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感染の看護|経路、予防、徴候、スタンダードプリコーションと看護計画

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感染の看護

感染の看護は、看護業務を行う上でとても重要で基本的なものです。看護師は毎日の業務の中でも多くの感染予防の行為を行なっています。看護師は患者に最も近い存在であるので、感染を予防することは感染の拡大を防止したり、感染経路を遮断するためにもとても重要なことなのです。また、感染の徴候を確認し、対策することも大切です。ここでは看護師が基本的に行なっているスタンダードプリコーションと、感染経路、看護計画について説明します。

 

1、感染とは

感染とは、ウイルスや細菌などの病原微生物(①感染源)が、病原微生物を保有しているヒトやモノ(②宿主)の口や排泄物など(③排出口)から排出され、何らかの介入(④感染経路)によって体内(⑤侵入口)へ侵入し、増殖することをいいます。体内に侵入した病原微生物の増殖によって発熱、下痢、嘔吐などの防御的反応など身体的な症状が起こった状態を感染症といいます。

病原微生物が体内に入っても、病原微生物の増殖が急激ではなく、感染までに至らない状態もあり、これを保菌といいます。また、病原微生物が体内に入っても免疫力によって感染症が発症しないこともあります。つまり、体内に病原微生物が入っただけで免疫によって増殖を抑えていれば感染とはいわず、感染症は発症しないのです。

感染症を発症する条件のうち免疫力の低下は大きく関係しており、低栄養患者や、小児、高齢者、化学療法中の患者は易感染性宿主(⑥感受性宿主)と呼ばれ、特に注意する必要があります。

 

①感染源: ウィルス、細菌、真菌、寄生虫などの寄生体となる微生物

②宿主:ヒト、動物、植物、環境、媒介物(器材)など

③排出口: ヒトの場合は呼吸器、消化器、泌尿器、皮膚、粘膜、胎盤、血液など(くしゃみ、咳、喀痰、便、精液、血液)

④感染経路: 飛沫核感染(空気感染)、飛沫感染、接触感染、介達感染、経口感染、昆虫媒介感染(ベクター)、血液感染、母子感染など

⑤侵入口: 呼吸器、消化器、泌尿器、皮膚、粘膜、胎盤、血管など

⑥感受性宿主(易感染性宿主):不健康な人、乳幼児、小児、高齢者、免疫がない人、免疫力が低下した人、栄養状態の悪い人、治療中の人など

 

2、感染を予防するためのスタンダードプリコーション

スタンダードプリコーション(標準予防策)とは、患者や医療従事者による感染を予防するために、感染症の有無に関わらず、すべての患者に適用する疾患非特異的な感染予防策です。つまり、すべての患者に対して感染の有無に関わらず、その体液(唾液、血液、脳脊髄液など)、分泌物、排泄物、皮膚、粘膜などのすべてを感染源として感染の予防策を行うという考え方です。スタンダードプリコーションの目的は、感染経路の遮断によって感染の連鎖を断ち切り、感染の成立をさせないことです。

スタンダードプリコーションの具体的要素には、手指衛生、個人防護具の適切な使用、鋭利な器具の取り扱い、患者に使用した医療器具の取り扱い、患者の配置・隔離、環境管理、リネンの取り扱いがあります。その内容についてみていきます。

 

2−1、手指衛生について

手指衛生は医療行為の基本手技です。しかし、医療従事者が感染経路となって感染が広がることも少なくありません。医療器具や環境、患者に触れることが多い医療従事者は正しい手指衛生の実施が必須なのです。手指衛生、すなわち手洗いは次のタイミングで行うことがWHO(世界保健機構)で推奨されています。

 

①患者に触れる前

②清潔・無菌操作の前

③体液に曝露された可能性がある場合

④患者に触れた後

⑤患者周辺の物品に触れた後

 

手指衛生を行う方法としては、石鹸による抗菌性または非抗菌性の流水による手洗いと、水を使用せずにアルコールをベースにした製剤(擦式アルコール手指消毒)などを使用する方法があります。アルコール手指消毒は、石鹸による手洗いよりも殺菌効果は迅速で効果的とされています。しかし、持続性はないので、手指が肉眼的に汚れていない場合はアルコール手指消毒による手洗いを、肉眼的に汚れている場合は石鹸による流水の手洗いを行うなど用途に応じて使用する必要があります。

 

■流水による手洗い

①流水で手指を流し、付着物を取り除くとともに、石鹸の泡立てを良くするために良く濡らす。

②石鹸を用いて手指の表面を泡立て、少なくとも15秒間十分に両手指をすり合わせる。

③指先、爪周囲、指の間、手背、手首、親指の付け根を十分に洗う。

④流水で石鹸を取り除き、ペーパータオルを用いて軽くたたくように水分を拭き取る。

⑤指先を蛇口に触れないように、肘やペーパータオルで蛇口を閉める。

 

■アルコール手指消毒

①手指消毒薬を2〜3プッシュ出す。

②両手指全体にまんべんなく伸ばす。

③指先、爪周囲、指の間、手背、手首、親指の付け根に十分に擦り込ませ、乾燥させる。

(手荒れは手指消毒がしみて皮膚刺激があったり感染源となりやすいため、個別で使用するハンドクリームなどでケアする必要があります。)

 

2−2、個人防護具(PPE)の適切な使用

個人防護具とは、マスク、手袋、ゴーグル、フェイスシールド、ガウンがあり、湿性生体物質に曝露するときや曝露されることが予測されるときに、曝露する可能性がある範囲を防護できるものを選択して使用します。また、同一患者の場合でも、別の部位のケアを行う場合には防護具を交換しなければなりません。他の患者や外部環境を汚染しないように、患者ケアの区域外へ出るときには使用した防護具を取り外して袋に密封して破棄し、再利用はしないようにします。

 

■防護具の着用方法

防護具は、ガウン、マスク、ゴーグルやフェイスシールド、手袋の順で着用します。

 

■防護具の取り外し方法

防護具は使用後、手袋、ゴーグルやフェイスシールド、マスク、ガウンの順で取り外します。

個人防護具(PPE)の適切な使用

出典:職業感染制御研究会

 

2−3、鋭利な器具の取り扱い

注射を行うときには一度使用したら破棄し、一度の処置に一つずつの使い捨ての注射器、注射針を使用します。採血や注射、ルート確保するときには手袋を装着して行います。注射真のキャップを開けた後は、リキャップはせずに破棄し、リキャップしなければならないときは、必ずトレーの端を利用するなどして、手で持ってのリキャップは針刺し事故の危険があるため避けなければいけません。また、注射針のような鋭利な器具の使用時には、必ず医療廃棄容器を携帯して、使用後すぐに破棄できるように準備するようにします。鋭利な器具は、使用者が他者に渡したり、素手で触ったり、むき出しのまま持ち歩いたりしないように注意が必要です。

 

2−4、患者に使用した医療器具の取り扱い

医療器具に付着した有機物を流水下で洗浄し、滅菌・消毒します。感染経路別予防策を行なっている患者に使用するクリティカルな医療機器類は、その患者専用に使用するか、できない場合は、使用後に消毒して使用するようにします。

 

2−5、患者の配置・隔離

感染の原因となる病原微生物が伝播する危険がある場合、可能なら患者を個室に隔離し、できなければ、同じ病原微生物を保菌している患者と同室にします(集団隔離、コホーティング)。それもできない場合は、患者と患者の間を1m以上開けてカーテンによって隔離するようにします。特に易感染性患者とは必ず隔離する必要があります。

 

2−6、環境管理

病室の清掃は専用のみで十分ですが、表面に付いている汚れが何かが不明な場合や、多剤耐性菌が存在する可能性がある場合は消毒を行います。日常の清掃は、埃などがたまらないように十分に清掃し、手が多く触れる場所(高頻度接触表面)は1日1回程度拭き掃除を行うようにします。水回りには緑膿菌などが生息するため、手洗い時に水滴を拭き取るなどの環境管理が必要となります。

 

2−7、リネンの取り扱い

患者に直接触れたものについては、患者側を内側にして折り込み、他のものに触れないようにしてビニール袋に密閉します。また、食器については、特別な方法はありませんが、できれば使い捨ての食器を使用して、患者の周辺環境から持ち出さない方が良いでしょう。

 

3、感染経路について

感染経路には、接触感染、飛沫感染、空気感染があります。これその感染経路によってスタンダードプリコーションの他に、感染経路別予防策を感染予防として行う必要があります。感染経路別予防策には、以下の接触予防策、飛沫予防策、空気予防策があります。

 

■接触予防策

医療関連感染であるMRSAや多剤耐性緑膿菌などの接触感染を主に伝播経路とする病原微生物による感染を予防する対策方法です。

 

■飛沫予防策

インフルエンザなどの飛沫による伝播経路による感染を予防する対策方法です。

 

■空気予防策

肺結核や麻疹などの空気による伝播経路の感染を予防する対策方法です。この場合患者を完全に隔離し、特殊な空調管理ができる部屋に収容する必要があり、患者を室外に出すときも特別な配慮が必要になります。

空気予防策

出典:職業感染制御研究会

 

4、感染の徴候とは

感染がある場合、炎症の4徴候である「熱感」「腫脹」「発赤」「疼痛」があったり、明らかな感染創がみられたりします。また、自覚症状がなくても血液検査や、バイタルサインの変化によって、感染の徴候を知ることができます。

感染が起こっている場合、血液検査では、CRPやWBCの値の上昇が一般的です。また、バイタルサインでは、体温や脈拍の上昇、呼吸数の増加などがあり、普段の様子と比べての数値の変化によって感染の徴候を知ることができるのです。

 

5、感染の看護計画

感染の看護計画は、感染のリスクがあるときの計画と、感染が既に起こっている場合の看護計画があります。順にみていきます。

 

5−1、感染のリスクがあるときの看護計画

■看護問題:感染のリスク状態

 

■看護目標:感染が起こらず経過できる。感染の危険因子を理解して感染の予防策を実施することができる。

 

■観察項目(OP)

・バイタルサイン(特に熱型)

・悪寒や頭痛などの自覚症状の有無

・検査データ(CRP、WBC、細菌培養検査、レントゲンなど)

・易感染部位の状況(カテーテル挿入部などに炎症の4徴候がないか)

・手洗いなどの感染予防策の実施方法

ケア項目(CP)

・手指衛生を行う

・整容、清潔を介助する

・口腔内を清潔にケアする

・易感染部位の消毒、処置(ガーゼ交換、廃液処理などは清潔操作を行う)

・必要な薬剤の与薬

教育項目(EP)

・自覚症状がある時は伝えるように説明する

・手指消毒、清潔の必要性を説明する

・手指消毒、口腔ケアなど自力でできることの指導

 

5−2、感染が発症している場合の看護計画~発熱・脱水~

感染の部位によって看護計画は変わってきますが、全体的な点での看護計画をご紹介します。

■看護問題:感染による発熱によって脱水となっている

 

■看護目標:発熱が軽減でき脱水とならない

 

■観察項目(OP)

・バイタルサイン

・尿量・尿比重

・IN・OUTバランス

・自覚症状の有無・程度

・ 検査データ(CRP、WBC、細菌培養検査、レントゲンなど)

・意識レベル

ケア項目(CP)

・水分摂取を促し、不可能であれば医師の指示により補液を行う

・感染部位の処置・消毒

・必要時、解熱剤を使用する

・ADLの介助

 

■教育項目(EP)

・自覚症状がある時は伝えるように説明する

・ADLに介助が必要な時は遠慮なく伝えるように説明する

 

5-3、感染が発症している場合の看護計画~疼痛~

■看護問題:感染による疼痛がある

 

■看護目標:痛みが軽減できる

 

■観察項目(OP)

・痛みの程度・部位(発赤、腫脹、熱感の程度)

・バイタルサイン

・検査データ(CRP、WBC、細菌培養検査、レントゲンなど)

・自覚症状

ケア項目

・痛みが強い場合は、医師の指示により鎮痛剤を使用する

・感染部位の処置・消毒

・処置や消毒は丁寧に行う

 

■教育項目(EP)

自覚症状がある場合は、我慢せずに伝えるように説明する

 

まとめ

感染は医療従事者の対策によって拡散を抑えることができます。それは、スタンダードプリコーションや感染経路別予防策を適切に行うことが大切なのです。感染管理は看護の基本ですので、しっかりと理解してケアを行なっていきましょう。

 

参考文献

職業感染制御研究会

CDC. MMWR 2001;50(RR-11)


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