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局所麻酔の看護|術中・術後の観察と副作用・合併症

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局所麻酔

緊急処置や手術など、幅広い治療に行われる局所麻酔。治療に伴う局部の痛みを消失させ、治療がスムーズに行えるという利点がある反面、副作用・合併症の発症率は高く、重篤化するケースも珍しくはありません。

特に中毒症状やショック症状は重篤化しやすく、また軽度症状から瞬時に重篤化することもあるため、綿密な観察による早期発見・早期対処が必要不可欠です。

局所麻酔に関わりのある看護師は、患者が安心・安全・安楽に治療に専念できるよう、局所麻酔に用いられる薬剤の種類や起こりうる副作用・合併症、早期に発見するための観察・看護などにおける知識を深めておいてください。

 

1、局所麻酔とは

局所麻酔とは、手術部位の痛みの原因となる神経の伝達を遮断するために行われる麻酔法のことを言います。

麻酔には大きく分けて全身麻酔と局所麻酔がありますが、全身麻酔は脳内の神経を麻痺させ、さらに意識を消失させる作用を持っていますが、局所麻酔は局部の鎮痛作用のみで、一般的に意識を消失させる作用は持っていません。ゆえに、全身麻酔と局所麻酔の作用機序は全く異なります。

局所麻酔には、「表面麻酔」「浸潤麻酔」「伝達麻酔」「硬膜外麻酔」「脊髄麻酔(くも膜下)」など実に多くの種類が存在し、それぞれは手術部位や方法によって使い分けられています。

また、近年では医療技術の進歩に伴い、安全性や術後の疼痛管理を考慮して「硬膜外麻酔」「脊髄麻酔(くも膜下)」と全身麻酔の併用が増加しています。

局所麻酔には鎮痛作用があることで手術を円滑に行える、患者の負担を大きく軽減できるという利点が存在する反面、副作用や合併症の発症率は低くなく、重篤化するケースも珍しくはありません。

重篤化を防ぐためには早期発見・早期対処が非常に大切であるため、オペ室看護師・看護麻酔師(CRNA)は術中、病棟看護師は術後に起こりうる副作用・合併症を常に念頭に置き、綿密に観察を行うことが求められます。

 

2、局所麻酔の利点・欠点

局所麻酔には、呼吸抑制がないなど全身麻酔と比べて副作用・合併症が少なく、侵襲性が低いことが最大の利点と言えます。

全身麻酔に用いられる薬剤には呼吸を抑制する作用があるため、術中には気管挿管ならびに人工呼吸器による呼吸管理が必要不可欠です。また、術後にも呼吸抑制は残るため、より綿密な観察が必要となりますが、局所麻酔薬の使用量は少量で済み、呼吸抑制が生じないことから患者にとって安全であり、より容易に患者の管理を行うことができます。

また、術後の疼痛管理に優れている点も利点に挙げられます。医療技術の発展に伴い、硬膜外麻酔は全身麻酔と併用されることが多くなっており、術後の鎮痛にも利用することができます。さらに、薬剤の使用量が少ないことで術後の回復が早いという利点も存在します。

その反面、全身麻酔よりも手技が困難であるという欠点もあります。特に硬膜外麻酔の手技は容易なものではなく、不適切な手技による骨髄液への漏出、くも膜下腔への誤注、神経損傷、それに伴う永久的な髄神経麻痺もこれまでにいくつか報告されています。

その他、覚醒した状態で手術を行うため、患者が不安やストレスを感じ手術が困難となる場合がある、術中の記憶がトラウマになるなどの欠点も存在します。

 

利点 欠点
・  侵襲性が低い

・  副作用・合併症が少ない

・  術後の回復が早い

・  術後の鎮痛管理に利用できる

・  費用負担が少ない

・  手技が困難

・  覚醒による不安・ストレス

・  麻酔の効果が不確実

・  幼児には使用が困難

 

3、局所麻酔の種類

続いて、局所麻酔の種類についてご説明します。局所麻酔には「表面麻酔」「浸潤麻酔」「伝達麻酔」「硬膜外麻酔」「脊髄麻酔(くも膜下)」と多くの種類が存在します。

作用機序や手技、適応症例は麻酔法によって大きく異なりますので、それぞれがどのような麻酔法なのか知っておきましょう。

 

局所麻酔法

表面麻酔 皮膚や粘膜の表面に直接的に麻酔薬を塗布し、皮下へ浸透させて神経終末に作用させる方法が表面麻酔です。口腔内(喉頭)・鼻腔内へのスプレーや眼球の手術、外傷、火傷、潰瘍の疼痛除去などに用いられています。
浸潤麻酔 皮内または皮下に麻酔薬を注射し、麻酔薬の及ぶ範囲の神経を遮断します。副作用が比較的少なく、簡便に実施できることから手術よりも簡易的な治療に広く使用され、特に歯科治療においては第一選択となっています。
伝達麻酔 末梢神経の中枢側付近に麻酔薬を注入し、神経の支配領域を無痛にする方法が伝達麻酔です。これも簡易的な治療に広く使用されており、主に歯科領域では下顎神経ブロックに、全身的には四肢の骨折の手術時など、広範囲に使用されています。
硬膜外麻酔 椎管内面の骨膜および靭帯と硬膜との間にある骨膜外腔に麻酔を注入し、知覚神経ならびに交感神経を直接的に遮断する麻酔法。頭部・顔面以外のすべての部位が適応となり、開腹手術や胸部などの中・大規模な手術の際には全身麻酔と併用して使用されています。また、術後の疼痛管理にも多く利用されています。
脊髄麻酔 くも膜下腔に麻酔薬を注入し、下半身の神経を抑制させるために行われます。脊髄損傷を防ぐために穿刺部位は第2腰椎以下を原則とし、また適切な刺入を促すために基本的には側臥位で行います。

 

基本的には、「表面麻酔」「浸潤麻酔」「伝達麻酔」の3つの麻酔法は手術部位が狭範または容易な手術の際に実施され、「硬膜外麻酔」「脊髄麻酔」は比較的規模の大きな手術に実施されています。

 

4、局所麻酔の使用薬剤

局所麻酔に使用される薬剤は多岐に渡り、主にエステル型の「コカイン」「プロカイン」「テトラカイン」、アミド型の「ジブカイン」「リドカイン」「ブピバカイン」が使用されています。

これらは手術部位や麻酔法などによって使い分けられ、各薬剤によって作用機序や作用持続時間、毒性、適応は異なります。

副作用・合併症においては、一般的にアミド型は麻酔薬中毒に陥りやすく、エステル型はアナフィラキシーショックの発症率が高いなど、使用する薬剤によって術中・術後の患者に対する観察・看護も異なります。

 

エステル型

  コカイン プロカイン テトラカイン
効力 弱い 弱い 強い
作用発現 <1min 2-5min 2-5min
持続時間 1h 1h 2-3h
毒性 中程度 弱い 強い
適応 表面麻酔 浸潤、伝達、硬膜外、脊髄麻酔 すべて

 

アミド型

  ジブカイン リドカイン ブピバカイン
効力 非常に強い 弱い 強い
作用発現 10min 2-3min 3-5min
持続時間 2.5-3h 1-1.5h 3-5h
毒性 非常に強い 弱い 強い
適応 すべて すべて 浸潤、伝達、硬膜外、脊髄麻酔

 

4-1、エステル型

コカイン

概要 最初期のエステル型局所麻酔薬であり、組織浸透性が高いことで表面麻酔の際に用いられています。比較的高い鎮痛効果をもたらし、作用発現は1分以内と即効性に優れている反面、覚醒レベルが高い、疲労感を忘れ去せる、多幸感をもたらす、精神的な持久力を増強させるなどの作用により、依存性が高く中毒に陥る患者も少なくありません。そのため、これら精神的・依存的副作用を懸念して現在では使用頻度は少なくなってきています。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心、嘔吐、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)、角膜障害、依存性・中毒性
禁忌 緑内障の患者(眼科用として用いる場合)、コカインに対して過敏症のある患者

 

プロカイン(ノボカイン)

概要 中毒性の少ない最も安全な局所麻酔薬。組織浸透性が弱いため、表面麻酔には用いることができません。心臓に対する作用(心筋の興奮性・刺激伝導系の抑制)があるため、局所麻酔薬としてだけでなく不整脈の治療薬としても用いられています。血管拡張作用によりアドレナリンの併用が不可欠。毒性は極めて低いものの、アミド型よりもアナフィラキシーショックを起こしやすいという欠点も存在します。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心・悪寒、蕁麻疹・浮腫、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)
禁忌 重篤な出血・ショック状態の患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、注射部位またはその周辺に炎症のある患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、敗血症の患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、メトヘモグロビン血症の患者(脊髄麻酔除く)、プロカインに対して過敏症のある患者

 

テトラカイン

概要 エステル型の中で最も高い効力と毒性を有する局所麻酔薬。適応範囲は広範であるものの、毒性が強いため、主に表面麻酔と脊髄麻酔に使用されています。毒性が強いために通常は他の局所麻酔薬が使用されますが、同時に効力も強く太い神経幹にも長く作用するため、激しい痛みを伴う手術の際に多用されています。ただし、作用発現時間が遅いことで使用量が多くなり、さらに他のエステル型と比べて分解速度が遅いため、中毒症の発症率が高い傾向にあります。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心・悪寒、蕁麻疹・浮腫、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)
禁忌 重篤な出血・ショック状態の患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、注射部位またはその周辺に炎症のある患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、敗血症の患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、髄膜炎・脊髄癆・灰白脊髄炎などの患者(硬膜外・脊髄麻酔時)、テトラカインに対して過敏症のある患者

 

4-2、アミド型

ジブカイン(ヌペルカイン)

概要 アミド型で最も古い局所麻酔薬。数ある局所麻酔の中でも効力・毒性ともに非常に強く、その強力な毒性を利用して神経破壊薬のブロックの代わりとしても使用されています。なお、適応範囲は広範ですが、強力な毒性により基本的には脊髄麻酔の際にのみ使用されています。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心・悪寒、蕁麻疹・浮腫、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)、馬尾症候群
禁忌 重篤な出血・ショック状態の患者、注射部位またはその周辺に炎症のある患者、敗血症の患者、髄膜炎・脊髄癆・灰白脊髄炎などの患者、ジブカインに対して過敏症のある患者

 

リドカイン(キシロカイン)

概要 数ある局所麻酔薬の中でも安全性が高く広範に使用可能。局所麻酔作用としてだけでなく、不整脈の治療や全身投与によるガン性疼痛・神経障害性疼痛の鎮痛薬としても使用されています。また、静脈注用に加え、スプレー・ゼリー(表面麻酔)、テープ一般(静脈留置針穿刺時の疼痛緩和)、ペンレステープ(伝染性軟属腫摘除時・皮膚レーザー照射療法時の疼痛緩和)など、さまざま形態で用いられています。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心・悪寒、蕁麻疹・浮腫、せん妄、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)、刺激伝導系抑制、悪性高熱
禁忌 重篤な刺激伝導障害(完全房室ブロックなど)のある患者、リドカインに対して過敏症のある患者

 

ブピバカイン(マーカイン)

概要 最も長い作用持続時間を有する局所麻酔薬。リドカインと比較して神経ブロックでは2~5倍、硬膜外ブロックでは1.5~5倍程度の持続時間を有しています。麻酔範囲の広がりが緩徐であり、作用発現時間が短く作用持続時間が長いことで、特に下肢の麻酔(脊髄麻酔)に適しています。
副作用・合併症 頭痛、眠気、不安、興奮、霧視、眩暈、悪心・悪寒、蕁麻疹・浮腫、せん妄、ショック症状(初期症状:血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)、中毒症状(振戦・痙攣など)
禁忌 重篤な出血・ショック状態の患者、注射部位またはその周辺に炎症のある患者、敗血症の患者、髄膜炎・脊髄癆・灰白脊髄炎などの患者、脊椎に結核・脊椎炎・転移性腫瘍などの活動性疾患のある患者(脊髄麻酔)、ブピバカインに対して過敏症のある患者

 

5、術中・術後の観察・看護

上記のように、局所麻酔で用いられる薬剤は数多く存在し、手術部位や麻酔法によって使い分けられています。すべての麻酔薬に共通する副作用には、頭痛、眠気・不安・興奮・霧視・眩暈・悪心・悪寒・蕁麻疹・浮腫などがありますが、ほとんどが一過性であるため、通常は経過観察で構いません。

合併症には、ショック症状・中毒症状があり、上述した副作用やショックの初期症状(血圧低下・顔面蒼白・脈拍の異常・呼吸抑制など)から重度のショック・中毒症状に移行することもあります。ゆえに、術中・術後ともに患者のバイタルサインや全身状態の綿密な観察が非常に重要であり、特に術後の早期発見・早期対処の能否は看護師にかかっていると言っても過言ではありません。

 

5-1、術中合併症における観察・看護

中毒症状

典型的には、血中の麻酔薬の濃度が高まることで、眩暈や耳鳴り、口周辺のしびれなどの軽度な症状から始まり、さらに濃度が高まると多弁や興奮状態、その後には振戦、痙攣、意識消失、昏睡、呼吸停止のほか、急激な血圧の低下、徐脈・頻脈、心室性不整脈、心停止など重篤な症状へと移行します。

重篤化を防ぐためには何より早期発見・早期対処が重要であるため、患者のバイタルサインや全身状態の入念な観察が非常に大切です。血中濃度を体外からモニターすることが困難であるため、初期症状の段階で対処できるよう入念に観察してください。

上記の症状が現れた際には直ちに使用薬剤の投与を中止し、酸素投与や気道確保の後、ジアゼパムまたは超短時間作用型バルビツール酸製剤(チオペンタールナトリウムなど)の投与を行い、症状の消失を図ります。

 

ショック症状

麻酔薬によるショック症状は、一般的にまず眩暈や浮動感、平衡感覚の異常、聴覚の異常、発汗などがみられ、進行すると顔面蒼白、目の痒み、結膜の腫脹、皮膚症状(紅斑・発赤・掻痒・血管浮腫・蕁麻疹)、鼻症状(鼻の掻痒・鼻閉・鼻水)、口唇および舌の腫脹、顔面浮腫が発現します。

さらに進行すると、消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛・下痢)、循環器症状(血圧低下・頻脈または徐脈・不整脈・循環虚脱)、呼吸器症状(上気道浮腫・嗄声・喉頭絞扼感・喘鳴・呼吸困難・胸部絞扼感・気管支痙攣・ラ音聴取・呼吸停止)、中枢神経症状(昏迷・意識喪失・痙攣)などの症状がみられます。

一般的な出現時間は注入後5分~30分程度と幅があるため、30分はバイタルサインや患者の全身状態を綿密に観察しなければいけません。また、数時間後に発症することも珍しくはないため、特に手術時間が短いケースでは術後にも綿密な観察が不可欠です。

ショック症状発現時には、直ちに麻酔薬の注入を中止し、酸素投与や気道確保、仰臥位での下肢挙上、輸液とともにアドレナリン、H1ブロッカー・H2ブロッカー、コルチコステロイドなどを投与し症状の消失を図ります。

 

副作用

術中においては、軽度な副作用だからと言って軽視すべきではありません。副作用からショックや中毒症状に移行するケースも珍しくはなく、急激に症状が進行する場合もあります。特に麻酔薬の注入から30分程度は、症状の増悪の程度、新出現の症状を綿密に観察してください。

術後においても、低頻度ではあるものの軽度な副作用からショックや中毒症状に移行することがあります。麻酔の持続時間が終わっても観察を続けてください。また、しっかり傾聴し、疼痛があれば鎮痛薬(経口)の処方、体位指導、飲食指導などを行い、精神的なサポートも同時進行で行ってください。

 

まとめ

局所麻酔における重篤な合併症の発症率はおおむね1%以下ですが、軽度な副作用は頻発しており、術後に副作用で悩む患者は少なくありません。

通常は時間とともに消失していきますが、症状の程度が大きい場合には患者のQOLは著しく低下します。訴えの少ない患者もいますので、視覚的な観察はもちろん、しっかり傾聴し患者のニードを最大限満たせるよう努めてください。

術後患者に対する看護師の役割は非常に大きいため、精神的安楽への援助も忘れずに、包括的に寄り添う看護を提供していってください。


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