熱性痙攣(けいれん)は、乳幼児期に38℃以上の発熱が原因で起こる発作性疾患のことです。熱性痙攣を起こした時には、正しい観察と対応をすることが大切になります。
熱性痙攣の基礎知識や症状、看護問題、看護目標・計画、観察や対応のポイントをまとめました。小児看護をする時の参考にしてください。
1、熱性痙攣(けいれん)とは
熱性痙攣(けいれん)とは、乳幼児期(生後6ヶ月~5歳)に起こる38℃以上の発熱に伴う発作性の疾患のことです。ただし、他に髄膜炎や脳炎などの中枢神経感染症や代謝異常など明らかな発作の原因がなく、てんかんの既往がない場合に限られます。
乳幼児の脳はまだ未熟ですので、高熱という刺激に過剰に反応して熱性痙攣を起こしますが、成長して脳が成熟すると、高熱を出しても過剰な反応を起こしにくくなります。そのため、熱性痙攣は基本的に5歳ごろまでしか起こらず、8歳以上になると起こさなくなるのです。
熱性痙攣の原因となる疾患は、インフルエンザや風邪、ヘルパンギーナ、突発性発疹などで、これらの疾患で発熱したことをきっかけとして、熱性痙攣を起こします。特に、39℃以上の高熱の時に起こりやすく、発熱後12時間以内に体温が急上昇する時に発症するリスクが高くなります。
また、熱性痙攣は遺伝的な要素が強く、両親や兄弟の中に子どもの頃に熱性痙攣の既往がある人がいると、熱性痙攣を起こすリスクが高くなると言われています。
熱性痙攣は日本人の5~6%が起こしたことがある病気です。1)また、初めて熱性痙攣を起こす年齢は3歳未満が約80%を占めていて、3歳以上で初めて熱性痙攣を起こすのはあまり多くありません。
2、熱性痙攣の症状
熱性痙攣の症状は、次のようなものがあります。
・全身の強直間代性けいれん
・意識消失
・チアノーゼの出現
この3つが熱性痙攣の特徴です。強直間代性けいれんとは「強直=こわばる」、「間代=ガクガクする」ですので、四肢が硬直してこわばり、その後にガクガクと震えるような痙攣です。この時に、眼球が上転し、白目をむくことが多くなります。
また、熱性痙攣が起こっている時には、呼びかけに反応がなく、意識を消失していて、顔にチアノーゼが現れるようになります。
明らかな熱性痙攣の症状ではないのものの、意識がぼんやりとしていて、数分間一点を見つめるような症状も熱性痙攣の1つと考えられています。
これらの症状はたいてい5分以内に消失し、その後は元の意識状態に戻るか、グッスリと眠り込むようになります。
熱性痙攣は単純型熱性痙攣と複雑型熱性痙攣に分けることができます。次の3項目のうち1つでも当てはまると複雑型熱性痙攣に分類されます。
- 焦点性発作(部分発作)の要素がある
- 発作が15分以上持続する
- 1回の発熱で24時間以内に複数回の発作がある
これに1つでも当てはまれば複雑型熱性痙攣になり、当てはまらないと単純型熱性痙攣になります。
単純型熱性痙攣は脳に後遺症を残すことはなく、てんかんの発症率は一般と差はないものの、複雑型熱性痙攣はてんかんへ移行するリスクが高くなります。
3、熱性痙攣の小児に対する看護
熱性痙攣は乳幼児が起こしますので、小児科の看護師さんは熱性痙攣を起こした子どもへの看護をきちんと把握しておく必要があります。
3-1、熱性痙攣の看護問題
熱性痙攣を起こした子どもの看護問題は、次の3つがあります。
・けいれん発作による危険
・高熱
・家族の不安
この3つの看護問題を1つ1つ確認していきましょう。
■けいれん発作による危険
熱性痙攣を起こすと、全身の強直間代性発作が症状として現れます。また、意識も消失します。発作が起こっている時には、口から泡が出たり、嘔吐したりすることがあり、吐物で窒息する可能性があります。
また、ベッドからの転落やベッド柵への衝突などで怪我を負う危険もあります。
■高熱
熱性痙攣は38℃以上の発熱がきっかけで起こります。特に、39℃以上の高熱や熱が急激に上がった時に起こりやすいのです。
熱性痙攣が起こるほどの高熱は、放置しておくと、体力の消耗につながりますので、看護介入が必要になります。
■家族の不安
子どもが熱性痙攣を起こすと、家族は「死ぬのではないか?」、「重病ではないか?」と不安になります。
また、強直間代性発作を起こしている時に、子どもを揺さぶったり、舌を噛んではいけないからと割り箸やフォークなどを口に入れようとするなど、間違った対処法を実践しようとすることもあります。
3-2、熱性痙攣の看護目標と看護計画
熱性痙攣の看護目標と看護計画を、先ほどの看護問題をもとにして立案してみましょう。
看護目標 | ・けいれん発作中の安全を確保できる
・適切な時期に解熱できる ・家族の不安を軽減し、正しい知識を持ってもらう |
OP(観察項目) | ・けいれん発作の状況
・けいれん発作の持続時間 ・バイタルサイン ・前駆症状(振戦や不安、頭痛等)の有無 ・けいれんの型 ・眼球移動の有無 ・嘔吐の有無 ・チアノーゼの有無 ・意識状態や麻痺の有無 ・食事や水分摂取量 ・発作後の様子 |
TP(ケア項目) | ・けいれん時の安全確保
・体位の工夫 ・気道の確保 ・医師の指示に基づく与薬 ・発熱時のクーリング ・家族や患児への精神的な支援 ・家族からの情報収集 ・ベッド柵を上げておく ・必要であれば、ベッド柵の患児の間にクッションを置いて、ぶつからないようにする |
EP(教育項目) | ・振戦や不安、頭痛などの前駆症状があれば、すぐに知らせてもらう
・発作予防や発作時の対処の指導 ・熱性痙攣についての正しい知識の指導 |
3-3、熱性痙攣の看護観察のポイント
熱性痙攣を起こした患児の看護をする時には、看護師は熱性痙攣の症状をきちんと観察しておく必要があります。複雑型熱性痙攣の場合は脳波等の検査の必要がありますし、熱性痙攣ではなく、脳炎や髄膜炎による痙攣の可能性があります。
そのため、看護師は「ただの熱性痙攣だろう」と判断せずに、どのような痙攣だったのかを観察しておかなくてはいけないのです。
<熱性痙攣の観察ポイント>
・痙攣発作の持続時間
・発作はいつ頃、どこで、どんな時に起きたか
・嘔吐はあるか
・全身性か部分性か
・痙攣の部位、左右対称か
・けいれんの型
・眼球移動の有無
・意識の有無
・嘔吐の有無
・チアノーゼの有無
このようなことを観察し、速やかに医師に報告するようにしましょう。
3-4、熱性痙攣の看護対応
熱性痙攣を起こした患児には、ただ観察していれば良いというわけではありません。観察も重要ですが、きちんと対応して、患児の安全を確保しなければいけません。
■横向きに寝かせる
熱性痙攣を起こしていたら、衣服やオムツを緩めて、横向きに寝かせるようにしましょう。熱性痙攣を起こすと、嘔吐して、窒息してしまう可能性があります。
そのため、まずは顔を横向きにして、衣服を緩めて寝かせるようにしましょう。この時に、痙攣していると、ベッドから転落したり、ベッド柵にぶつかったりする可能性がありますので、安全確保にも努めてください。
■口の中に物を入れない
一昔前は痙攣を起こしている場合は、舌をかまないように口の中に割り箸やフォークを入れるという対応が一般的でしたが、この対応方法は間違いですので、口の中に何も入れてはいけません。
熱性痙攣を起こしていても、舌をかみ切って死ぬことはありません。それよりも口に入れたものを誤飲したり、口の中を傷つける可能性がありますので、口の中には何も入れてはいけないのです。
■余計な刺激を与えない
熱性痙攣を起こすとビックリして、意識確認をしようと大声で名前を呼んだり、体をゆすろうとすることもあるかもしれません。
でも、余計な刺激を与えると、痙攣を長引かせる可能性がありますので、横向きにして安全を確保したら、痙攣が終わるまでは余計な刺激を与えずに、観察を続けなければいけません。
■痙攣止めの後に解熱剤の順番を守る
医師の指示で、痙攣止めと解熱剤の座薬が出されている場合は、痙攣止めの座薬を使って、その後に解熱剤を使うようにしましょう。
解熱剤で熱を下げると、薬の効果が切れて、また熱が上がる時にまた熱性痙攣を起こしやすくなります。必ず痙攣止めの座薬を使ってから、30分後に解熱剤の座薬を使うようにしなければいけません。
まとめ
熱性痙攣の基礎知識や症状、看護問題、看護目標・計画、観察、対応のポイントをまとめました。乳幼児の熱性痙攣は、珍しい疾患ではありませんが、正しい知識を持って、適切な観察・対応を行えるようにしましょう。
参考文献
1)白クマ先生の子ども診療所|日本医師会