医療現場では様々な検査が行われています。患者さんへの侵襲や病歴、病状、疾患からそれぞれに適した検査を行うことで適切な治療へと繋がっていきます。CTやMRIなど画像診断一つをとっても色々な方法があります。ここではMRCP検査についてご紹介します。
1、MRCPとは
MRCPとは、Magnetic resonance cholangiopancreatographyの略でMR胆管膵管撮影のことを言います。これは、MRI装置を用いて胆嚢・胆管・膵管を同時に撮影する検査で、胆石や胆管結石、膵臓の嚢胞性病の診断に優れています。この検査の特徴は、非侵襲的(苦痛が少ない、合併症がない)に副作用の少ない経口造影剤を使用して撮影できることです。以下にMRCPのメリット、デメリットをあげます。
メリット
・通常の造影検査で使用する静注用造影剤を使用せずできる
・炎症の急性期や手術後などでも撮影できる
・閉塞性病変でも診断可能
・様々な方向、厚さの画像が撮れる
デメリット
・腹水合併症などがあるときれいに撮影できない
・磁性体への影響などMRIにおける制限がある
・空間・時間分析能に限界がある
引用元:Delta Radiology Medical Group
2、MRI用経口消化管造影剤について
MRCP検査では、フェリセルツやボースデルといった消化管用造影剤を経口摂取します。これらは水に近いもので、一般的に使用される血管内に投与するものや消化管造影で使用するバリウムとは違います。先にあげた造影剤を摂取することで胆道や膵管の描出能力を向上させ、病変や関連部位の診断を行うのに役立ちます。
2−1、フェリセルツとボースデルの違い
①フェリセルツ(クエン酸鉄アンモニウム製剤) | ・MRCP検査以外にも胃造影、消化管造影、空腸造影、十二指腸造影に用いられる
・副作用:下痢、発疹、アレルギー反応、血清鉄低下など ・高齢者や妊婦・産婦、小児への投与に注意する ・溶解して摂取 |
②ボースデル(塩化マンガン四水和物製剤) | ・フェリセルツの後発で、陰性経口消化管造影剤として発売
・副作用:下痢、腹痛、軟便、血清鉄低下、血清フェリチン減少など ・消化管穿孔やその疑いのある患者やボースデルの成分に対して過敏症の既往のある患者には禁忌 ・高齢者、妊婦・産婦、小児への投与に注意する ・溶解の必要がなくそのまま摂取できる |
3、MRCP検査のおける前処置
検査についての説明を事前に行いますが、各医療機関には検査についての説明書が置いてあると思いますので、それらを使用して、患者さんにどのような検査を何の目的で行うのかをきちんと理解してもらえるよう話を進めていきます。
MRCP検査を行うにあたって医療者は以下の確認をしておく必要があります。これは、MRCPが MRI装置を用いて行うため、磁力の影響を受ける可能性があるものは適応から外れる場合があるためです。
・体内の人工関節や金属類について(頭動脈クリッピング・血管ステント術などの手術歴についても確認しておく)
・ペースメーカーの有無
・妊娠の可能性と有無
・アレルギーの有無
・人工内耳、義眼の有無
・閉所恐怖症
・刺青やアートメイクの有無
3−1、検査説明と確認事項
安全に検査が行えるよう説明をしっかり行い、当日は前処置が正しくできているか確認します。
■検査内容の説明
何故MRCP検査が必要であるかを患者さんが理解しやすいよう説明することが大切です。どのような方法で、どの位の時間がかかるのか等詳しく説明し、検査に対する不安を軽減できるようコミュニケーションを取っていきましょう。
■食事制限についての説明
①検査が午前中に行われる場合、前日の夜9時以降は絶食してもらう
②午後に検査が行われる場合には、検査前6時間から絶食してもらう ③当日は、検査の2〜3時間前から水分の摂取もやめてもらうよう説明 ④普段内服をしている患者さんに関しては、医師に確認を行い内服の可否を確認し患者さんに伝える ⑤アレルギーのある患者さんは事前に医師に確認、副作用などの説明をしっかり行う |
3−2、検査当日について
MRI検査室で行われるため、以下のものを身につけてこない、検査室に持ち込めないことを説明、理解を得ます。
1.ニトロダーム等の貼付薬
2.貴金属類 3.アクセサリー・ヘアピン 4.時計 5.携帯電話 6.補聴器 7.カツラ 8.メガネ・カラーコンタクトレンズ 9.ヘアピン 10.湿布類(エレキバンなど) 11.カイロ 12.磁気カード等 13.入れ歯 |
上記以外では、マスカラやアイシャドーなどもやけどの恐れがあるため検査時はつけてこないよう事前に説明をしておきましょう。
3−3、検査方法
検査中は、何か不安なことなどがある時はインターフォンを通して話ができることを伝えましょう。患者さんが安心して検査ができるよう声をかけながら検査を進めていきます。独歩での移動が困難な患者さんはMRI室対応のストレッチャーや車椅子にて検査室へ搬送します。
①検査時間や目的について再度説明し事前に排泄を済ませてもらう
②検査着に着替える(入院中の患者さんで点滴をしている場合は介助する) ③MRI用経口消化造影剤を飲む(検査中に飲むこともある) ④検査台に仰向けに寝てもらい体をベルトで固定する(ドレーンやルートがある場合は移動時の誤抜去に注意する) ⑤耳栓やヘッドホンを装着する(大きな音が出るため) ⑥撮影開始 ⑦検査中に何度か息を止めてもらいながら撮影を進める ⑧撮影終了 |
4、検査中について
①検査中に気分が悪くなったり、動悸やかゆみなどの症状が出た場合にはすぐに知らせてもらう
②撮影中はきれいな画像を撮るために体が動かせないことを説明する
③検査中に何度か息を止める必要があるため、患者さんに協力をしてもらえるよう検査が始まる前に説明しておく
④体の各所に痛み等がある場合はクッションや枕を使用し安楽に検査が行えるよう配慮する
5、検査後の看護
目標:検査後の副作用がない
OP
1バイタルサイン
2気分不快の有無
3副作用の有無
4めまい・ふらつき
5腹痛の有無、程度
6便の回数・性状
TP
1検査後急に立ち上がるとめまいや起立性低血圧を起こす可能性があるため注意する
2気分不快や副作用が見られる場合は医師に報告、指示を仰ぐ
EP
1副作用が認められない場合は通常の生活に戻って良いことを説明する
2造影剤は腎排泄であるため、水分摂取を積極的にしてもらうよう説明する
3経口造影剤は後から副作用が出現することもあるため、何か異常があれば連絡してもらうよう説明する
まとめ
MRCP検査は人間ドックでも行われる検査の一つです。超音波検査と合わせて受けることでより詳細な情報を得ることができる検査であり、患者さんへの侵襲も少ないことから気軽にできる検査でもあります。磁気を使って行う検査であることから、医療者のみならず患者さんにも注意事項を正しく理解してもらうよう説明することが必要です。MRCPの適応やメリット・デメリットを理解し、安全に検査が行えるよう援助していくことが大切です。
参考文献
MRCPに よる膵 ・胆道疾患の診断(日本消化器病学会雑誌第96巻 第3号 259-265|崔 仁 換 有 山 嚢|1999年)
MRCP(慶應義塾大学病院 KOMPAS|慶応義塾大学病院放射線診断科|2011年)
MRCP – Magnetic Resonance Cholangiopancreatography(RadiologyInfo.org|2017年)