ウロストミー保有者に、よりよい看護を提供するためには、まずウロストミーとは何かを正しく理解した上で、包括的かつ多角的な視点を持って“寄り添う看護”について考えなければいけません。
当ページでは、ウロストミーの概要や看護の在り方について詳しくご説明していますので、看護学生や業務経験の少ない看護師の方は特に、最後までしっかりお読みいただき、理解を深めてください。
1、ウロストミーとは
ウロストミーとは、腎臓で造られた尿を体外に出すために作られる人工膀胱のことであり、「尿路ストーマ」とも呼ばれています。ストーマには、尿路ストーマの他に便を排出するために作られる「消化管ストーマ」も存在するため、まずはこの2つの違いを知っておきましょう。
■尿路ストーマ
上述のように、尿路ストーマは「ウロストミー」と呼ばれており、膀胱を切除した患者に対して、尿路変更術(尿管や回腸の一部を腸壁に固定する手術)を行い、ストーマ(尿の排泄口)の造設やカテーテルを留置し、“尿”を体外に排出するための人工膀胱を作ります。
■消化管ストーマ
消化管ストーマは、部位によって名称が異なり、結腸に造設する「コロストミー(結腸ストーマ)」と、回腸に造設する「イレオストミー(回腸ストーマ)」があります。消化管ストーマは、便が形成される(排出される)大腸・直腸・肛門などを切除した患者に対して、人工肛門を造設し、“便”を体外に排出するのを助けます。
2、尿路変更術の種類
一般的に、ウロストミーには「回腸導管」、「尿管皮膚瘻」、「腎瘻」、「膀胱瘻」、「自然排尿型代用膀胱」の5つの手術方法があり、ウロストミーを必要とする疾患の種類や症状によって使い分けられます。ストーマは尿の排泄口という意味だけでなく、“人工膀胱”の意味も持ち合わせているため、ストーマの造設を必要としない場合(カテーテル留置など)もウロストミーとして統一されています。
回腸導管 | 小腸は、十二指腸・空調・回腸によって構成されていますが、このうちの回腸の一部を切除し、その切除した部分(導管)に尿管をつなぎ、尿の排泄口となるストーマを腹部に造設し、パウチと呼ばれるストーマに尿を貯める袋を固定します。 |
尿管皮膚瘻 | 尿路変更術の中で最も簡易的なのが尿管皮膚瘻であり、手術の方法によってはストーマを1つまたは2つ(腹部両側)造設します。回腸導管と同様、ストーマにパウチを固定します。 |
腎瘻・膀胱瘻 | 腎瘻はカテーテルを腎盂(じんう)に挿入し、膀胱瘻は恥骨上部から膀胱内にかけてカテーテルを挿入し、尿の排泄を助けます。カテーテルの狭窄・閉塞の危険性があるため、多くは回腸導管または尿管皮膚瘻が適応となります。 |
自然排尿型
代用膀胱 |
腸を使って膀胱の代用となる袋をつくり、そこに尿管・尿道をつなぎ合わせます。ストーマの造設やカテーテルの留置を必要としないことから見た目は術前と変わりませんが、自排尿困難・尿失禁・超粘膜による尿道の閉塞などトラブルが起こりやすいため、一般的には尿の排泄障害が軽~中度で外見を強く懸念する患者に対してのみ適応になります。 |
3、ウロストミーの適応疾患
ウロストミーは人工膀胱を作成することから、腎臓・膀胱・生殖器など排尿に関係する疾患が適応となります。以下に代表的な適応疾患を列挙します。
悪性腫瘍 | 膀胱がん
尿道がん |
膀胱がんは「表在性がん」と「表在性がん」があり、膀胱の一部または全摘出を行う場合や、尿道がんにおいても膀胱がんの根治手術に準ずるため、尿路変更が適応となります。 |
腎盂尿管がん | 腎尿管全摘と膀胱部分切除が行われるものの、通常では膀胱は温存されますが、腎尿管全摘とともに膀胱を全摘出する場合に、人工膀胱をつくる必要があります。 | |
前立腺がん | 一般的に前立腺がんの標準的手術は前立腺の全摘除が必須ですが、下部尿路の再建と膀胱機能も温存されるためストーマは必要ないものの、進行性前立腺がんで尿路の閉塞がみられる場合には、尿路変更を必要とします。 | |
直腸がん
結腸がん |
根治治療が不可能な進行性のがんで、水腎症をきたしている場合に適応または考慮されます。 | |
子宮がん | 膀胱浸潤をきたし、尿路閉塞や水腎症を呈する場合に尿管ステント挿入を第一に試みられますが、それでも改善されない場合に、尿路変更が考慮されます。 | |
尿路結核・膀胱結核 | 尿結核では尿管閉塞、膀胱結核では委縮膀胱をきたすため、尿路再建術または膀胱拡大術が行われますが、それでも改善されない場合に尿路変更が適応となります。 | |
神経因性膀胱 | 膀胱から大脳の神経に異常をきたし排尿障害をきたす神経因性膀胱はさまざまな要因によって起こりますが、症状が悪化すると排出障害だけでなく蓄尿障害をきたすため、尿路変更が考慮されます。 | |
先天性疾患 | 膀胱・下部尿路形成異常など、生まれつき持つ尿の蓄積・排出をつかさどる器官の異常がみられる場合、根治治療における待機的処置としてストーマを一時的に造設し、尿の排泄を助けます。 | |
外傷・術後合併症 | 交通事故など強い外傷によって尿道が断裂した際や、がんの摘出手術・放射線治療などで委縮膀胱・膀胱出血をきたした場合に、尿路変更を行います。 |
4、ウロストミーの看護目標
ウロストミーにおいて包括的に看護を提供する際、特に重要となるのは「安楽」と「指導」です。合併症予防のための観察や適切な手技(パウチの交換)は当たり前とし、患者の精神的・社会的サポートと、退院後の適切なセルフケア実施に向けた指導に重点を置き、自立援助を行いましょう。
①ストーマ造設・カテーテル留置に伴う精神的ストレスを取り除ける。
ストーマ増設・カテーテル留置に伴い、特に術後まもなくの患者は身体的・精神的なストレスが大きくのしかかるため、早期に受容できるよう、声掛けを行い共感的態度で接してください。
②入院時・退院後におけるセルフケアの必要性を理解し、正しく実践することができる。
ストーマ保持者のほとんどは退院後にセルフケアを行う必要があることから、合併症の防止のために、入院時にストーマの交換方法や清潔保持の必要性など指導を行い、意欲が低下している場合には、達成した事に対して激励するなど意欲向上に努めてください。
③ストーマに付随する合併症について理解し、異常の有無を判別できる
ストーマの色や形状の正常・異常の違いや皮膚炎症・腎盂腎炎などの合併症に対する理解、さらには、異常発生の種類ごとの対処法(装具の変更・皮膚保護剤の使用など)について理解し実践できるよう指導・援助を行ってください。
④社会復帰や退院後の生活について具体的にイメージすることができる
ストーマによる生活上の障害は、「失禁」、「皮膚のただれ」、「臭い」、「外出」、「性機能障害」、「入浴」、「性生活」、「食事」、「経済的問題」など多岐に渡ります。また、職業復帰も懸念されます。退院後の社会復帰を円滑に行えるよう、生活上の注意点や緊急時の対処法など、社会的なサポートを行ってください。
5、合併症予防・QOL向上のための看護ケア
ウロストミーにおいても最も注意すべきことは「スキンケア」です。尿路変更を行った患者は、尿意を感じず尿は垂れ流しになり、常に尿がストーマ装具周辺の皮膚が汚染されやすい状態にあります。また、ストーマ装具によって皮膚の損傷や炎症が起こることもあり、これはカテーテルを留置している場合にも当てはまります。
また、汚染により細菌が腎盂に達する「腎盂腎炎」の発症もしばしばみられるため、創部およびストーマ・カテーテルの管理をしっかり行わなければいけません。さらに、特に術後においては生活の変化や外観の変化による「精神的ストレス」のケアも非常に重要です。
5-1、スキンケア
ウロストミーによるスキントラブルは非常に多く、尿の漏れによる皮膚の炎症や、装具による皮膚の損傷・血液循環の悪化など多岐に渡ります。これらの症状が進行すると継続的な治療を必要とし、患者に多大な負担をかけることになるため、入院時は皮膚の状態を入念に観察し、退院後に患者自身でセルフケアを行うことができるよう、しっかりと説明しておきましょう。
■ストーマのトラブル事例
接地部の皮膚炎症 | 排泄される尿はパウチで受け取りますが、尿の出口となるストーマとパウチは、フランジと呼ばれる面板によって接着されます。このフランジは皮膚と接着する部分であることから、フランジの接着剤によって術後早期に皮膚の炎症や発疹がみられることがあります。 |
尿の漏出 | ストーマの大きさは人によって異なりますが、ストーマの高さが低下している、陥没・くぼみがある、ストーマとフランジのサイズが合っていない、などによって尿が漏出する場合があります。尿が漏出すると皮膚の炎症や感染症を招くため、漏出の有無を観察しておきましょう。 |
ストーマの異常 | フランジ固定による刺激・尿の漏出による刺激・血液循環の悪化などさまざまな原因により、ストーマに異常をきたす場合があります。ストーマの異常は、周辺に白く盛り上がる、変色する(黒化・色素沈着)、硬くなる(硬化)など多岐に渡り、多くの場合は術後早期にみられます。 |
このようにウロストミーには、さまざまなトラブル発症の可能性があるため、皮膚やストーマの状態を入念に観察する必要があるのです。
■皮膚の損傷・炎症・感染におけるケア
ストーマによるスキントラブルの中で最も多いのが皮膚の炎症や感染です。多くの場合、尿の漏出により発症しますが、これは尿が皮膚に付着し続けることで尿の成分による刺激が主な原因であるため、清潔保持が必要不可欠です。
また、接着剤(粘着剤)や皮膚保護剤の化学的な刺激によっても炎症反応がみられることがあります。さらに、装具が固定されることによる皮膚への継続刺激が皮膚の損傷を招くため、①状態に合わせて装具の補正を行う、②適切な方法で装具を交換する、③日常的に清潔を保持する、の3つの項目により予防・改善を図っていきます。
①状態に合わせて装具の補正を行う
尿の漏出により、ストーマ周辺の皮膚に炎症がみられる場合には、面板ストーマ孔サイズの不一致、ストーマ高の低下、陥没・ひきつれ・くぼみ、などさまざまな原因が考えられます。このような状態では、隙間から容易に尿が漏出してしまうため、ストーマ孔サイズの変更、固定ベルト使用によるストーマ周辺への面板の密着度の強化、凸面のある面板への変更、などストーマの状態に合わせて補正を行います。また、化学的な刺激により皮膚炎症をおこす場合には、接着剤や皮膚保護剤を変更してください。
②適切な方法で装具を交換する
ストーマ装具の交換時期は、装着している面板の皮膚保護剤の種類、季節(夏の暑い時期は交換頻度を早める)、皮膚の状態、などによって異なりますが、おおむね2日~5日と早い頻度での交換を必要とします。交換時(剥離・装着時)に皮膚に刺激を与えることから、損傷させないよう優しく交換するよう心掛けましょう。なお、剥離後には皮膚に付着している尿を拭き取り、よく泡立てた石鹸(刺激の少ないもの)で優しく洗い流します。洗浄の不足または過剰洗浄、乾燥時のドライヤー使用など、皮膚損傷を損傷させないよう適切な方法で行ってください。
③日常的に清潔を保持する
ストーマ装具の交換時に皮膚の洗浄を行いますが、日常的にストーマ周辺皮膚やパウチ外部に付着した尿を拭き取り、清潔を保持することも忘れてはいけません。なお、皮膚に付着した尿が乾燥してこびりついている場合には、摩擦を防ぐために、ティッシュなどを水に濡らして尿を拭き取ってください。
5-2、腎盂腎炎
腎盂腎炎とは、腎臓内にある尿の蓄積場所(腎盂)で細菌が繁殖し、腎臓にまで炎症が及んだ病気のことで、寒気や震えを伴う38~40°の高熱、背中や腰の痛み、倦怠感などさまざまな症状が発現し、進行すると慢性腎盂腎炎に移行したり、敗血症を引き起こします。
ウロストミーにおいては、吻合部の狭窄による尿の貯留、ストーマからの細菌の侵入によって腎盂腎炎を発症することがあり、特に尿管皮膚瘻は尿管を直接腹壁に吻合するため、腎盂腎炎の発症率が高い傾向にあります。
無菌状態を保つことは不可能であるため完全に予防することは出来ませんが、早期発見・早期治療のために患者の状態を入念に観察し、高熱や背中・腰の痛みがみられる場合には、軽視せずに腎盂腎炎の発症を疑って速やかに検査・治療を行ってください。
5-3、精神的ストレス
患者は、体の一部としての受け入れ拒否、不自由な日常生活、尿臭による周りへの気遣い、外観的容姿、羞恥心、などにより多大な精神的ストレスがのしかかります。看護師として業務歴が長くなればなるほどルーティーンワークになりがちですが、特に術後すぐの患者は皆、大小関わらず何かしらのストレスを抱えています。
治療を行う医師に対して、看護師は患者のQOL向上のために、治療の補助や生活の援助だけでなく、ストレスケアも大切な業務の1つです。ストレスの蓄積はQOLの低下を招くだけでなく、場合によっては鬱などの精神疾患を引き起こすため、患者の気持ちに寄り添った看護を実践していってください。
6、日常生活における注意点
ストーマ造設に伴い、患者の多くは生活における障害を感じますが、「食事」、「入浴」、「睡眠」、「外出(旅行)」など、基本的には術前と変わりなく生活することができます。ただし、合併症の発症を未然に防ぐために、注意しておくべき事項がいくつかあるため、下記に挙げる3つの注意点を患者にしっかり説明しておきましょう。
①水分補給
通常、ウロストミーにおける食事制限はありませんが、体内の水分が不足すると、腎機能の低下や、尿路内の細菌数の増加に伴う尿感染症の発症、結石の形成など、さまざまな合併症を引き起こします。また、尿の臭いを増強させてしまうため、一日1.5~2リットル程度の水分を摂取することが大切です。
②運動・スポーツ
軽い運動なら問題ありませんが、激しい運動の場合には衝撃や振動によりストーマが傷つく可能性があります。特にストーマへの直接的な衝撃は皮膚の損傷やストーマの形状変化などが起こりうるため、サッカーやバスケットボールなどの球技は極力控えるようにします。また、軽い運動の場合でも多量の汗により皮膚保護剤がとれたり、蒸れによる皮膚トラブルを起こす可能性があるため注意する必要があります。
③装具の確保
昨今、自然災害が多発しています。災害発生時に、ストーマ保有者にとって何より大切なストーマ装具の確保であり、地震や豪雪などにより交通網が遮断されるなど、万一に備えて、「パウチ」、「ガーゼ」、「皮膚保護剤・剥離剤」など必要な用具をすべて準備しておく必要があります。
まとめ
ストーマは一時的なもの永久的なものがあり、永久的に保有しなければいけない患者は特に、身体的・精神的・社会的な負担が大きく、また、合併症の発症率は高い傾向にあります。
それゆえ、入院中だけでなく退院後に迅速に社会復帰できるよう、包括的かつ多角的な視点を持って、“寄り添う看護”を提供し、患者のQOL向上に努めてください。