直流除細動器(DC)は、医療機関内のみで使用される除細動器の一つです。除細動器にはDCの他に公共の施設などに設置されている自動体外式除細動器(AED)、救急車に搭載されている半自動除細動器があります。日本や海外の医療ドラマなどでもよく見られる除細動器について、種類や使い方、目的を知り、除細動の必要な患者さんに遭遇した時に適切に対応できる技術を身につけておきましょう。
1、直流除細動器とは
医療現場ではDCと呼ばれ、不整脈の治療に使われる医療機器です。心房細動・心室細動・心室頻拍などの致死的な不整脈に対して使用されます。DCは手動式で、心臓に直流電流刺激を与えて電気ショックによって心臓の異常興奮を抑制するためのものです。
2、DCの使用目的と適応
除細動は、心筋に高エネルギーの電流を瞬間的に流し、その作用によって心筋に通常の興奮を起こし正常調律に回復させることを目的とします。
除細動の適応となる不整脈には、心房粗動、心房細動、心室細動、心室頻拍、心室粗動があります。除細動はQRS波に同期するかしないかで、除細動(同期なし)とカルディオバージョン(同期あり)の二つに分けられます。また、心停止には4つの分類があり、除細動の適応の可否を判断します。
除細動器には単相性とニ相性あり、単相性は電極間を一方向に電流が流れますが、二相性は電極間双方から電流が流れます。このため、二相性の除細動器の方が単相性に比べて少ない電流で有効な除細動を行うことができます。
2−1、除細動の適応となるもの
心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(VT)
致死性不整脈に対して行います。心室の収縮に関係なく通電し、心臓全体が脱分極して不応期に入るためVF、VTは止まります。
2−2、カルディオバージョンの適応
頻拍性不整脈に対して行います。これらは心房が異常な興奮状態にあるもので、心室の収縮に合わせて通電することで心室以外が脱分極し発作の原因となっているリエントリー回路のみを不応化できます。QRS波がある心電図波形である疾患が適応となります。
①発作性上室性頻拍(PSVT)
出典:Micro EKG
②心房粗動(AFL)
③心房細動(AF)
出典:Atrial Dysrhythmias: Atrial Fibrillation
2-3、除細動の適応とならないものには以下の二つがあります。
①無脈静電気活動(PEA: Pulseless Electrical Activity)
出典:Pulseless Electrical Activity
②心静止(Asystole)
出典:Ventricular Rhythms: Asystole
3、DCの使用方法
実際の現場で除細動が必要となった際、どのような手順で除細動器を使用するのか、その使い方について見ていきます。
3−1、必要物品
①除細動器
②伝導用パッドまたは伝導用ゼリー
③皮膚保護用スプレー、クリーム
3-2、DCの使用方法
1.除細動器の電源を入れる(電源コードが入っていることも確認する)
2.通電量を設定し充電ボタンを押す
3.患者の前胸部に心臓を挟むように伝導用パッドを貼布する。(伝導用パッドがない時はパドルに火傷予防のため、ペーストを塗っておく)
4.除細動器のバドルを伝導用パッドの上に乗せる
5.酸素マスクをしている場合は発火防止のため外す
6.医師、看護師は患者に触れないよう離れる
7.充電ができたらパドルについているスイッチを押して放電する
8.モニター波形を確認する
9.必要に応じて胸骨圧迫を行う
10.不整脈の改善が認められない時は通電量をあげて再度放電する
11.除細動が終了したら、放電した皮膚に保護用クリームを塗布する
3−3、電極パドルを当てる位置
右電極パドル:第2あるいは第3肋間胸骨右縁
左電極パドル:第5肋間左腋窩線上、乳頭の外側
4、除細動実施時の注意点
除細動が必要な場合には、実施する前に以下のことを確認しておきましょう。
1、ペースメーカーが埋め込まれているかどうかの確認
2、メガネ、時計、義歯などの貴金属類を除去しておく
3、パドル装着部に薬剤パッチがないか確認し、あれば取り除いておく
4、胸毛の多い患者は除毛をする
5、体表面が濡れている時は拭き取る
※導電性のある貴金属類があると、適切な量の電気エネルギーが心臓に伝わらないため、アクセサリーや時計などが身についている場合には取り除きましょう。また、胸毛や汗などの水分も有効な除細動を妨げる原因となり、患者さんの体に対しても火傷などを起こすもとになるので注意が必要です。
ペースメーカーが埋め込まれている患者さんに除細動を行う場合、ゲルパットを貼る際は3cmほど離して貼ります。ゲルパッドをコードの上に貼ったり、皮膚との間に隙間ができないように注意しましょう。
5、通電量(ジュール)について
心電図波形を見て、電気ショックの必要性の有無、どのぐらいの強さのショックが必要かの判断を行います。一般的には初回の通電量は100—200J(ジュール)で行います。洞調律に回復しない場合2回目は300J、3回目は360Jと段階的にエネルギーを増加していきます。しかし、不整脈の種類によって初回の通電量が150Jであったり、50Jだったりすることもあるため、充電をする際には指示を出す医師にきちんと確認をすることが大切です。
6、除細動を行う際の看護
目標:安全かつ効果的な除細動を行い洞調律に戻る
OP
1、ペースメーカーの有無
2、義歯等の貴金属類の有無
3、発汗の有無
4、心電図波形
5、バイタルサイン
6、除細動後の心電図波形
7、皮膚の状態
TP
1、金属類がある場合は除去する
2、発汗等で体表面が濡れている時は拭き取る
3、ペースメーカーのある患者の場合はゲルパッドを貼る位置に注意する
4、伝導用パッドがない場合には伝導用ゼリーを塗る
5、通電を行う際は自分を含め周囲の看護師、医師が患者に触れていないこと、他の物品類が患者さんに触れていないことを確認する
6、除細動器の同期がOFFになっていることを確認する(同期する時はONになっていることを確認)
7、除細動が終了したら皮膚状態を確認しクリームを塗布する
8、除細動後は心電図波形の監視を行う
まとめ
近年、様々な場所に設置されるようになったAEDを含め、特に救急の医療現場では除細動を実施することが度々あります。致死性の不整脈に対する除細動の実施は、いかに有効かつ速やかに行えるかによって患者さんの予後にも影響します。現在医療者向けのACLSの講習では不整脈や心肺停止にある患者さんなど救急における除細動の使い方や救命処置について学ぶことができます。このような講習会に参加したり、自分の職場にある除細動器を確認し必要な時すぐに使えるよう知識や技術を身につけておくことが大切です。
参考文献
除細動器と心臓ペースメーカのきほん (九州大学附属図書館)