厚生労働省が定める特定難治性疾患のうちの一つであり、最も多く発症すると言われている潰瘍性大腸炎。先進国に多くみられ、日本でも急増している病気です。根本的な治療法はありませんが、患者さんに正しい知識を持ってもらうことで、一般的な日常生活を送ることが可能な病気でもあります。
引用元: 潰瘍性大腸炎ってなんだろう
1、潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は原因不明の大腸のびまん性炎症性疾患です。粘膜から粘膜下層までの大腸の表層を主とした炎症で、肛門部に近い直腸から上行性に広がる性質があり、結腸に向かって広がるのが特徴です。難治性のため寛解と再燃を繰り返すことが多く、長期にわたりこの病気と生活を共にしていく必要があります。
発症のピークは20代ですが、若年者から高齢者まで、男女ともに発症します。近年、食生活の欧米化に伴い増加している病気です。
2、潰瘍性大腸炎の原因
原因不明の炎症性疾患と言われる潰瘍性大腸炎ですが、自己免疫説・精神身体説・感染説・アレルギー説・自律神経障害説などの原因説があります。自己のリンパ球が大腸粘膜に対して障害を加えると考えられていますが、詳しい機序は不明です。
3、潰瘍性大腸炎の症状
慢性の血便・粘液便・下痢を主訴とし、病変の広がりによって直腸炎型・左側大腸炎型・全大腸炎型の3つに分類されます。さらには臨床経過から再燃寛解型・慢性持続型・急性劇症型・初回発作型に分類されます。全身症状を欠くものを軽症、激しい下痢、発熱、頻脈などの全身症状があって、白血球増加、血沈値の亢進のあるものを重症、その中間を中等症と言います。発熱や栄養障害・貧血・腹痛を伴い、劇症の場合は大量出血、穿孔、中毒症状、中毒性巨大結腸症などの重篤な合併症をまねきます。腸管外症状として関節炎、虹彩炎、皮膚病編(壊疽性膿皮症、結節性紅斑等)膵炎などを合併することもあります。
引用元:登美ヶ丘治療院
4、診断
便培養や血液検査、組織検査等でサルモネラ腸炎、大腸結核、クローン病、細菌性赤痢、薬剤性大腸炎、虚血性大腸炎などを否定して初めて診断がつきます。内視鏡やバリウム検査で炎症や潰瘍の広がり具合を確認します。特に重篤で進行の早い病型の場合は注腸X線検査・大腸鏡検査には注意が必要で、まず直腸鏡やX線腹部単純写真などで病状を判定することが大切です。X線所見では、注腸撮影により特徴的な鉛管状腸管を呈します。炎症性ポリープ・鋸歯状変化などを認めることもあります。内視鏡的には粘膜の顆粒状変化・接触出血があり、病変が進むと膿性分泌物・潰瘍形成などが見られます。先にあげた炎症性疾患の中で最も鑑別診断上重要なのはクローン病です。
潰瘍性大腸炎とクローン病の違いを大まかに知っておきましょう。
①クローン病
・好発年齢:20〜30歳代
・病変部位:口から肛門まで消化管のあらゆる部位に広がることがある(特に回腸に発症しやすい)
消化管以外にも病変部がある(皮膚、関節炎、虹彩炎、貧血)
・病変:スキップ病変(病変と病変の間に正常な部位がある)
・重症化した場合:瘻孔や狭窄を生じる
➁潰瘍性大腸炎
・好発年齢:20〜40歳代
・病変部位 大腸(特に直腸)
粘膜や粘膜下層に限局
クローン病に比べて消化管以外の症状は少ない(貧血、発熱等がみられることもある)
・病変:びまん性(病変は連続的に広がり性状な部位はない)
・重症化した場合:瘻孔や狭窄は生じない
この他、各疾患の症状や治療法も異なってくるので知識として身につけておくと良いでしょう。
5、潰瘍性大腸炎の治療
腸の炎症を抑えることと食事療法により長期に寛解維持できるよう治療を進めていきます。寛解を維持するためには、定期的な内服と食事療法が大変重要です。患者さんにとっては長く、時には辛い道のりとなります。治療を続けながら日常生活を少しでも快適に送れるよう援助していかなくてはなりません。
5−1、食事療法
食事は寛解期と再燃期で異なりますが、残渣の少ない栄養豊富な食事を摂取することが大切です。また、重症なものや活動期は絶食とし、中心静脈栄養法で高エネルギー輸液を行い腸管の安静をはかります。
寛解期 | 脂肪分の多いものや、刺激の強い食べ物、熱いものなどは控えるようにします。高タンパク質・高エネルギー食が基本となります。
また、腸内環境を整えるために乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌叢に良い変化を与えるものを積極的に摂取してもらうよう指導していく必要があります。 |
再燃期 | 寛解期の食事に加え低脂肪の食事を摂ってもらうよう説明します。
腸の炎症が強いため、必要な水分や栄養素が十分に吸収できないほか、下痢や粘血便としてカリウムや塩分が体外へ排出されてしまうからです。 水分は少量ずつ摂取するとともに塩分やカリウムを含む食べ物も摂取してもらうようにしましょう。 |
5−2、薬物療法
薬物療法には一般的に5−アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が使用されます。軽症から中等症に基本的に使用される薬剤で、「活動期の炎症を抑える」・「寛解期の維持」に使われます。経口薬と座薬があり、炎症の範囲に応じて使用していきます。炎症が強い場合にはステロイドも使用します。長期に渡り大量に内服すると副作用の出現が危惧されるため、決められた期間に必要量を使用していきます。その他には、免疫抑制剤、抗体製剤を用いる場合もあります。ステロイドによる治療効果が見られない場合や、ステロイドを減量・中止することで再燃してしまう場合には免疫抑制剤を使用します。これらの薬物療法でも症状が改善しない時は抗体製剤を使用します。
5−3、手術
劇症化による穿孔や大量出血、中毒性巨大結腸症、大腸ガンの合併時は緊急手術の適応となります。また、再燃後6ヶ月以上活動期が続き普通の生活を送ることが困難な時や、頻回に再燃を繰り返す、大腸以外に重症な合併症を発症したような場合なども手術の適応となります。
術式は大腸全摘と回腸人工肛門造設術、自然肛門温存術があります。
5−4、血球成分除去療法
白血球を取り出し炎症に関与するリンパ球、顆粒球を取り除いて体内に戻す方法です。
6、潰瘍性大腸炎の看護問題と看護計画
症状の有無や程度により全身への影響は個々で異なるため、全身状態に関する情報を捉えて日常生活やセルフケアの向上に関する計画の立案が必要です。
6-1、看護問題
①腸壁における吸収障害と腸管の炎症による栄養状態の低下・身体的苦痛
②下痢による肛門部の潰瘍・びらんの可能性
③社会生活を送っていく中で食生活が乱れてしまう可能性
6-2、看護計画
①目標:栄養状態の改善と身体的苦痛の軽減が図れる
■OP
1、バイタルサイン
2、便の性状・量・状態
3、排便回数
4、血便の有無と程度
5、腹痛・グル音の有無
6、悪心・嘔吐・口渇の有無
7、食事の摂取状況と食欲の有無
8、検査データ
9、全身倦怠感、活動性
10、体重の増減
11、肛門周囲の潰瘍・びらん
12、口内炎の有無
13、IN-OUTバランス
14、皮膚の状態
■TP
1、状態に応じて輸液の管理、経管栄養を行う
2、安静が保持できるよう援助する
3、内服が確実に行えるよう援助・確認を行う
4、栄養士の指導のもと食事療法を行う
5、食事内容の工夫
6、腹部の保温
7、不安や苦痛への傾聴
■EP
1、安静の必要性を説明する
2、気分不快や痛みがある時はすぐにコールしてもらうよう説明する
3、食事指導
4、薬物療法の必要性と重要性を説明し服薬指導をする
➁目標:肛門部の潰瘍・びらんの防止と異常の早期発見ができる
■OP
1、排便状況:下痢の回数、便の性状、下血の程度
2、肛門周囲の粘膜の状態
3、栄養状態のチェック
■TP
1、肛門周囲の清潔を保てるよう援助する
2、肛門部に外力がかからないよう工夫する
3、食欲不振等による栄養状態の低下を認める時は食事の工夫や輸液の検討をする
■EP
1、清潔保持についての説明と指導
③目標:食事療法を守った社会生活が送れる
■OP
1、生活リズム
2、睡眠状況
3、食事の内容・摂取量
4、食事療法に関する理解度
5、食事療法が守れているか
6、家族や友人の協力の有無
■TP・EP
1、食事療法についての不明点や理解度の低い部分については再度説明・指導を行う
2、可能であれば家族にも協力をしてもらい、食事療法が続けられるような環境を作る援助をする
3、食事内容の工夫や栄養価の高く消化の良い食べ物の選択について説明する
4、現在の栄養状態について説明する
5、治療における質問や心配な事はいつでも相談に乗れることを説明し、不安やストレスを表出できるよう援助する
まとめ
潰瘍性大腸炎は長期間にわたる治療が必要となるため、患者さんは多くのストレスや不安を抱えて社会生活を送っています。私たち医療者は、長期にわたる治療がきちんと継続していけるよう入院中から退院後まで援助していく必要があります。入院中と違い社会生活を送る患者さんの生活全てを把握する事は困難です。患者さんや家族としっかりコミュニケーションをとりながらそれぞれが必要としている援助をしていけると良いですね。
参考文献
潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 (厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班)平成27年度改訂版|平成28年3月31日)
潰瘍性大腸炎の 最適な内科治療を考える(日本消化器病学会総会ランチョンセミナー|鈴木康夫・中村志郎・国崎玲子|平成27年4月23日)