牽引は骨折の整復のために用いられる治療法で、介達牽引と直達牽引の2種類があります。牽引をしていると、床上安静を強いられますので、骨折や牽引に対する看護をするだけではなく、床上安静であることを忘れずに看護をしなければいけません。
牽引の基礎知識や目的・適応、種類・方法(介達牽引と直達牽引の違い)、看護観察、看護計画をまとめました。
1、牽引とは
牽引(けんいん)とは、持続的に引っ張って負荷をかけることで、骨折を整復する治療法になります。骨折により転位している骨を持続的に牽引することで、転位を治し整復します。
整形外科では骨折の治療のための牽引だけでなく、腰椎症による筋肉の攣縮を取り除いて、疼痛を軽減するために行う牽引療法もありますが、ここでは骨折治療のための牽引を説明していきます。
2、牽引の目的や適応
牽引は、骨折の整復を目的として行われる治療法です。
骨折すると、筋肉の収縮する力に骨が引っ張られることで、骨折部は短縮転位を起こします。そのため、正しい位置に保つことができません。そのまま固定されると、骨がずれた状態のままになります。
そこで、ずれた骨を元に戻す整復が必要になるのですが、骨折の整復方法には3つあります。
徒手整復 | 医師が手で整復する |
牽引 | 持続的に引っ張って整復する |
観血的整復 | 皮膚を切開して、直接骨に力を加えて整復する |
この中で、牽引による整復が適応になるのは、次の3つのケースがあります。
■物理的に徒手整復ができない
牽引療法は下肢の骨折で行われることが多いのですが、下肢の筋肉は収縮する力が強く、徒手整復をしようとして、整形外科医が力いっぱい引っ張っても整復できないことがあります。
また、大腿骨頸部骨折や骨幹部骨折は部位的に徒手整復できないので、牽引療法が適応になることがあります。
■粉砕骨折
粉砕骨折も、牽引の適応になります。粉砕骨折をすると、骨がバラバラの断片に破壊されるので、整復位の保持が困難になるため、牽引で持続的に整復する必要があります。
■開放性骨折
開放性骨折は骨が皮膚からでている状態なので、ギプスなどの外固定ができません。その場合は、牽引を行って整復・固定を行います。小児は骨癒合が早いため牽引のみで治癒することもあります。
牽引の主な目的は骨折部の整復ですが、そのほか疼痛の緩和や患部の安静、良肢位の保持などの効果もあります。
3、牽引の方法や種類
骨折の治療で行われる牽引には、介達牽引と直達牽引の2種類があります。
3-1、介達牽引
出典:成人看護学援助論Ⅰ 演習「介達牽引・頸椎牽引・包帯法」(松坂看護専門学校)
介達牽引は皮膚を介して行う牽引のことで、下肢の場合はスピードトラック牽引と呼ばれることもあります。包帯やグリソン係蹄(頸椎牽引用のバンド)などの特殊な牽引バンドを用いて牽引します。
皮膚を介しての牽引になりますので、次に説明する直達牽引に比べて侵襲が少なくというメリットがありますが、牽引する力は小さくなり、重くても2kg程度までになります。これ以上の負荷をかけると、皮膚が耐え切れずに損傷するリスクが高くなります。
3-2、直達牽引
出典:四肢骨折のプライマリケア ー専門医受診までにすべき事ー(福島医大医療人育成・支援センター|大谷晃司|2010年9月7日)
出典:四肢骨折のプライマリケア ー専門医受診までにすべき事ー(福島医大医療人育成・支援センター|大谷晃司|2010年9月7日)
直達牽引は、キルシュナー鋼線を骨に直接通して引っ張る牽引方法になります。直達牽引は骨に鋼線を通しているので、介達牽引よりもより強い力で牽引することができ、部位にもよりますが10~15kg程度までは耐えることができます。
ただ、骨に鋼線を通す時には痛みが伴い、血管損傷や神経損傷のリスクがあります。また、感染のリスクも伴います。
4、牽引の看護観察のポイント
牽引中の患者を看護する時には、次のことに注意して観察をするようにしましょう。
■正しい方向に牽引されているか
牽引している脚と重りが一直線になっていないと、正しい方向に牽引されていないことになります。正しい方向にけん引されていないと、骨折部位が整復できません。
看護師は体位交換や訪室のたびに、正しい方向に牽引されているかを観察しなければいけません。
■正しい体位や肢位が保たれているか
牽引中は体動が制限されています。良肢位が保たれていないと、関節拘縮を起こして、骨折の治療が終わっても、ADLが著しく低下しますし、リハビリが進みません。
また、牽引している脚が外旋していると、腓骨神経麻痺を起こしてしまいます。
■正しい重さで牽引できているか
牽引中はロープの長さによっては、重りが床についてしまうことがあります。重りが床についてしまうと、正しい重さで牽引できませんので、重りを吊るすロープの長さを調整して、重りが床につかないように気を付けましょう。
また、ロープが滑車から外れていたり、ベッド柵についていたり、患者の掛物がかかっていたりすると、正しい重さで牽引できていないことがありますので注意してください。
■疼痛の有無や程度
牽引中は様々な疼痛が発生するリスクがあります。骨折自体の疼痛のほか、過牽引による疼痛、牽引の器具に圧迫されることでの疼痛、同一体位による疼痛などがあります。
看護師は疼痛の有無、部位、程度などを観察して、対処する必要があります。
■感染兆候の有無
直達牽引を行っている場合、キルシュナー鋼線の刺入部から感染を起こすリスクがあります。
■神経麻痺の有無
下肢の牽引中は腓骨神経麻痺を起こすリスクが高いので、足趾のしびれや運動障害、知覚鈍麻、灼熱感の有無を観察しなければいけません。
5、牽引の看護計画
牽引の患者の看護計画は、主に次の5つを看護問題に上げて、看護計画を立てましょう。
・腓骨神経麻痺を起こすリスクがある
・褥瘡発生のリスクがある ・セルフケア不足になる ・疼痛がある ・便秘のリスクがある |
■腓骨神経麻痺のリスクがある
腓骨神経麻痺が起こると、下腿の外側から足背、第1~4趾の背側にかけての感覚が障害されます。また、足関節と足趾の背屈ができませんので、歩行が困難になります。治療には手術が必要になることもありますので、牽引中は腓骨頭を圧迫しないように注意しなければいけません。
出典:下肢の痛みでわかってきたこと(赤坂整形外科|2008年)
看護目標 | 腓骨神経麻痺を起こさない |
観察項目(OP) | ・牽引中の脚の向き
・患側の足趾のしびれや灼熱感、知覚鈍麻等の有無 ・足関節の背屈ができるかの確認 |
ケア項目(TP) | ・腓骨頭を圧迫しないように脚の向きを調整する
・クッション等で足の向きを調整する時は、柔らかいものを使用する ・介達牽引の時は包帯等で圧迫していないかを確認する ・2時間ごとに体位交換をする |
教育項目(EP) | ・足の指の感覚に違和感があれば、すぐに報告してもらうように伝える |
■褥瘡発生のリスクがある
牽引中は体動が制限されますので、褥瘡が発生するリスクがあります。
看護目標 | 褥瘡が発生しない |
観察項目(OP) | ・皮膚の状態
・血液検査データ ・栄養状態 ・食事摂取量 |
ケア項目(TP) | ・エアマットを用いる
・2時間ごとの体位交換を行う ・骨突出部、褥瘡好発部位は除圧する ・食事しやすいように食形態を工夫する ・必要時は食事介助をする ・毎日清拭をして、皮膚の清潔を保つ |
教育項目(EP) | ・局所的な痛みを感じたら、すぐに伝えてもらう ・健側は自分で動かすなどの工夫をしてもらう |
■セルフケア不足になる
牽引中は床上安静を強いられ、ギャッジアップも制限されますので、セルフケア不足になります。患者によっては、精神的なストレスを感じることがありますので、看護介入が必要になります。
看護目標 | セルフケア不足による苦痛を軽減できる |
観察項目(OP) | ・安静度
・言動や表情 ・ADL ・疼痛の程度 |
ケア項目(TP) | ・ADLに応じた援助をする
・床上安静でも気分転換を図れるように工夫する ・排泄ケアなどはできるだけ羞恥心に配慮して手早く行う ・おにぎり食や「ごろ寝メガネ」など床上安静でもADLが拡大できるような工夫をする |
教育項目(EP) | ・できることは自分でやってもらう |
■疼痛がある
牽引をしていると、骨折自体の疼痛に加えて、ピン刺入部や過牽引等による疼痛が発生します。
看護目標 | 疼痛が緩和されて、苦痛が軽減する |
観察項目(OP) | ・疼痛の部位や程度
・牽引の重さ ・正しく牽引されているか ・食事摂取量 ・言動や表情 ・睡眠状況 ・ピン刺入部の感染兆候の有無 |
ケア項目(TP) | ・医師の指示の薬剤を確実に投与する
・良肢位を保つ ・クーリングを行う |
教育項目(EP) | ・疼痛増強時は我慢せずに報告してもらう
・レスキュー薬が使えることを伝えておく |
■便秘のリスクがある
牽引中は床上安静のため、ベッド上で排便しなければいけません。また、運動量が少なくなるため、便秘になるリスクが非常に高くなります。
看護目標 | 2~3日に1度は排便がある |
観察項目(OP) | ・腹部膨満の有無
・腸蠕動音 ・食事摂取量 ・In/Outバランス ・入院前の排便状況 ・排便に関する本人の言動 |
ケア項目(TP) | ・排便する時のプライバシーを守れるように配慮する
・医師の指示の緩下剤を投与する ・水分摂取を促す ・温罨法をする ・腹部のマッサージをする ・食形態を工夫する |
教育項目(EP) | ・便意は我慢しないように伝える |
まとめ
牽引の基礎知識や目的・適応、種類・方法(介達牽引と直達牽引の違い)、看護師の観察ポイントと看護計画をまとめました。
牽引中の患者さんは治療のために床上安静を強いられます。骨折と牽引による問題に加えて、症状安静による問題も生じますので、看護師はきちんとアセスメントをして、適切な看護をするようにしましょう。
参考文献
四肢骨折のプライマリケア ー専門医受診までにすべき事ー(福島医大医療人育成・支援センター|大谷晃司|2010年9月7日)
骨折と脱臼の基礎知識(松山赤十字病院|土川雄司|2014年12月12日)