スワンガンツカテーテルとは、心内圧や心拍出量、酸素飽和度測定して、心機能を評価するためのカテーテルです。
スワンガンツカテーテルを挿入する患者さんは重篤なことが多く、看護師は異常の早期発見に努める必要がありますので、スワンガンツカテーテルについて正しく理解しておかなければいけません。以下、スワンガンツカテーテルの基礎知識や挿入方法、波形と圧、合併症看護のポイントをまとめました。
1、スワンガンツカテーテルとは
出典:エドワーズライフサイエンス | スワンガンツ・サーモダイリューション・カテーテル
スワンガンツカテーテルとは、患者の心機能を正確に把握するためのカテーテルです。心不全やショックなどで、心機能が低下している患者に使用して、心内圧や心拍出量、酸素飽和度を計測します。
「スワンガンツカテーテル」という名称は、エドワーズライフサイエンス社の商品名で、肺動脈カテーテルや右心カテーテルと呼ばれることもあります。スワンガンツカテーテルは検査のために一時的に挿入し、心内圧等を計測したら、すぐに抜去することもありますが、心筋梗塞からの蘇生後などの重症患者の場合はカテーテルを一定期間挿入したままにして、持続的に心機能を計測するケースもあります。
2、スワンガンツカテーテルの挿入方法
スワンガンツカテーテルは、通常はX線透視下ではなく、ベッドサイドで行います。挿入部位は内頸静脈、鎖骨下静脈、上腕静脈、大腿静脈からアプローチするのが一般的です。
■必要物品
・スワンガンツカテーテル
・ガイドワイヤー ・穿刺針 ・イントロデューサー ・三方活栓 ・加圧バック、ヘパリンを注入した生理食塩水500ml ・滅菌ガウン、滅菌手袋 ・滅菌ドレープ、穴あきドレープ ・1%キシロカイン ・各シリンジと針 ・圧ラインセット ・イソジン、綿球 ・縫合セット ・救急カート ・圧トランスデューサー ・スワンガンツ用モニター |
■挿入手順
1.患者にスワンガンツカテーテルを挿入することを伝え、同意を得る
2.患者に仰臥位になってもらい、挿入部位を露出させる 3.処置台に滅菌ドレープをかけて必要物品を準備する 4.カテーテル用のルーメンと圧モニタリング用のルーメンを、輸液システムと圧トランスデューサーに接続し、ラインに気泡がないことを確認する 5.モニターにカテーテルを接続し、断線がないことを確認する 6.局所麻酔を行った後、スワンガンツカテーテルを挿入していく 7.カテーテルが胸部に入ると、呼吸に合わせて圧波形が変動するので、炭酸ガスまたは空気で先端のバルーンを膨らませる 8.バルーンを膨らませると、血流に乗って、右心房から右心室、肺動脈へとカテーテルが進む 9.通常、カテーテルが止まったところが肺動脈の入り口部分になる。圧波形を確認し、肺動脈楔入圧を測定できたら、バルーン膨張用のバルブからシリンジを外して、自然にバルーンを萎ませる。 10.右心房や右心室でカテーテルにたるみが出ないように、2~3センチ引き戻す 11.留置する場合は、X線で先端部位を確認し、固定する |
3、スワンガンツカテーテルの波形と測定する圧
スワンガンツカテーテルでは、心内圧と心拍出量(CO)、酸素飽和度の3つを測定することができますが、心内圧には次の4つあります。
・肺動脈楔入圧(PCWP)
・肺動脈圧(PAP) ・右心圧(RVP) ・右房圧(RAP) |
これらの圧は、それぞれ波形が違いますし、基準値も異なります。それぞれの波形を覚えておくことで、挿入中にはカテーテルの先端がどこにあるかがわかりますし、正しく計測できているかを確認することができるのです。
出典:スワンガンツ 大垣徳洲会病院 臨床工学科(平成27年11月号)
出典:スワンガンツ・サーモダイリューション・カテーテル(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
■肺動脈楔入圧(PCWP):基準値=6~12mmHg
肺動脈圧楔入圧とは肺動脈でバルーンを膨らませて肺動脈を塞いだ時に、カテ―テルの先端にかかる圧のことです。
肺動脈楔入圧は左心房の圧を反映していますので、左心系の心機能の評価ができます。
■肺動脈圧(PAP):基準値=15~25mmHg/8~15mmHg
肺動脈圧は肺動脈の入り口部分で測定する圧のことで、肺血管抵抗や右室の後負荷の指標になります。
■右心圧(RVP):基準値=15~25mmHg/0~8mmHg
右心圧は右心室の圧のことです。収縮期の圧が高くなると、肺高血圧症の疑いがあります。
■右房圧(RAP):基準値=0~7mmHg
右房圧は右心房で計測する圧のことで、中心静脈圧(CVP)と同じです。右室の前負荷、つまり循環血液量の指標になります。
右房圧が上昇すると右心不全や心タンポナーデの疑いがあり、平均圧が低下すると循環血液量の減少や脱水が疑われます。
3-1、フォレスター分類の指標
スワンガンツカテーテルで測定できる4つの心内圧の中でも、最も重要なのが肺動脈楔入圧です。肺動脈楔入圧は、心不全の程度を把握するフォレスター分類の指標になっています。
出典:急性心不全 総論(信州メディビトネット)
フォレスター分類とは肺動脈楔入圧と心計数(CI)を指標にして、心不全の程度を把握するためのものです。心係数とは心拍出量(CO)を体表面積で割ったものです。CI=2.2l/分/㎡、PCWP=18mmHgが目安の数値になります。
Ⅰ型を目標に治療を行っていきます。肺動脈楔入圧と心係数が高いⅡ型は、前負荷がかかっているため、利尿薬や血管拡張薬を用います。
Ⅲ型は前負荷を増やさなくてはいけませんので、輸液や強心剤を用います。Ⅳ型は前負荷を下げつつ、心拍出量を上げなくてはいけませんので、強心剤や血管拡張薬を用いたり、場合によってはIABP(大動脈バルーンパンピング)や PCPS(経皮的心肺補助装置)で治療をすることがあります。
4、スワンガンツカテーテルの合併症
スワンガンツカテーテルは、心機能を評価できるというメリットはあるものの、心臓にカテーテルを挿入し、場合によっては留置しますので、合併症が起こるリスクがあります。
■肺動脈の破裂
スワンガンツカテーテルは肺動脈にまでカテーテルを進めますので、肺動脈を傷つけ、破裂させるリスクがあります。特に、肺高血圧症や高齢、低体温法や抗凝固剤を用いた心臓手術、カテーテルの遠位移動などは、肺動脈破裂のリスクを高めます。
■心穿孔
カテーテル挿入時の操作不備によって、心房穿孔や心室穿孔を起こし、それによって心タンポナーデが起こる可能性があります。
■肺塞栓
カテーテルの先端が移動することで、バルーンを膨張させていないのに、自然に楔入状態になったり、空気塞栓や血栓ができることで、肺塞栓が起こることがあります。
■不整脈
カテーテルの挿入中には、心室性期外収縮や心室性頻拍や心房性頻拍が起こることがあります。また、カテーテル先端の心筋への刺激により、右脚ブロックや完全房室ブロックが生じることがあります。
■感染
スワンガンツカテーテルを留置する場合、カテーテル感染を起こすリスクがあります。スワンガンツカテーテルを留置している患者は心機能が低下していて、全身状態が不良ですので、カテーテル感染を起こすと致命傷になることがあります。
カテーテル感染は72時間以上挿入していると、そのリスクが大幅にアップすることがわかっていますので、72時間以内には抜去するようにしなければいけません。
■気胸
スワンガンツカテーテルを挿入する際に、胸膜に穿孔を起こすと、気胸を発症する可能性があります。特に、鎖骨下静脈からのアプローチの場合には、気胸を起こすリスクが高くなります。
■三尖弁や肺動脈弁の損傷
カテーテル挿入時やカテーテルの位置調整などで、三尖弁や肺動脈弁を損傷するリスクがあります。
■血栓症や血小板減少症
カテーテルを留置していると、血栓が作られたり、血小板が減少することがあります。血栓ができると、脳梗塞等を引き起こしたり、静脈炎の原因になります。また、血小板が減少することで、出血傾向が見られるようになります。
5、スワンガンツカテーテルの看護のポイント
スワンガンツカテーテルを挿入している患者への看護のポイントを説明していきます。
■カテーテル挿入中の看護
・スワンガンツカテーテルを挿入する患者は、不安が大きいので、事前にきちんと説明を行い、挿入中も常に声掛けを行う。
・挿入中は不整脈や気胸などの合併症が起こる可能性があるため、心電図やSpO2などのモニタリングを行い、観察をしていく。 ・スワンガンツカテーテルを挿入する時には、心タンポナーデなどのリスクがあるため、緊急カートを用意しておく。 |
■カテーテル留置中の看護
・モニターの波形が正しく出ているかを確認する
・挿入部位の発赤や腫脹、疼痛、浸出液やアイテルの有無などを確認する ・カテーテルが抜けないように、固定は確実に行う ・自己抜去のリスクがある時には、本人・家族の同意を得てから抑制を行う ・ルートの整理を行い、テンションがかかって抜けないように注意する |
まとめ
スワンガンツカテーテルの基礎知識や挿入方法、波形や圧、合併症、看護のポイントをまとめました。
スワンガンツカテーテルは仕組みがやや複雑で、苦手意識を持っている看護師も多いと思いますが、きちんと理解しておかないと、異常の早期発見につながりません。スワンガンツカテーテルを挿入・留置する患者は重篤な状態であることが多いので、スワンガンツカテーテルについて正しく理解して、適切な看護ができるようにしておきましょう。
参考文献
スワンガンツCCOサーモダイリューションカテーテル(エドワーズライフサイエンス株式会社)
スワンガンツ 大垣徳洲会病院 臨床工学科(平成27年11月号)
血行動態モニタリング―その生物学的基礎と臨床応用(エドワーズライフサイエンス株式会社)