康管理、メンタルヘルス管理を行います。また、健康を主体とする働きやすい職場づくりにも寄与します。 |
学校の保健室 | 小学校・中学校・高等学校などの児童・生徒・教職員を対象として、健康診査や健康教育・相談・指導に加え、施設の環境整備・管理を行います。 |
まとめ
看護師などの他の看護職と比較して、保健師の求人数は未だ少ないのが現状ですが、少子化・高齢化、さらには健康促進における意識の高まりに伴い、保健師の需要はますます高まっています。
保健師国家試験の合格基準は87点/145点と低めに設定されているものの、出される問題は保健活動の基礎ですので、就業後にしっかりと知識を活かせるよう、満点を目指し日々勉強に取り組んでいってください。また就業後は、対象となる人々によりよい活動が行えるよう、研修やセミナーなどを通して自身のスキルアップを図っていきましょう。
参考文献
平成26年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況(厚生労働省|2015年7月16日)
保健師になるには?(公益社団法人 愛媛県看護協会)
保健師国家試験の施行(厚生労働省)