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血圧低下時の看護|ショックなど各種症状と原因、ケース別の対処法

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血圧低下の看護

患者の正常血圧から大きく血圧が下がった状態を指す「血圧低下」。症状によっては生命の危機に至る可能性もあり、適切な患者観察と処置が鍵を握ります。

今回は、血圧低下の原因や、血圧低下によるショックの診断基準、血圧低下時の看護を実践する上での注意点をまとめてみました。ぜひ日々の業務の参考にしてください。

 

1、血圧低下とは

血管が動脈壁を押す圧力を意味する血圧(BP:Blood Pressure)。循環器系疾患の予防や疾患の可能性を図るため、広く計測されています。患者の生命に関する最も基本的な情報バイタルサインの1種です(その他のバイタルサインは「心拍数」「呼吸」「体温」)。

血圧を決める要因は、心臓の活動性を表す「心拍出量(血液量)」と、全身の血管の緊張度を表す「末梢血管の抵抗」です。これらが上がると血圧も高まります。

血圧は、血液を送り出すために心臓が収縮したときに最大となり、心臓が一番膨らんで弛緩したとき最小となります。前者を「収縮期血圧」、後者を「拡張期血圧」と言います。また、収縮期血圧と拡張期血圧の差を「脈圧」と言います。

 

≪血圧の基準値≫

  • 新生児:60~80/50mmHg
  • 乳児:80~90/60mmHg
  • 幼児:90~100/60~65mmHg
  • 学童:100~120/60~70mmHg
  • 成人:110~130/60~80mmHg

 

成人の血圧標準値は「収縮期血圧が130mmHg未満」、「拡張期血圧が80mmHg未満」とされています。これ以上の値になると「高血圧」と診断されます。また、血圧が基準値に満たない場合は「低血圧」と診断されます。一般に「収縮期血圧が100~110mmHg未満」を低血圧と定義しています。

血圧低下とは、患者の正常血圧から大きく血圧が下がった状態を指します。正常血圧は患者によって異なりますが、血圧低下では低下の幅がどれくらいかが重要な要素となります。急性的な血圧低下では、収縮期血圧が「20mmHg以上の急激な低下」を起こした場合を指します。

血圧低下では、全身に血液が循環しなくなることが問題です。全身に血液が循環しない場合は臓器や細胞に酸素、栄養が行き渡らなくなることで以下のような症状が現れてきます。

 

≪血圧低下時に発生する症状≫

  • 気分不快
  • ショック症状(※後述)
  • 意識障害(眠気から意識消失まで)
  • 四肢の痺れ
  • めまい
  • 全身倦怠感
  • 顔面蒼白
  • 冷や汗
  • 不整脈
  • 動悸、息切れ
  • 嘔気、嘔吐

 

必要十分な血圧を維持するために、体内では心拍出量や末梢血管の抵抗を変化させています。 血圧を上げるためには心拍出量または総末梢血管抵抗のいずれかを上げることが重要です。また、神経やホルモンは心拍出量や血管抵抗を変化させることができ、間接的に血圧を変動させることも可能です。

 

2、血圧低下の原因

急性的な血圧低下には、主に以下のような原因が考えられます。

 

■出血・脱水などによる血液量の急激な減少

切り傷や外傷による出血、事故や発作での鈍的外傷による出血、胃腸管や子宮外妊娠の破裂による内出血などによって循環血液量が減少し、血圧が低下します。また、過度の下痢 、重度のやけど、過度の発汗による脱水(体液喪失)も循環血液量が減少する原因となります。

 

■感染による敗血症性ショック

敗血症は、血流に細菌が存在する状態である「菌血症」や他の感染症に対する重篤な全身性の反応です。敗血症性ショックとは、敗血症によって引き起こされる低血圧症のことを指します。敗血症が悪化すると、心拍と呼吸が速くなり錯乱を来し内臓の機能不全が起こります。

敗血症の看護、観察するべきポイントと看護計画とは

 

■心機能の著しい低下

急性心筋梗塞や心筋炎、不整脈などによって心収縮力が低下し、心拍出量が低下することで血圧低下が引き起こされます。

 

■薬物の多量投与やアレルギーなど

精神安定剤や精神刺激剤、パ-キンソン病治療剤、降圧剤など服用している薬物の影響による場合も考えられます。また、昆虫毒などのアナフィラキシーショックでも血管拡張が起こり血圧低下を招く場合もあります。

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3、急性的な血圧低下によるショック症状

急性的な血圧低下は、ショックを引き起こす原因にもなります。ショックとは、循環が破綻することで全身性の組織灌流障害(脳や各臓器、抹消血管にまで血液が十分に行き渡らない障害)に陥り、組織の酸素代謝障害を来した病態を指します。

持続する組織灌流障害によっては、細胞死や臓器障害、多臓器不全となり生命の危機に至ることもあります。ショック時には迅速な処置・治療が必要です。

ショックの診断では、患者の低血圧状態を1つの基準とします。臨床所見と組み合わせて総合的に判断する必要があります。

 

3-1、ショックの特徴的な症状・判断基準

患者がショック状態に陥っているか判断する際には、ショックの特徴的な症状を理解しておく必要があります。その症状としては「ショックの5徴候(ショックの5P)」があります。特にショックの5徴候に加え、臨床症状で判断することが重要です。

 

ショックの5P ・  周囲に無関心で無欲状態(虚脱:Prostration)

・  皮膚が蒼白(顔面蒼白:Pallor)

・  冷汗をかいている(冷汗:Perspiration)

・  脈が弱く速い(脈拍触知不能:Pulselessness)

・  ・呼吸不全(Pulmonary deficiency)

ショックを見分ける臨床症状 ・  血圧低下(収縮期血圧90~100mmHg以下)

・  脈圧の減少(収縮期と拡張期圧の差が少なくなる)

・  静脈虚脱

・  呼吸促迫

・  尿量減少(25ml/hr以下)

引用:トリア-ジとは 2.トリア-ジと重症度判断 災害医学・抄読会 081107

 

■ショック図

ショック図

出典:検査や治療を必要とする低血圧とはどういうものですか 公益財団法人 日本心臓財団

 

4、ケース別にみる血圧低下時の看護ケア

以下、血圧低下時の看護ケアについて幾つかの具体的な例を紹介します。

 

■解熱剤を使用後に血圧低下が起こった場合

高熱のある患者に解熱剤を使用すると急激に血圧が低下することがあります。発熱による脱水によって血管が拡張することが原因です。特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が血圧低下しやすい薬剤です。この場合は、急速輸液も考慮するため、できるだけ太い留置針で静脈ラインを確保することが重要です。

 

■体位変換後、急激に血圧低下が起こった場合

体位変換による循環動態の変化は一時的なものですが、重症患者は身体維持機能が失われているため、体位変換でも急激な血圧低下が起こります。この場合は、元の体位に戻して経過を見ます。改善が見られない場合は、急速輸液を行ってバイタルサインが安定することを優先しましょう。

 

■輸血後に急激に血圧低下が起こった場合

代表的な原因としてTRALI(輸血関連急性肺障害)が考えられます。TRALIとは、輸血後数時間以内に非心原性の急激な肺水腫による呼吸困難が起こる重篤な輸血副作用です。この場合は、すぐに輸血を中止します。また、副作用が重篤な場合、できるだけ太い留置針で静脈ラインを確保し、急速輸液やステロイド、利尿剤などを使用します。

 

4-1、血圧低下に対する下肢拳上

これまで血圧低下の患者には「下肢を拳上し、静脈還流を増加させて脳血流を維持する」ことが応急処置として考えられていました。しかし近年では、下肢拳上することで血圧が変化するというエビデンスが得られないという論文が多く発表されています(参考:透析中の下肢挙上による生体反応の検討)。

 

■下肢拳上による収縮期血圧の変化図

下肢拳上による収縮期血圧の変化図

下肢拳上は鬱血性心不全には禁忌となっています。下肢を挙上させると、心臓から血液が送り出せない上に多くの血液が心臓に戻ってくるため、心臓に負担がかかります。閉塞性動脈性硬化症や糖尿病など下肢の血流が悪い患者の場合も、末梢の血流障害が悪化することもあります。

薬物投与や外傷出血などがない血圧低下の患者の場合、すぐに仰臥位にすることが望ましいでしょう。血圧低下時は循環血液量が急激に減少しているため、身体をフラットな姿勢にすることで循環動態が良くなります。

また、医師の指示に従い、看護師が補液をすることもあります。モニター管理をできるだけ行い、与薬量や与薬時間などを適切に管理することが重要です。呼吸困難や酸素飽和度の低下の症状がある患者には、酸素の投与が必要なこともあります。その際は、医師の指示を仰いでください。

 

まとめ

急性的な血圧低下には様々な要因が考えられますが、患者の生命を維持するためにも多くの看護師が適切な判断や処置を身につける必要があります。「3-1、ショックの特徴的な症状・判断基準」や「4、ケース別にみる血圧低下時の看護ケア」の各項目を踏まえて、最適な処置方法を理解、習得してください。


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