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見当識障害を持つ患者への看護の取り組みと声かけにおける留意点

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見当識障害の看護

いま居る場所や日付、曜日がよく分からない。見たことのある人みたいだけどいったい誰?それが見当識障害です。失見当識ともいい、認知症の初期症状です。

筑波大学附属病院の調査1)によると、認知症患者は2012年で462万人、65歳以上の高齢者の7人に1人(15%)でした。また、内閣官房の2015年推定2)では、認知症の人は2025年に高齢者の5人に1人(700万人)、2040年に4〜5人に1人(800万人以上)としています。

このうちのかなりの人が見当識障害を通過していきます。認知症を根治する治療は定まっておらず、看護も症状に応じたケア的側面が強くなります。

 

1、見当識障害とは

見当識障害は認知症の初期からみられる中核症状の1つで、初期には「時」と「場所」に関する認識に障害が起きます。

認知症は、アルツハイマー型認知症と血管性認知症の2つで7割を超え、レビー小体型認知症、その他認知症(前頭側頭型認知症など)を合わせ、4大認知症ともいいます。

アルツハイマー型で4種類、レビー小体型で1種類の治療薬が認可されています(2016年現在。レビー小体型の薬はアルツハイマーの薬のうちの1つ)。根治薬ではありませんが、症状を緩和し、症状の進行を抑える効果があるとされています。

認知症|種類別にみる症状と看護計画・看護ケアのポイント

 

なお、高速道路での逆走事故(3年間で200人前後)3)や、全国の認知症の行方不明者(1年で5000人前後)など、認知症の増加は既に世の中に影響が出ています。

 

2、見当識障害の症状

見当識障害には初期には2つ、進行すれば3つの症状があります。「記憶」をつかさどる脳のどこかに障害が起きているとみられますが、原因ははっきり分かっていません。見当識障害の状態を診ることで認知症の進み具合を判定するための1要素になります。

 

■「時」の感覚が分からなくなる

例えば「あしたの夕方に出前を頼んでね」と頼んで「分かった」と答えたので安心していたらその日に頼んでしまうなどは、時間感覚に問題が生じたと考えられます。最も初期段階からあらわれる症状で「今日は何日?」に答えられないのは見当識障害でなくてもありますが「今日は何月?」に答えられないとなると、時間感覚にかなり問題が出てきたと考えられます。

レビー型ではカレンダーが見えていても、見えているものを正しく把握しにくいので、きちんと日付を読めないことがあります。老いれば次第にせっかちになりますが、予定に合わせて準備を順序よく重ねるとか、長時間待つのが難しくなると、見当識障害も疑います。

 

■「場所」の感覚が分からなくなる

通い慣れた場所に行くのが難しくなったり迷ったりします。迷うことは正常でもありますが、通い慣れた場所に行くのに迷うかどうか、が見当識障害のポイントです。

転居や、病気・けがによる入院など、自分をとりまく環境が変わると場所認識に混乱を起こす可能性があります。

 

この2つの症状は、進行すると、時間感覚では朝、昼、晩の区別がつかなくなり「昼夜逆転」がおきます。場所感覚では、自宅に居るのに自宅に帰りたいと言い張ることや、家の中でトイレの場所が分からなくなるなどの症状が出てきます。

 

■「人」が分からなくなる

早期段階では人の認識が難しくなることは少ないので、人の認識に問題が起きれば、かなり症状が進んできた可能性があります。アルツハイマーは時間や場所に比べ、人の認識はとりつくろう能力がありますが、症状が進めば家族に「どなたさんでしたかね?」と聞くようになります。

レビー型では早期から家族の認識ができなくなったり、子供の数を間違ってしまったりすることもあります。どの認知症でも病状が進めば、孫と娘と取り違えたりします。

 

3、見当識障害を呈する患者への看護

見当識障害に対しては、対症的な看護しかありません。認知症は、家族にとっては気の遠くなるような長い闘いですが、看護についても気の休まることの少ない難しい分野です。

 

看護目標
1.   患者とのコミュケーションが少しでもとれるようになる

2.   患者が規則正しい生活に少しでも近づけるように手助けをする

3.   患者が、少しでも落ち着いて行動できるようになる

つまり、

朝は、目覚めれば日を浴びて覚醒感覚をつかむ

昼は、散歩など外に出るようになる

夜は、持続した睡眠がとれるようになる

 

3-1、日課の意識づけと意欲向上への取り組み

■カレンダーを貼って毎日声に出してもらいましょう

見当識障害の出始めは、病室のベッドの横に大きな見やすいカレンダーを貼り、規則正しい生活を送るために毎日、今日の日付に印をつけてもらいます。それを日課に組み込みます。その時に「今日は、◯日、◯曜日です」と声に出してもらうと頭に残りやすくなります。

 

■時計を再三、見てもらいましょう

時計は、患者の人生経験によってアナログ・デジタルのどちらが良いかが異なります。本人にとって使いやすいもの、分かりやすいものがベストです。

いつも時計を持ち歩いてもらい「もうお昼ですね」「寝る時間が近いですね」と声かけを絶やさないようにしてください。認知症の患者に対しては、男女問わず声をかけることは大切です。

 

■生活リズムを定着させてあげましょう

朝は、日の光を入れて目覚め感をつけます。「今日はあたたかいですよ」など季節や日付を感じさせるような内容を意識して盛り込みます。

日中は、声かけ・働きかけを多くし、テレビや音楽、散歩などで活性化をはかります。夜は自然に眠くなるような活動量が望ましいでしょう。夜、眠れないときにはお茶やお菓子などもOKにします。

 

■散歩も大切な日課です

じっと病室にいることは脳への刺激が減って、認知症の進行を早めてしまうおそれがあります。病院内では限界もありますが、散歩は気分転換にもなります。

ただし、一度でも見当識障害の出た患者は、目を離さず一緒についてあげる必要があります。散歩のできない場合も窓を開けて日光を取り込み、明るさから昼夜の区別がつくようにしましょう。

 

3-2、不安・苦痛の緩和

■身体的不安の緩和

特に年配の患者にとってトイレの失敗は、精神的につらい経験として残ります。部屋やベッドをトイレの近くに変えてあげるなども1案です。ただし、変えることで混乱しないような工夫が必要です。ドアに大きく「トイレ」などと書いた紙を貼る等も大事です。

 

■精神的苦痛の緩和

不安や混乱をきたさないよう落ち着いて話を聞いて上げ、ゆっくりと行動しても構わないことを伝えて安心してもらうようにします。

 

4、声かけ・言葉における留意点

見当識障害は、認知症でも初期の症状です。患者自身も思い通りにならない心と身体に、不安や焦り、苦痛を覚えています。声かけするに当たっては2つの「決してしない」を大切にしてください。

 

■決して、怒ったり責めたりしない

見当識障害では、今日の日付や曜日が記憶から外れるため約束を取り違えたり、誰かと会う約束を忘れてしまったりします。場所の記憶が薄れるため、迷子になってしまいます。症状が進むと長年の知人すら「知らんな、こんな人」と平気で言います。

こうした症状は病気のために起きているのです。認知症の初期の人に怒ったり、責めたりすると、かえって興奮させてしまいます。自尊心を傷つけ、良いことはなにもありませんので、怒ったり責めたりすることのないよう注意して接するようにしてください。

 

■決して、本人を否定しない

自分の年齢を間違えたり、やがて介護士や看護師を家族と間違えたりするのは、見当識障害では当たり前の症状です。病院、施設にいるにもかかわらず「自宅にいる」と間違えることも多々あります。

患者の心のすべてが認知症になっているわけでありません。見当識が障害されていても正気な部分は残っていて、患者の側で無意識のうちに接する人が頼りになるか、ならないかをかぎわけているものです。決して患者本人の存在を否定したり、発言内容を頭ごなしに否定したりしてはなりません。

 

まとめ

認知症の初期症状である見当識障害は、数値で測れるものではなく、何気ない行動やしぐさから判断するしかありません。

認知症の根治治療が確立していない現在では、見当識障害についても対症的な看護しかありませんが、一人の高齢者の尊厳に重きを置いた上での対応が求められます。

 

参考文献

1)都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 筑波大学附属病院精神神経科

2)認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~の概要 内閣官房

3)高速道路における逆走の発生状況と今後の対策について NEXCO東日本


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