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爪切りの看護|その目的と適切な援助のための手順・注意点

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爪切り看護

寝たきりで体が動かせないような自分で爪を切れない患者に対して、看護の一環として爪切りをする必要がありますが、適切な方法で行わなければ患者の負担になってしまいます。

自分の爪を切るのと他人の爪を切るのとでは勝手が違いますので、患者の負担にならないよう、しっかりと適切な方法で行わなければいけません。

 

1、爪切りの目的

爪は伸び過ぎると皮膚を傷つけたり、爪の間に汚れや垢が溜まって雑菌が繁殖し不衛生になって感染につながるなどの問題があります。特に足の爪は伸び過ぎたり切り方に失敗すると歩きにくくなったり、痛くて歩けなかったりします。

さらに、足が痛いと歩く気力や運動量が低下したり、足を庇って転倒しやすくなるなど大きな問題があります。また、適切な爪切りをしないと巻き爪や爪の変形に悩むことになります。

看護における爪切りはそれらを予防し、さらに爪を切ったことにより患者に爽快感をもたらすことです。

 

・   伸びた爪による皮膚の損傷、爪の剥離・割れ、巻き爪を防ぐ

・   指先の爪の間の汚れによる感染を予防する

・   爽快感をもたらす

 

2、爪切りに必要な物品

爪切りを行う際には以下の物品を揃えます。

 

物品名 用途
爪切り 爪を切る
爪やすり 爪の切断面を滑らかに整える
不織布 下に敷いて爪や爪の削りかすを受け止める
温タオル 爪の汚れを拭いきれいにする
アルコール綿 爪周りを殺菌する
洗面器など 爪の洗浄のための手浴・足浴を行う場合に使用する

 

3、爪切りの看護手順

看護における爪切りは以下の手順にて実施します。

 

①     患者に爪を切ることを説明し、同意を得る

②     爪の様子を観察する

③     爪をしっかりと洗う

④     爪を切る

⑤     やすりをかけて整える

 

①患者に爪を切ることを説明し、同意を得る

爪切りの前に必ず患者の同意を得るようにします。爪切りは身体の一部を切除する行為であり、場合によっては皮膚に傷をつけて出血させてしまうこともあるため、必要性の説明に加え、患者の同意を得た上で行ってください。

 

②爪の様子を観察する

まず爪の様子を観察し、異常がないかを確認します。爪には、爪の病気だけでなく身体のどこかの病気が爪の異常となって現れる場合があり、その場合は爪の全てに同じような変化が現れます。

例えば、肝硬変や慢性腎障害では爪がまるで擦りガラスのように白く濁ったようになります。心臓や肺に異常がある場合には、爪が丸く膨らみ、まるで太鼓を打つバチのようになります。貧血や甲状腺の病気になると爪の中央がくぼみスプーンのようになったり、爪の丸みが無くなって平になったりします。他にも栄養バランスが悪かったり爪の周囲の皮膚炎などが原因で爪に異常が出ます。

爪は健康のバロメーターとして機能しますので、看護で爪切りをする場合は患者の健康状態を確認するつもりでよく観察してください。

観察のポイント
・   色や形が変わっていないか

・   伸び過ぎていないか

・   割れ、はがれ、肥厚、巻き爪はないか

 

③爪をしっかりと洗う

可能であれば入浴後の爪が柔らかく清潔な状態で爪切りを行います。爪を洗う際は、爪ブラシで爪と皮膚の間を傷つけないように優しく洗います。入浴ができない場合は洗面器にお湯を入れて手先や足先をつけ、爪部分だけでも洗うようにします。または温タオルで爪の汚れを取り除いてしばらく温めて爪を柔らかくします。最後にアルコール綿で爪周囲を拭き、殺菌します。

 

④爪を切る

不織布を手や足の下に敷きます。入浴後の爪が柔らかいうちに爪を切ります。一度で切ろうとせず、何回かに分けて少しずつ切るようにします。厚くて硬い爪は始めにやすりで表面を削って薄くすると簡単に切ることが出来ます。爪の先には白い部分が1ミリ程度残るように、また爪が真っ直ぐなるように切ることが大切です。

爪を切る

出典:フットケアについて 医療法人社団 翔未会 金町腎クリニック

 

⑤やすりをかけて整える

爪を切り終わったら爪にやすりをかけ、爪の切り口が滑らかになるようにします。やすりは爪に対して一定方向に向かって動かし、爪が滑らかになるまで何度か繰り返します。爪がとがっていると皮膚をひっかいて傷を作ってしまうことがあるので、丁寧にやすりをかけて触っても引っ掛かりが無いようにきれいに整えます。やすりがけが終わったら温タオルなどで爪の表面を拭い、汚れを落としてきれいにします。

 

4、爪切りを医療行為として行って起きた裁判

看護の中で爪切りを医療行為として行った結果、裁判となって有罪判決が下されたことがあります。2審で無罪とされましたが、この事件の結果、看護師が爪ケアを萎縮するようになってしまったことがありました。この事件は看護現場における爪切り行為および看護行為全般に対して重要な示唆を与えるものだったので、ここに事件のあらましをご説明します。

 

事件の発端は看護課長がとある患者の右親指の肥厚爪に対して爪切りを行ったことでした。その時、看護課長は右親指にわずかに血が滲んだために綿花をあてました。翌日、患者の家族が綿花に気付き、看護師Aが看護課長に疑念を抱き、主任に報告します。

3日後、別の患者にて右足親指の肥厚爪を看護課長が爪切りをし、これを見た看護師Aが「課長が爪を剥いだ」と主任と同僚に報告し、一連の騒動を受けて看護部長が看護課長に自宅謹慎を命じました。そして看護師の誰かが新聞社に患者の爪の写真などを持ち込み、記者が病院に取材に来たところ、病院は急きょ記者会見を開いて爪切り騒動を「虐待」と発表しました。病院は翌日強制捜査を受け、看護課長は傷害罪で逮捕されてしまいます。

罪状は「当時70歳のFさんの右第1趾、右第3趾の各爪を、爪切り用ニッパーを使用するなどして剥離させ、よって、同人を全治まで約10日間を要する機械性爪甲剥離の傷害を負わせた」というものでした。

 

一審裁判所の判決で、看護課長は「懲役6ヶ月執行猶予3年」の有罪判決がおりました。爪切りは本来看護行為として認められていましたが、本件においては①患者が高齢の認知症である、②看護課長に出血や痛みが多少あっても構わないという考えがあり、爪を深く切った、③看護課長が爪切り自体に楽しみを覚え、看護行為ではなく爪切り自体を目的にした、④家族らに虚偽の説明をした、⑤看護師の間で爪切りがフットケアであるという認識が共有されていなかった、として看護行為といえないとされました。

ところが控訴審においては看護課長の爪切りが爪の状態に対する処置として適切であったことが証明され、一転無罪になりました。しかし、看護課長は逮捕された当日に病院を懲戒解雇され、医療虐待認定まで出されてしまっています。

 

本件の本質は、「医療現場における連携の問題」であって、爪切り行為自体には問題はありません。看護課長の爪切り行為は極めて適切な処置であったものの、患者の家族や他の看護師からは「爪剥ぎ」の虐待と認識されました。

看護課長は高齢患者の爪が放置されている状況を鑑み、独力に本件で問題となった爪切り技術を習得しましたが、それを知らない他者から見ると看護行為とは認識されなかったわけです。

看護課長が家族への説明をしっかり行い、また他の看護師・医師に対して爪の処置方法を共有し、看護行為の一環であると認識させていれば起こらなかった事件と言えます。看護の現場では独自の行為は自分では患者のためにしているつもりでも他者から見るとそうは見られない場合があると言うことを証明する事件でした。

 

患者・家族・他の看護師や医師との連携なしで行う看護行為は極めて危険な行為です。現場での連携を密に、情報共有の行き渡った看護を行うように常に心がけましょう。

 

まとめ

適切な爪切りは患者の衛生状態を改善し、無用な怪我の予防に繋がります。また、爪を観察することで患者の健康状態を知ることができるので、爪切りは現在の医療行為が適切なものか判断する良い機会でもあります。

一方で爪切りは患者の身体の一部を切除する行為ですので、爪を丸ごと切除するような処置をする時は患者・家族・他の看護師や医師にきちんと説明し、同意と理解を得て行うようにしましょう。


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