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高齢者の看護計画|特徴・役割と看護過程・看護目標の3つの大切なこと

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高齢者の看護計画

高齢者の看護は、成人とは違ってその年齢を重ねた身体や精神状態の特徴などを踏まえて看護する必要があります。疾患によっては、成人のような治療方法は身体的に負担になるため、疾患の治癒を目指すのではなく共存することや、今、持っている身体能力を維持するための治療計画が立てられます。高齢者の特徴や、役割などを整理して、看護に役立てていきましょう。

 

1、高齢者の特徴とは

人間は高齢になると様々な身体的な機能が衰えてくるために、運動機能や視力、聴力、筋力、嚥下力、記憶力の低下、知覚・触覚などの感覚が乏しくなり、認知力の低下がみられます。身体的には、心拍出量の低下、血管の弾性の低下、呼吸量の減少、腎機能の低下、分泌液の減少、ホルモン分泌量の減少などがあります。それにともなって、脳血管疾患や高血圧、心不全などの循環器系疾患、消化器系疾患、呼吸器系の疾患となる可能性が高くなります。また、主な疾患の他にも既往として慢性化している疾患を複数持っていることもあります。外見は身長や体重が減少し、白髪や頭髪の欠落、皮膚の乾燥やしわの増加などがみられます。社会的な地位としては、退職することでの社会的役割の変化や、家族や友人の死別、身体的能力の低下による行動範囲の縮小、自力での行動は限られるため子供や他人を頼らなければならないなどの変化がみられます。特に、高齢者の問題としては認知症というものがあります。認知症は、本人にも介護をする家族にも負担がかかるものであり、看護にもとても影響があるものです。看護としては、QOLの維持のための関わりが特徴となり、今まで生きてきた中でできた価値観や生活習慣、想いを尊重した関わりが必要になります。また、高齢者の特徴上、疾患にかかると治りにくく、2次的な障害を発症することもあり、治癒がさらに遅れてしまうということもあります。さらに、疾患による行動制限によって認知力をさらに低下させてしまうこともあるのです。

 

2、高齢者の役割とあり方について

高齢になると、退職による経済的基盤の喪失や社会的つながりの喪失、配偶者や友人との死別、子供の独立など家族背景の変化などによって社会的役割の喪失や家庭内役割の喪失があります。これにより、喪失感や孤独感を感じて自分の存在感や生きがいを失ってしまうことにつながることがあるのです。生きがいは役割を与えられることや、達成感、充実感で得られるとされ、高齢者にとっては、新たな役割や生きがいにつながる達成感を得ることを行うことが大切になります。退職の年齢から考えると、平均寿命の80歳までには約20年間あるために、この期間にいかに、自分らしく日々の生活を充実させるかが、精神的にも身体的にも健康でいられるかどうかが関わっています。高齢者は、身体的な機能が低下することや、友人や家族に負担をかけたくないという思いから、外出を避けてしまうことで、どうしても行動範囲が縮小され、より運動機能の低下を進行させてしまいます。運動機能がより低下すると、さらに外部との交流がなくなり、生きがいにつながる行動が取れなくなることで精神的な刺激もなくなり、さらに運動機能の低下に結びついてしまうという悪循環にもなります。このような悪循環は認知症へとつながるとされているので、この流れを止める関わりが必要となるのです。そのために、今までは自分でできていたことを他の人に補助してもらいながら行うことを認めることが必要になります。自分の健康や生活だけではなく家族や友人、介護者との関わりが今までとは違う方向性から新たに生まれることになります。それは高齢者本人の身体的、精神的な状況や経済状況も考慮した新たに役割やあり方になります。

 

3、高齢者の看護過程

高齢者にとって、疾患の治癒に関わることや身体的機能の向上は看護目標ではなく、疾患との共存や、現在持っている身体能力の維持が目標になります。また、加齢による身体機能の低下にさらに疾患が影響し、生活習慣やライフスタイルへの影響は高齢になるに従って大きくなります。高齢者の看護は、身体的、精神的状況を総合的に把握して、思いや価値観を尊重した関わりを行うことが大切です。高齢者の特徴を踏まえた主な看護問題と看護過程をみていきます。

 

3−1、看護問題

・転倒のリスクがある

・低栄養

・セルフケア不足

 

3−2、看護目標

①転倒がおこらない

②必要量の食事を取ることができる

③介助によってADLが確保できる

 

3−3、看護計画

①転倒がおこらない

観察項目(OP)

・歩行、立ち上がりの状態(ふらつきの有無)

・精神、行動の状態(落ち着きがない、イライラしているなど)

・杖、歩行器などの補助具の使用状況

・ベッドサイドに歩行を妨げる危険物はないか

・服装、靴は活動しやすいものか

・認知障害の有無と程度

・バイタルサイン

ケア項目(CP)

・ベッドサイドや廊下の環境整備

・必要時、離床センサーの使用

・トイレや入浴は必要時、見守る

・ふらつきがあるなど、歩行が危険な場合は車椅子を使用するなど工夫を行う

教育項目(EP)

・ふらつきがあるときは無理に歩行しないように説明する

(理解が乏しい場合、大きな字で見えるところに表示する)

 

②必要量の食事を取ることができる

観察項目(OP)

・食事摂取量

・嚥下状況

・睡眠時間、状況

・食事中の姿勢

・血液データ(ALB、TPなど)

・水分摂取量

・食事の嗜好

・体重、BMI

ケア項目(CP)

・食事しやすい姿勢を工夫する

・嚥下しやすい食事形態を工夫する(とろみ、刻みなど)

・必要時、医師へ報告して点滴などの指示を仰ぎ、実施する

・誤嚥しないように工夫して、食事の介助を行う

教育項目(EP)

・家族に食事時の姿勢や誤嚥しないような介助方法を指導する

・本人の嗜好に合ったもので、栄養価が高いものに食事内容を工夫するように指導する

 

③介助によってADLが確保できる

観察項目(OP)

・ADLの状態

・清潔が保たれているか

・安静度

・認知障害の有無と程度

・セルフケアに関する意欲、依存心の有無

・これまでの生活習慣

・家庭の生活状況

ケア項目(CP)

・セルフケアができない原因をアセスメントする

・なるべくできることは安易に介助しない

・入浴日や洗面方法など清潔の援助計画を立てる

・時間がかかっても励まし、できたことには称賛する

教育項目(EP)

・時間がかかっても自力で行うように説明する

・見守ること、励ましや称賛の必要性を家族に説明する

・本人が安全にADLを行えるように家庭の環境を整備するように指導する

 

4、高齢者の看護に大切なこと

高齢者の看護は、身体的な様々な機能の低下を把握して、総合的にアセスメントして関わることが大切ですが、その関わりの中で、高齢者自身の個別性の尊重が必要になってきます。年齢を重ねたぶんの生活歴(生活習慣、文化的背景、家族歴など)によって作られた個別的な価値観があり、判断をする基準となる個々の考えを持っています。高齢になることで柔軟に対応するための適応力が低下するために、このような個別性を無視した関わりは自尊心を傷つけることになってしまうばかりか、高齢者自身のQOLの低下に結びついてしまうことがあります。ただ単に、高齢者の身体的な補助としての関わりだけではなく、高齢者本人の価値観を尊重することはとても大切なことになります。高齢者にとって、新たな生きがいや、達成感を感じることは精神的にも身体的にも健康でいるために大切なことなのです

 

参考文献

老年期における家族的役割、社会的役割と精神的健康との関連性に関する研究(関西福祉科学大学紀要 第9号|橋本有理子|2006年)

新体系看護学全書 老年看護学2 健康障害を持つ高齢者の看護(メヂカルフレンド社|鎌田ケイ子 川原礼子|2012年)


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