創傷への対応として挙げられる創傷処理と創傷処置。特に、感染症などの被害を防ぎながら患者の治癒機転を速やかにサポートするために、創傷処置を進める上では重要なポイントが数多く存在します。
それらのポイントの一部とともに、創傷の種類、創傷処理と創傷処置の役割についても紹介していきましょう。
1、創傷について
創と傷は同じような意味で解釈されるケースが多いですが、厳密な意味としては、創は開放性損傷であり、皮膚の連続性が保たれた状態での損傷を指します。傷は非開放性損傷で、皮下組織に損傷が及んだ状態です。
過度な外力により皮膚や皮下組織に損傷が及ぶと痛みが生じるだけでなく、放置すれば出血や臓器・機能障害、感染、瘢痕の形成などにもつながりかねません。
形成外科や救急外来などではそのような状態の患者に対して創傷処理や創傷処置が施されていますが、傷の性状や段階によって対応も異なってきます。創傷は原因や性状をもとに、次のような種類に分けられます。
≪創傷の種類≫
切創 | 鋭利な刃物による損傷が原因で発生する。組織の挫滅は少ない。 |
刺創 | 先端の尖った刃物による損傷で発生する。内部損傷を伴う場合もある。 |
割創 | 膝や頭皮などの皮膚が打撲をしたり、重いものに皮膚を打ち付けて発生する。線状に割れたような状態。 |
挫創・挫傷 | 鈍器による打撲が原因で発生する。皮膚だけでなく、皮下組織や筋肉、骨の損傷もある。 |
擦過傷 | 擦り傷。皮膚の損傷程度は小さい。 |
裂創 | 皮膚が引き裂かれるようにして傷ができる。 |
このほかにも、咬創、銃創、熱傷、凍傷、化学外傷、爆創などの種類があります。軽い切創や擦過傷の場合は特別に治療をしなくても治るケースが多いですが、傷が広範囲に渡った場合や、挫創のように重症に陥った場合は、積極的な治療が必要な事態にもなります。
2、創傷処理と創傷処置の違い
厚労省が創傷処理と創傷処置の役割について触れている資料として、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」があります。この中で、創傷処理については「切・刺・割創又は挫創に対して切除、結紮又は縫合(ステープラーによる縫合を含む。)を行う場合の第1回治療のこと」としています。
これに対し、第2診以後の手術創に対する処置は、創傷処置として算定されるとしています。生体には本来、炎症→繊維芽細胞増殖→繊維細胞による線維化といったプロセスを経た創傷治癒のプロセスが備わっていますが、創傷処置の目的は治癒機転を補助することに位置づけられます。
出典:創傷治癒に関わる細胞増殖因子 – NPO法人創傷治癒センター
3、創傷処置を進める上での看護のポイント
生体の治癒機転をサポートする創傷処置は具体的には止血や創の浄化、創閉鎖を行います。看護技術としては褥瘡予防、ドレッシング剤の使用、ドレーン管理、消毒、ガーゼ保護などが挙げられます。処置を進める上で注意点とされているポイントについて、紹介していきましょう。
3-1、情報収集と共有
創傷処置をする際には局所だけでなく、全身の状態を把握することがポイントです。処置が必要と考えられる患者が搬送された際には、創傷を負ったきっかけや時間などをしっかりと把握した上で、現場スタッフ全体でそれらの情報を共有して対応する体制が不可欠となります。
その他にも破傷風予防接種や透析、糖尿病などの既往歴や、局所麻酔や薬物によるアレルギーがあるかどうかといった情報も収集・共有しておく必要がありますので、患者と医療従事者、医療スタッフ同士でコミュニケーションが円滑にとれている環境が整っていることも、円滑な処置を進める上で重要な前提条件となります。
3-2、創傷処置と消毒
前述したように創傷処置では消毒をすることもありますが、消毒薬の乱用はおすすめできません。消毒薬は細菌の増殖を抑える一方で、正常な組織を損傷する点が指摘されています。
1次治癒の場合では、消毒は治癒を遅らせる可能性が指摘されています。創や周囲の血液・分泌液は生理食塩水ガーゼでふき取りましょう。感染の疑いや悪臭、ガーゼの汚染がある場合は交換しますが、抜糸まではガーゼ交換は不要です。ガーゼ交換には、形成された上皮が剥がされる可能性があり、治癒遷延につながる場合もあります。
2次治癒の場合では、創縁以外の創面や肉芽には消毒薬をつけないことや、抗菌薬は耐性菌の出現につながる可能性があるため、局所投与は避けるなどの注意点が挙げられています。
3-3、感染予防
褥瘡や糖尿病性足潰瘍など慢性創傷は、創部に細菌の定着が発生している可能性も高く、創傷処置と感染予防をセットで考える必要もあります。
創傷処置やその介助をする際の格好としては、ディスポ手袋を着用して手洗いや手の消毒を徹底し、作業が広範囲に及ぶ場合は、飛散の程度を考慮した上でエプロン、マスク、アイシールドの着用を心がけることがポイントです。
手袋は最後に着用するようにして、そして作業が終わったらエプロンなどを脱ぐ前に手袋から外していくなど、着脱手順にも細かい注意が必要です。また、患者の排泄物を取り扱った後や、患者の体位や衣服を整える前、洗浄後に体液が飛散した際など、必要に応じて手袋やエプロンの交換を行うようにしましょう。
感染を防ぐため剃毛は制限すること、処置に使われる道具として絆創膏は剥がしやすいように、片端のみ折り曲げるなどの細工をしておくことも、重要です。処置で発生した感染性廃棄物は所定の廃棄物容器にきちんと捨てることも、忘れないようにしてください。
3-4、良好な治癒環境をサポート
適切な処理が施された創傷は、早く、きれいに治すためにも良好な治癒環境に置かれることが必要条件となってきます。そのためには、創を被覆するドレッシングを適切に行うことなどが、ポイントとなります。ドレッシングは創を外力や感染から守ったり、滲出液が過剰に出てきた場合に吸収するほか、「傷を見たくない」という患者の心理に配慮した看護法にもなります。
創傷は乾燥させるのでなく、湿潤環境に置くことが望ましいと考えられているため、1次治癒創に対して閉鎖ドレッシングによって湿潤環境を整えることが、治癒に向かった良好なサポートにつながると言えます。創は閉鎖後48時間ほどで上皮化すると言われており、以降はドレッシング不要となります。温めることで治癒環境が良好になるとして、シャワー浴も可能となります。
2次治癒創に対しても、洗浄とドレッシングで湿潤環境を整えることが、早い治癒につながります。傷を覆って湿潤環境を維持する創傷被覆材は、術後創や出血がなく浅い傷にはポリウレタンフィルム、滲出液が多い場合はハイドロコロイドやポリウレタンフォーム、受傷直後の出血創にはアルギン酸塩被覆材…など、創傷の状態によって適切な素材のものを扱うようにしましょう。
出典:ハイドロコロイドドレッシング|医療衛生材料|株式会社ニトムズ
まとめ
多くの患者にとって、医療機関を受診するほどの創傷を負うことは衝撃的なダメージであり、創傷処理を受けている段階では心身ともにダメージが大きい状態にあることが想定されます。
そこで、良好な治癒環境を整え、速やかに快方に向かうサポートとして創傷処置を適切に進めることが、そんな患者の負担を徐々に和らげることにつながるのではないでしょうか。現場全体で患者をサポートしていける環境づくりも、医療や看護の場に求められていると言えます。