大動脈解離は血管の内膜に亀裂が入って、そこから血液が流入して血管壁が裂けてしまう病気です。大動脈解離は緊急性が高く、上行大動脈に解離が起こると、緊急手術が必要になります。
大動脈解離の基礎知識や分類、症状、看護計画、術後の観察項目、手術についてまとめました。今後、大動脈解離の看護をする時の参考にしてください。
1、大動脈解離とは
大動脈解離とは、大動脈の内膜に亀裂が生じ、その亀裂から血液が大動脈の壁の中に入り込み、血管壁を割いてしまう病気です。
大動脈の血管壁は内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。一番内側の内膜に何らかの原因で亀裂が生じてしまうと、そこから内膜と中膜の間に血液が流れ込み、偽腔を作って、血管壁が裂けてしまうのです。
大動脈の血管壁は3層構造になっていることで、弾力性を保ち、血圧にも耐えられるようになっています。
でも、大動脈解離を起こすと、外膜だけで血圧に耐えなければならず、破裂したり、血液が染み出したりします。また、偽腔が大きくなると、本来血液が流れる真腔の血流量が減りますので、臓器血流障害を引き起こすこともあるのです。
大動脈解離の原因は、まだよくわかっていないのですが、動脈硬化や高血圧の人は大動脈解離を起こしやすいとされています。また、大動脈壁が先天的に脆いマルファン症候群などの病気でも大動脈解離のリスクは上がります。
1-1、大動脈解離の分類
大動脈解離の分類は、スタンフォード分類とドベーキー分類の2つがあります。
■スタンフォード分類
スタンフォード分類では、スタンフォードA型とスタンフォードB型に分けられます。スタンフォードA型は上行大動脈に解離がある状態で、スタンフォードB型は上行大動脈に解離がない状態です。
スタンフォードA型は上行大動脈に解離があるため、心タンポナーデ、心筋梗塞、大動脈弁閉鎖不全症、心不全など命にかかわる合併症が起こるリスクが高いので、緊急手術が必要になります。
■ドベーキー分類
ドベーキー分類では、Ⅰ型・Ⅱ型・Ⅲa型・Ⅲb型の4つに分類されます。Ⅰ型は上行大動脈から下行大動脈、腹部大動脈にまで広範囲に解離が及ぶもので、Ⅱ型は上行大動脈にだけ解離があるものになります。
Ⅲa型は解離が弓部大動脈遠位部から下行大動脈に限局しているもの、Ⅲb型は弓部大動脈遠位部から下行大動脈、腹部大動脈にまで及んでいるものになります。
ドベーキー分類ではⅠ型とⅡ型が外科的手術の適応となります。
1-2、大動脈解離の症状
大動脈解離が起こると、ほとんどのケースで胸や背中に強烈な痛みが現れます。また、病状の進行とともに、胸の痛みが腹部や脚の方向に移動していくことが特徴です。
あまりの激しい痛みに意識を失ったり、手足のしびれや冷汗が起こったり、ショック状態に陥ることもあります。「今まで経験したことないような痛み」、「杭で刺されるような激痛」と言う患者も多いのです。
大動脈解離はどの部位に解離が起こったかで、どんな合併症が起こるかが異なります。
解離が起こった部位 | 合併症 |
上行大動脈基部 | 大動脈弁閉鎖不全症、心タンポナーデ |
冠動脈 | 心筋梗塞、狭心症 |
弓部大動脈から総頚動脈 | 脳虚血による脳梗塞、めまい、失神(意識障害)、頭痛、痙攣 |
弓部大動脈から鎖骨下動脈 | 上肢の脈拍や血圧の左右差 |
下行大動脈 | 縦隔内出血、血胸、上肢・下肢の血圧の左右差、脊髄虚血による半身麻痺 |
腹部大動脈 | 内臓虚血による肝不全や腎不全、腸管虚血、胃潰瘍、イレウス |
下腿動脈 | 下肢虚血による壊死 |
2、大動脈解離の手術
大動脈解離はスタンフォードA型の場合は、緊急手術が必要になります。ただ、スタンフォードB型も病状の進行によっては手術を行うこともあります。
■人工血管置換術
人工血管置換術は、スタンフォードA型の大動脈解離に適応になる術式で、解離が起こっている部位を人工血管に取り替えます。
出典:大動脈疾患:大動脈瘤|倉敷中央病院心臓病センター心臓血管外科|岡山県倉敷市
大動脈全てを人工血管にすると、体への負担が大きすぎるので、内膜が裂けた部位や解離の広がり、血液の流れなどを考慮して、取り替える場所を決めます。
■人工血管バイパス術
人工血管バイパス術はスタンフォードB型の大動脈解離に行われることが多い術式です。大動脈の枝の一部分に解離によって血流が悪い部分がある場合、細い人工血管を使って、血流が悪い部分にバイパス血管をつなぎ、血流を維持します。
■ステントグラフト
ステントグラフトは、カテーテルを挿入して、解離が起こっている部分をステントで塞ぐ治療法です。カテーテルを挿入するだけで、開胸しませんので、患者への負担は少ない治療法になります。
ステントグラフでの治療は、スタンフォードB型の大動脈解離が適応になります。
3、大動脈解離の看護計画
大動脈解離では、スタンフォードA型の場合は緊急手術となります。ただ、緊急手術が適応でなく保存療法となった場合でも、病状の進行によっては手術が必要になることがあります。
3-1、大動脈解離の保存療法の看護計画
大動脈解離ではスタンフォードA型の場合は、緊急手術を行いますが、スタンフォードB型の場合は、保存的療法が選択されます。ただ、スタンフォードB型でも病状が進行し、腹腔動脈や両側腎動脈、上腸間膜動脈に解離が及んだ場合は、手術の適応となります。
そのため、看護師は大動脈解離で保存療法が選択された場合でも、異常の早期発見に努めていかなければいけません。
スタンフォードB型の患者は、大動脈解離が起こったことでの疼痛緩和と血圧コントロールが重要になります。
■大動脈解離による疼痛緩和のための看護計画
看護目標 | 疼痛が緩和する |
OP(観察項目) | ・疼痛の部位、程度、継続時間
・バイタルサイン ・心電図の異常の有無 ・血液検査(CPK、LDH、GOT、GPT、CBC、ESR、電解質) ・心エコー、胸腹部CT ・大動脈解離の分類の把握 ・鎮痛薬使用時の効果 |
TP(ケア項目) | ・指示に基づいた鎮痛薬の使用
・安楽な体位の工夫 ・処置をする時には声掛けや説明を行い、不安を軽減する ・緊急時に備えて救急カートを用意しておく |
EP(教育項目) | ・疼痛部位や程度に変化があったら、すぐに伝えてもらうように説明する
・レスキュー薬を使えることを伝える |
疼痛があると血圧が上昇します。大動脈解離の保存療法では、血圧コントロールが重要になりますので、血圧の変化には注意する必要があります。
■血圧コントロールのための看護計画
看護目標 | 血圧が100~120mmHgにコントロールできる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・動脈圧モニターの観察 ・血圧の変動 ・心電図の異常の有無 ・血液検査(CPK、LDH、GOT、GPT、CBC、ESR、電解質) ・心エコー、胸腹部CT ・大動脈解離の分類の把握 ・痛みの程度 |
TP(ケア項目) | ・指示された安静度を守る
・運動の制限 ・急激な温度差を避ける ・排便コントロール ・感情の大きな変化を避ける ・指示された血圧コントロールの薬剤を確実に投与 |
EP(教育項目) | ・血圧のコントロール必要性を説明する |
血圧の目標値は患者の状態によって異なることがありますので、医師の指示に従うようにしてください。
2-1、大動脈解離の術後の観察項目
大動脈解離はスタンフォードA型の場合は、緊急手術が必要になります。緊急手術後は、異常の早期発見が看護をする上で最も大切なことになります。大動脈解離後の異常の早期発見のための観察項目を確認しておきましょう。
■適正血圧の維持
術後は医師に指示された血圧を維持して、グラフトの血流を保つ。高血圧は人工血管吻合部からの出血、低血圧は血栓形成のリスクがある。
■循環血液量の維持
循環血液量を維持しないと、循環血液量減少による血圧低下が起こる。逆に、多すぎると心不全のリスクがある。
■不整脈
手術中の心筋損傷や電解質異常などの影響で、術後は不整脈を起こしやすいため、心電図モニターでの観察を行う。
■脳血流量の維持
術中は人工心肺を用いて脳還流を行うが、血栓の形成によって脳への酸素供給不足が起こる可能性があるため、意識レベルや神経学的所見を観察する。
■腎血流量の維持
大動脈解離の手術後は、術中の出血や体外循環の不備、大動脈遮断の影響などから、腎血流量が減少して、腎不全を起こしやすい。そのため、尿量やIn/Outバランス、電解質、BUN、Cr値などを観察する。
■末梢循環の維持
大動脈解離の手術後は血栓が末梢動脈に詰まりやすいので、動脈の触知、温感、知覚の有無、チアノーゼの有無など観察する。
■ドレーンの管理
後出血を起こすと、出血性ショックなどを起こす可能性があるため、ドレーンの出血量や性状などを観察し、適宜ミルキングを行う。
まとめ
大動脈解離の基礎知識や分類、症状、手術、看護計画、術後の観察項目についてまとめました。大動脈解離は上行大動脈に起こると、命にかかわりますので、緊急手術が必要です。
術後は循環の厳密な管理が必要になります。スタンフォードB型も血圧コントロールや疼痛緩和が必要になりますので、看護師は大動脈解離の看護をきちんと行えるように、大動脈解離について正しい知識を身につけておかなくてはいけません。