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脊髄損傷の看護|脊髄損傷のレベル、看護問題や計画・ケアなどの看護過程と看護研究過

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脊髄損傷は、損傷のレベルや位置によって生じる症状や障害が違い、その障害のレベルによって看護ケアも変わってきます。また障害を急に負うことでの精神的なサポートや、合併症の予防など看護ケアは多岐に渡ります。脊髄損傷について知り、看護に活かしていきましょう。

 

1、脊髄損傷とは

脊髄損傷は脱臼や骨折などによって脊柱に強い外的な力が加わることや、脊髄腫瘍やヘルニアによって脊柱管が狭くなることなどの内的因子によって脊椎を損壊し、脊髄に損傷を受けた病態です。頚椎後縦靭帯骨化症や頚椎症などで脊髄の圧迫がある場合は、転倒程度の衝撃によっても脊髄損傷が生じることがあります。脊髄を含む中枢神経系は末梢神経系とは異なり、現代では一度損傷すると修復や再生されることはないといわれており、回復させるための治療法はありません。

脊髄損傷の原因は、交通事故での受傷が最も多く、高所からの落下や、転倒、打撲、下敷き、スポーツによる受傷もあります。

 

2、脊髄損傷のレベル

脊髄損傷は、神経学検査、画像検査、筋電図、徒手筋力テスト、皮膚知覚テストなどの検査が行われ、損傷と障害の程度を調べます。その損傷の程度によってレベル分けされており、そのレベルによって障害の程度も異なります。

 

2−1、完全型損傷について

完全型は、脊髄が横断的に離断することによって神経伝達機能が完全に断たれた状態のことをいいます。損傷部位以下には上位中枢神経からの伝達が失われ、脳からの運動命令が届かないために損傷部位以下の運動機能は失われます。また、損傷部位以下の感覚情報を上位中枢へ伝達することもできないため、損傷部位以下の感覚知覚機能も失われます。感覚知覚機能は完全に失われることもありますが、一部は残り、足が伸びているのに曲がっているような違和感や、しびれなどの異常知覚、幻肢痛を感じることもあります。

慢性期になると、意思とは関係なく感覚が失われた箇所の筋肉が強張り、痙攣する痙性や痙縮が起こることもあります。

自律神経系の機能も失うために、麻痺の代謝は鈍麻になり、外傷は治りにくく、褥瘡の出現と治療、管理が問題となります。また、自律神経系の調節機能も損なわれるので、排尿、排便、呼吸、血圧調節、発汗、体温調節などが難しくなります。

 

2−2、不完全型損傷について

不完全型は、脊髄の一部が圧迫などによって損傷し、一部の機能が残存した状態のことをいいます。完全型のように、運動、感覚、自律神経系の機能は損なわれますが、完全に失われるということではなく、やや筋力が弱くなるというように損傷部位以下の機能は弱いながらも残している状態となります。その障害の程度は部位の損傷の度合いによって異なります。

 

2−3、障害の重症度

脊髄はその高位によって、頭側から頚髄(C1からC8)、胸髄(T1からT12)、腰髄(L1からL5)、仙髄(S1からS5)に分けられ、損傷部位が上位であればあるほど、損傷部位以下の部分が多くなり障害は重度になります。

 

■脊髄の分布

出典:交通事故サポートセンター

 

この障害の程度によって、損傷部位が上位であると呼吸器が必要な場合もあり、下位ならある程度自立しているが介助が必要であるというように生活の自立度が異なります。

 

■脊髄損傷レベルと達成可能なADL

 

損傷レベル 主な機能残存筋 運動機能 移動・移動方法 ADL
C3以上 胸鎖乳突筋

僧帽筋

首の可動可

呼吸障害

電動車椅子 全介助

人工呼吸器

C4 横隔膜 四肢麻痺

自発呼吸可

肩甲骨挙上可

電動車椅子 全介助

 

C5 三角筋

上腕二頭筋

四肢麻痺、または肩、肘、前腕の一部が可動可 平地でのハンドリウムに工夫した車椅子の可動可 重度介助

自助具による食事、整容可

C6 橈側手根伸筋 肩関節内転

手関節背屈

車椅子駆動可

一部では改造自動車運転可

中等度介助

自助具を用いて書字、食事可、更衣の一部自立

C7 上腕三頭筋

指伸筋

上肢が全て使える 車椅子可動可

移乗動作可、自動車運転可

車椅子にての日常生活、ほとんど自立
C8〜T1 指屈筋

手内筋

手内筋、指の屈曲 手の巧緻運動、車椅子駆動可 車椅子でのADL自立
T2〜T6 上部肋間、筋上部背筋 体幹のバランス安定 骨盤帯付長下肢装具・松葉杖にて歩行可

実用は車椅子

ADLは自立
T12 腹筋群 骨盤帯の挙上 長下肢装具・松葉杖にて歩行可

実用は車椅子

ADLは自立
L3 大腿四頭筋 下肢が一部動く 短下肢装具・1本杖で歩行可能 ADLは自立

 

3、脊髄損傷の看護過程

脊髄損傷に対する看護過程を展開していきます。急性期には合併症の出現が最も注意するべきことであり、脊髄損傷は突然の受傷によっての障害になりために精神的なサポートも必要になります。

回復期・慢性期は、患者が障害を持ちながらの日常生活の自立を目指す時期であり、障害を受容し、無事に社会復帰できるまで医療チームが援助することも必要です。

 

3−1、看護問題

脊髄損傷の看護問題は次のようになります。

 

①身体可動性障害

②皮膚統合性障害リスク状態

③不安・混乱状態

 

3−2、看護計画・ケア

①身体可動性障害

■看護目標:障害の程度に応じて自力動作ができる

 

■観察項目(OP)

①身体運動機能(徒手筋力テスト、握力、関節可動域、ADLレベル)

②運動・知覚麻痺レベル

③疼痛の有無、程度

④安静度

⑤身体症状の有無

⑥リハビリテーションに関する知識、意欲

⑦家族・社会的背景

 

■ケア項目(CP)

①可能な範囲で自力動作運動、介助運動を行う。

②麻痺領域のマッサージ、他動運動

③温熱療法

④足関節を足底板やスプリントで固定する

⑤車椅子を使用するときは、ベッドと車椅子の配置を工夫する

⑥家族の協力を得る

 

■教育項目(EP)

①運動やリハビリテーションの必要性を説明する

②寝たきりにならないように、ADLを積極的に行うことを説明する

③車椅子の使用方法を説明する

 

②皮膚統合性障害リスク状態

■看護目標:褥瘡が発生しない

 

■観察項目(OP)

①皮膚の状態(皮膚色、乾燥・湿潤の有無)

②圧迫・疼痛の有無

③ベッド上での動作の状態

④栄養状態(Hb、Albなど)・食事摂取量

⑤皮膚の清潔度

⑥ADLレベル

 

■ケア項目(CP)

①体圧分散寝具を使用する

②定期的に体位変換を行う

③車椅子使用時は定期的にプッシュアップを行う

④保清を介助する

 

■教育項目(EP)

①褥瘡を予防することの必要性について説明する

②褥瘡になりやすい原因や要因について説明する

 

③不安・混乱状態

■看護目標:障害を受容し、できる範囲でADLを行うことができる

 

■観察項目(OP)

①受傷した原因や障害への思い

②ADLや社会復帰への意欲の有無・程度

③表情・言動

④家族背景・サポート

⑤疼痛の有無

⑥ADL状況

 

■ケア項目(CP)

①寄り添って思いを傾聴する

②落ち込んでいるときに無理にADLを強要しない

③思いを表出しやすいような環境を作る

④話を聞くときは、プライバシーを考慮する

⑤同じ障害を持つ患者の集まりを紹介する

⑥情報提供

 

■教育項目(EP)

①遠慮なく思いを表出するように説明する

②障害を持ってもできることを説明する

③不安や落ち込みがあることは問題ないことであると説明する

 

4、脊髄損傷の看護研究について

脊髄損傷の看護研究には、患者の精神的なサポートに関するものや、リバビリテーションに過程に関するもの、褥瘡に関するものなど様々です。看護研究の一部をご紹介します。

 

脊髄損傷者の受傷による苦悩から立ち直りに向け意識が変化する要因

(坂本雅代、前田智子著|看護研究2002 35号 巻5号)

 

成人期にある脊髄損傷者の自己に対する意味づけ

(堀田涼子|茨城県立医療大学大学院博士後期課程保健医療科学研究科|2016)

 

脊髄に障がいのある女性の適応プロセスに関する質的研究

(利木 佐起子、辻本 裕子、斉藤 早苗|佛教大学保健医療技術学部論集 第 9 号 2015年3月)

 

脊髄損傷者の褥瘡発症と対処の特徴 ―病院初発者と自宅初発者・健康段階別の比較を中心として―

(瀧本美佐子、神戸美輪子、坂本雅代|人と環境 Vol. 1 2008

 

まとめ

脊髄損傷は突然の受傷による精神的なショックやボディイメージの変化があり、重大な合併症が発生する可能性もあります。精神的なサポートや合併症の発生を予防することは、脊髄損傷の看護としての大切なポイントになります。このようなポイントを理解して、看護ケアを行なっていきましょう。

 

参考文献

脊髄損傷、理学療法診療ガイドライン第1版(2011)(日本理学療法士学会|2011/10)


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