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ARDSの看護計画|急性呼吸窮迫症候群の定義と原因・診断基準・症状

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ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは様々な原因によって肺水腫を起こして、重症の呼吸不全に陥る疾患ですが、根本的な治療方法がなく、死亡率が高い疾患です。

ARDSの基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。ARDSの患者の看護をする時の参考にしてください。

1、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは?定義と診断基準

ARDS(Acute Respira-tory Distress Syndrome=急性呼吸窮迫症候群)とは、様々な原因によって肺損傷が進行し、重症の呼吸不全になる病気です。

ARDSはいろいろな原因によって肺の血管透過性が進行することで、肺胞腔内に血液中の水分が移動し、肺水腫を起こして呼吸不全になるのです。肺が水浸しになる、肺胞がむくんだ状態になると考えるとイメージしやすいかもしれません。

 

出典:急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

 

ARDSの定義は2011年にドイツのベルリンで開催されたヨーロッパ集中治療医学会で発表され、2012年にJAMA誌に最終版が掲載された「ベルリン定義」と呼ばれるものが採用されています。

 

■ARDSの定義

 

①1週間以内の急性発症

②明らかな低酸素血症がある

③胸部X線やCTで両肺に異常な影がある

④心不全が原因ではない

 

この4項目がARDSの定義になります。「明らかな低酸素血症」は、P/F値で判定します。P/F値とはPaO2(動脈血酸素分圧)をFiO2(吸入酸素分圧)で割ったものになります。

ARDSのP/F値は、PEEP(CPAP)≧5cmで測定します。

 

・軽症:200<P/F≦300

・中等症:100<P/F≦200

・重症:P/F≦100

 

また、胸部X線やCTで両肺に異常な影があるという項目については、胸水や無気肺、結節では説明できないものという注意書きが付いています。

ARDSでは肺水腫の状態になりますが、一般的に肺水腫と診断されるものは心不全が原因によるものです。肺水腫の状態になっているけれど、心不全以外の原因によるものがARDSと診断されるのです。ARDSは死亡率が高い病気で、医学が発達した現在でも死亡率は30~40%と考えられています。

2、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因は1つではありません。様々な基礎疾患が原因となり、ARDSを発症します。

ARDSの原因となる基礎疾患は、直接肺を障害するものとそうでないものの2つに大きく分けることができます。

 

■直接肺を障害するもの

・肺炎

・肺挫傷

・誤嚥

・溺水

 

■間接的に肺を障害するもの

・敗血症

・重症外傷

・重症膵炎

・大量輸血

 

このような基礎疾患によって、好中球が活性化することで、活性酸素やタンパク分解酵素が放出され、肺胞や毛細血管がダメージを受けます。その結果、血液中の水分やタンパクが染み出して、肺水腫が起こってしまうのです。

 

3、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の症状や合併症

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は原因となる基礎疾患の発症から数日以内、長くても1週間以内に発症しますが、初期段階では次のような症状が現れます。

 

・発熱

・咳

・痰

・頻呼吸

・呼吸困難感

 

このような症状が現れ、一気に呼吸状態が悪化していきます。ARDSが進行すると肺の線維化が進み、それに伴う肺高血圧症が合併することもあります。さらに、DIC(播種性血管内凝固症候群)や腎不全、肝不全、意識障害、消化管出血、凝固異常、心血管系機能不全(ショック)などの多臓器不全を合併することも珍しくありません。

ARDSの患者の中で、DICを合併するのは25~70%、腎不全は40~55%、肝不全は12~95%、意識障害が7~30%、消化管出血は7~30%、凝固異常は0~26%、心血管系機能不全は10~23%となっています。

 

4、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治療

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は、根本的な治療方法はありません。ARDSでは原因となっている基礎疾患の治療を進めつつ、呼吸管理と薬物療法を行っていきます。

 

■呼吸管理

ARDSでは基本的に人工呼吸器を使っての呼吸管理を行います。ARDSでは肺保護換気戦略のために、一回換気量とプラトー圧を制限する低容量換気が推奨されています。

低容量換気とは一回換気量を少なくすることで、肺の過伸展を予防するため呼吸管理方法になります。一回換気量が多すぎると、ARDSでは人工呼吸器関連肺損傷(VILI)が起こり、死亡率が高くなるとされています。

ARDSでは一回換気量は10ml/kg以下に、プラトー圧は30cmH2O以下になるように人工呼吸器を設定します。

また、人工呼吸器装着直後は、低酸素血症を予防するために、FiO2は1.0(酸素濃度100%)から開始しますが、高濃度の酸素を長時間投与していると、肺損傷が進むことがあります。そのため、PaO2>60mmHgを保っているのを確認しながら、0.4~0.6を目標に少しずつFiO2を下げていき、人工呼吸器の離脱を目指します。

 

■薬物療法

現時点では、ARDSに確実に効果があり、死亡率を改善できる薬物療法はありませんが、酸素化能の改善や人工呼吸器装着期間を短縮できる可能性がある薬剤を使用して治療を行っていきます。

 

■グルココルチコイド

グルココルチコイドは発症2週間以内に少量を一定期間使用して漸減する方法は、人工呼吸器装着期間を短縮させる有用性がある可能性があるとされています。

 

■好中球エラスターゼ阻害薬

好中球エラスターゼ阻害薬は所見が改善されたり、人工呼吸器装着期間やICU在室期間の短縮の有用性が証明されています。

 

■抗凝固療法

凝固異常はARDSの増悪に関係していると考えられていて、抗凝固療法をすることはARDSの治療に有効であるという可能性が示されています。

 

■抗菌療法

敗血症が原因のARDSでは抗菌薬を用いて治療を行います。また、ARDSでは人工呼吸器関連肺炎(VAP)が起こるリスクが高く、VAPが認められたら、抗菌療法を行っていきます。

 

5、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護計画

ARDSでは、主に肺水腫になることでのガス交換障害とARDSと人工呼吸器装着による非効果的気道浄化の2つが看護問題になります。

このほか、合併症の状態によって、循環障害や出血傾向などの看護問題も起こってきますが、ここでは合併症ではなくARDSそのものによっておこる看護問題のガス交換障害と非効果的気道浄化の2つを説明していきます。

 

■ガス交換障害

ARDSでは肺水腫が起こることで、ガス交換障害が起こり、低酸素血症になります。

 

看護目標 呼吸状態が安定する。PaO2>60以上を保つ
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・腹臥位の施行

・ギャッジアップ(頭高位)を保つ

・適宜痰の吸引を行う

 

ARDSでは腹臥位を取ると、酸素化が改善され、死亡率が低下するというデータがありますので、人工呼吸器を装着している患者も積極的に腹臥位を取らせるようにしましょう。

ただ、気管挿管をしている患者が腹臥位を取ると、挿管にテンションがかかり、事故抜去してしまうリスクがありますので、挿入物には注意して、腹臥位を取り入れるようにしてください。

 

■非効果的気道浄化

 

看護目標 VAPを起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・呼吸音

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・適宜痰の吸引を行う

・口腔ケア

・経管栄養投与時は、誤嚥を予防する

 

ARDSの患者はタッピングなどの用手的排痰ケアは、疼痛や重症不整脈などの合併症が起こるリスクが高く、用手的排痰ケアの有効性は不明であることから、推奨されていません。

 

まとめ

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。

ARDSはICUなどの集中治療部門では珍しい疾患ではありません。死亡率が高く、治療が難しい疾患ではありますが、積極的に腹臥位を取り入れるなど、看護の力で酸素化を改善させて、治療につなげていけるようにしましょう。

 

参考文献

ALI/ARDSの診断基準と治療方法|京都府立医科大学大学院医学研究科

ARDS診療ガイドライン2016|一般社団法人 日本呼吸器学会 一般社団法人 日本呼吸療法医学会 一般社団法人 日本集中治療医学会

急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) (きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん) 病名から探す | 社会福祉法人 恩賜財団 済生会

急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

田坂 定智「ベルリン定義からみた ARDS の病態と呼吸管理 機能的予後の改善を目指して」| 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第 1 号


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